2 観察眼対オッドアイ
たった今、眼前の女性の存在に気付いたシュレナ。
(そんなバカな。あり得るの?)
長身の女性は、首から下が布ですっぽり覆われていた。無地で、紺一色。
ケープというか、マントというか。膝まで隠れている。
この場所は高架線の下。薄暗い。
加えて、女性の全身紺色の衣装。
(た、確かに、周囲と同化しやすいとは思うけど。
それに、転倒して私も焦ってたから。
数秒間なら分からなくもない。でも、幾ら何でも)
シュレナは考え込む。
今、この老人と会話したのは三分程度。
(人間がもう一人そばにいるのに、三分も気付かないって、おかしいでしょ。絶対おかしい。
あっ!
ま、待てよ。まさかとは思うけど、この女の子、もしかして……)
突如、ある思い付きがシュレナに浮かぶ。
と、その時だ。
目の前の女性が首をかしげ、シューッという、空気を吐くような音がかすかに漏れた。
ケープ越しに、首もとから聞こえてきた。
「ああっ、やっぱりそうだっ!」
思い付きが確信へ変わり、シュレナは叫んでいた。
大声を上げた少女に、老人は驚きの色で、
「ええと、どうしたの?」
自分の思い付きに熱中し切ったシュレナは、立て続けにしゃべる。
若さから来る大胆さもあったろう。何せ、まだ十代前半なのだ。
「この子、ロボットでしょ?」
すると、老人は口を小さく開いたまま固まる。
「えっ」と言おうとして、声が出なかった様子。
(うわっ、この反応、図星じゃん!
でも、ストレート過ぎたかな?)
焦りも浮かんだシュレナだったが。
その思いも一瞬しか続かなかった。
場は沈黙とはならなかったからである。
すぐに声を発したのだ。
初対面の中学生からロボット呼ばわりされた、この長身の女性が。
「どうしてそう思うの?」
緑と青の瞳に見つめられ、息をのむシュレナ。
だが、女性の口調は静かだ。柔らかな高い声。
しかも、唇が笑みの形にほぐれていた。
仮にこの女性がロボットだとしたら、
(感情なんて、ないのかも。けど、警戒はされてないみたい。いや、根拠はないけど……)
女性の微笑は、不思議とシュレナを落ち着かせた。
それとともに、今の無礼な発言への自己嫌悪も薄れ、つい、シュレナは好奇心のまま説明を始めてしまう。
「まずは、気配を全く感じなかったこと」
「気配?」
と口を挟んだ老人へも、シュレナはちらりと視線を送り、うなずきつつ、
「はい。普通は、人がもう一人近くにいれば気付くはず。
でも、今、声をかけられるまで、私はこの女の人の存在に気付かなかった」
老人が、何か言いたそうに「むう」とうなる。
が、オッドアイの長身女性は、かぶせるように、
「それから?」
と、シュレナに先を促した。