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21 シュレナビートル、電源オン

 広い部屋には、幾つかの長机が配置され、様々な作品が並べられていた。

 作品の前には、机上にカードが貼られ、タイトルと作者名。

 ロタがざっと見た限り、展示物は生け花、焼き物、模型等が多い。

 シュレナが出品しているロボットは異質だ。


 シュレナ手製ロボットの周りには、四角く、プラスチックの囲いが出来ていた。スペースは、大きめの弁当箱四つ分くらい。

「これは、ロボットが逃げないように?」

 ロタの質問に、

「そうです。あんまり動かないんですけど、一応」

 シュレナが軽く笑う。

 机の側面に紙片が垂らされ、説明書きが。それを読んだロタは、

「名前はシュレナビートルか。で、後ろのゼンマイを巻くわけか」

「はい」

「持ち上げて巻くんですか?」

「です。さあ」

 ロタに片手を差し出し、シュレナが勧める。

「イリカ、やる?」

 横に立つイリカへ問うと、

「ゼンマイ巻くのは無理かも」

 と、ロタを見下ろし、イリカが首を振る。

「ああ、かもな。済まん」

 ロタは納得し、頭を下げた。

 イリカの手は、複雑な動作は出来ないのである。

 例えば料理をする時も、簡易な盛り付けを手伝える程度。


(おお、結構重いな)

 ロタが左手でそっと持ち上げると、虫型ロボットの脚が六本、机から離れ、だらりと宙に垂れた。金属の細い脚には関節もあり、柔らかく曲がる。

 上からの眺めは、左右に脚の生えた小箱。丸みも帯びた繊細なフォルム。

 主に銀色。天井の明かりを反射させ、鈍く光っている。

(材料は何だろう。廃材とかかなあ)

 聞いてみたかったが、近くに立つシュレナは、腕を下ろして、赤ワンピースのすそ辺りで拳を握り、こちらをじっと見つめている。「早くして」と言いたげに。

(黙って、さっさと動かした方がいいか)

 ロタは、後部のゼンマイを右手でキリキリと巻き、再びロボットを机の囲いの中へ置いた。

 一秒後、虫の「目」に当たる場所の発光ダイオードが二つ、オレンジ色に点灯。

「起動したね」

 と、イリカ。

 電源が入ったわけである。


 キー……と、かすかな機械音。

 続いて、前脚から順にゆっくり持ち上がる。

 体をくねらせるように、左右の脚を上げ下ろしして、囲いの中をググッ、ググッと前進。その動作は、弱った昆虫か小動物のようだ。


 シュレナが解説する。

 慣れた口調。日曜から今日まで、既に何度も繰り返したのだろう。 

「ゼンマイが電源スイッチであり、ゼンマイが戻るまでが起動継続時間です。

 また、ゼンマイが動力ですが、内蔵された小型人工知能がそれを制御してます」

 貼り紙の説明をなぞったものだが、ロタは更に質問する。

「ということは、ゼンマイの単純な動きを、デジタルで複雑化してる感じですか?」

「さすが。そうです。光や障害物を感知します」

 うなずいてシュレナは笑ったが、少し緊張気味であった。

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