19 文化展示会、先客あり
日曜・初日で混むはず
月曜・平日初日で混むはず
火曜・外は土砂降り
水曜・イリカの動作が不安定
つい、延ばし延ばしになっていた。
展示会の会期は土曜まで。
「行くとしたら明日かなあ」
水曜の夜、自宅にてロタがつぶやくと、
「金、土は混むだろうしね」
と、イリカ。
リビングで、夕食後、二人向き合って座り、くつろいでいるところだ。
シュレナの作品展示は、「可能なら見に行ってあげよう」ということで、ロタとイリカの意見は一致していた。
ただ、ロボットであるイリカは外見が目立つ上、歩くのも遅い。人が少ない時に行きたいのだ。
「先日の下見で分かったが、午前中はサークルとかで、人の出入りが多い。
受付に聞いたら、閉館間際がすいてるようだ」
「じゃあ、明日は四時頃うちを出ようか」
イリカの提案に、
「ああ」
ロタは同意する。閉館は七時。
翌日、自宅の駐車場。
銀色と黒のワゴン車、愛称「イリカ号」に乗る。
助手席がイリカ専用仕様で、太い脚などもすっぽり収まる。また、簡易な充電機能なども搭載。
イリカとの外出はいつもこれだ。
下見はロタ一人だったため、電車を使ったが。
そもそも、シュレナと最初に出会った駅前は、ロタの思い出の場所。
かつての職場の最寄り駅なのだ。
そこを散歩中に、突然、シュレナに腕をつかまれたわけである。
家からは遠い。以前、ロタは片道二時間の遠距離通勤をしていた。
(俺と、シュレナさんの生活圏が離れてたのは幸いだったよな。
いざとなったら逃げられるし)
ワゴン車を運転しながら、改めてそう思うロタ。
(考えてみれば、現役の頃に通った職場付近の店も、定年後は全然行ってないしなあ)
やがて、車は目的地へ着いた。
市民ギャラリー前の屋外駐車場に車を停め、二人で入り口へ向かう。
午後六時過ぎ。辺りは暗く、月が出ていた。人は少ない。
ロタは、ネクタイなしのスーツ姿。
イリカは、紺色のケープ。ロボットのボディーを隠すために、外出時は毎度この格好だ。
「裏口から入ろう。段差が小さいし、すぐエレベーターもあるから」
「うん」
ロタの案内にうなずきつつ、膝を曲げ伸ばしして、イリカは一歩一歩、地面を踏み締める。
四階建ての施設内に入る。
無人の廊下に、イリカの一定の足音がガシャッ、ガシャッと反響する。
エレベーターで、二階の多目的室へ。ドアは開放されており、中の長机が見えた。
「ここだ、着いたぜ」
イリカを振り返りつつ、ロタが先に入る。
(あっ、人がいた)
広い部屋に、一人だけ先客がいた。
赤いワンピースの女性。
(あーあ、誰もいないかと思ったのに。まあ一人ならいいか)
ロタは思ったが、次の瞬間、
「ああっ、シュレナさん!」
「気付くの遅くね?」
ワンピース姿のシュレナが苦笑した。