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23 暴走ロボットを追って

 長机の上を走り続ける虫型のロボット。


 花びんや絵や茶碗など、周囲には他の人の展示物も並べられていたが、センサーが機能しているらしく、くねくねとよけながら進んでゆく。

 だが、完璧とはいかないようで、ペーパークラフトの帆船をバチッとかすめた。

 スイカ半分ほどの大きさの船が、ぐらりと揺れる。

「ぬおっ!」

 ロタは低音でうめきつつ、とっさに両手で帆船の模型を支える。倒れるギリギリで止めた。もし倒れていたら、周りの展示品を巻き込んで、何らかの被害は出たかもしれぬ。

「済みませんっ!」

 ロボットを捕まえようとしていたシュレナが、ロタを振り向いて礼を述べる。

 しかし、


 ガチャン!


 大きな音に、前へ向き直る。

 ロボットが床に落ちたのだ。

 そのまま、机の脚をジグザグによけて、高速で歩行。

 机の下を、浅く、出たり入ったり。


「むかつく!」

 強い鼻息と共に、シュレナはいら立ちの声を上げつつ、ガバッとその場にしゃがみ、腹ばいに机の下へ潜る。

(うわっ、おいおい!)

 ロタはギョッとして息をのむ。

 シュレナがスカート姿で無防備にしゃがみ込んだため、裾が激しく乱れたからだ。

 が、赤いワンピースの中は、赤いハーフパンツであった。恐らく、体育の授業で使う物であろう。ポケットも付いている。

 ワンピースは一瞬だけ腰までめくれ上がり、シュレナの色白の膝の裏や、ふくらはぎ、赤いハーフパンツの後部があらわになったが、

「んっ!」

 床に伏せたシュレナが、気合いを込め、机の下へ左腕を伸ばした時、体が傾いて、スカートの裾はパサッと尻の方へ戻った。

(ふうー)

 ホッとしたロタが、かがんで手助けをしようとしたところへ、急にシュレナが立って振り向いたので、

「おうっと」

 と、ロタは少しのけぞる。ぶつかりそうだった。

「捕まえました!」

 と、シュレナ。眼鏡越しの瞳は、動揺や緊張でギラついている。


 眼前のシュレナのひたいに、今さらのように、微細な汗の玉がふつふつと幾つもふくらむ。

 左手に握られた銀色のロボットは、六本の脚をギギギギギッと激しく曲げたり伸ばしたり。

 とはいえ、それも数秒後には遅くなり始め、やがて完全に止まり、虫の「目」に当たる発光ダイオードもフッと消えた。

 ゼンマイの効果がなくなり、電源が切れたわけである。


 取りあえずは一安心だが、

「ごめんなさい。原因は私だよね」

 イリカの遠慮がちな声が頭上から響いてきて、ロタとシュレナが同時に首を回し、長身のイリカを見上げる。

(うっ)

 イリカの表情は、誰が見ても分かるほど、はっきりと悲しげなものであった。

 まゆ毛の外側の端を下げ、瞳は半開き、唇はやや内側へ巻き込むような閉じ方。

 イリカには感情はないはずだが、目の前の状況をよほどマイナスと認識しない限りは、このような暗い顔にはならない。

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