18 学校、ギャラリー、部長は御多忙
それから四日後。水曜日。四月上旬。
朝、始業前。ケミホ中学校の教室。二階、二年一組。
窓際の後方に、談笑する女生徒二人。
自席に座るシュレナと、すぐ左の窓枠に腰かけ、脚をぶらぶらさせるユツコ。
ユツコはクラスメイト、髪はショートカット。
膝小僧にばんそうこう。ソフトボール部の活動によるもの。
まだ予鈴も鳴ってはおらず、他の生徒は登校してきている最中である。この教室も、半分ほどしか埋まっていない。
「昨日の部活説明会、シュレの説明、無難だったねー」
シュレナを見下ろし、ユツコがニヤッとする。
体育館での、新入生説明会のことである。
ほおづえで苦笑いし、
「ソフトはいいよね、みんな帽子とユニフォームで、ズラッと並んでさあ。
私なんか一人だからなー。持ち時間も二分だったしさ」
と、フーッとため息のシュレナ。
割り当て時間は、部員の人数比で配分されていた。
「もっとしゃべりたかった?」
「まさか」
昨日は、文章を書いた紙を読み上げるだけでいっぱいいっぱいであった。
シュレナは社交的ではあるが、大勢の前で話すのは得意ではない。
「昨日の放課後も、見学者、来なかったしなあ」
シュレナがぼやく。市民ギャラリーの方も気になっていたのに、昨日は夕方遅くまで部室で待っていたのである。
「理学研は、部室が外だもんね。昨日は雨だったし」
と、ユツコが黒々と澄んだ瞳を、気の毒そうに細めた時、
「よーう、シュレナ、お前、今日もズボンかよ。色気ねえな」
男子の無遠慮な声。クラスメイトのガイチだ。
今、登校してきたところで、近くの自席の机にカバンをドカッと置きながらの発言。
日焼けし、前髪を立てた長身。腕まくりしたブレザーの制服。
「うっせ」
振り返ってガイチをにらみ、舌打ちするシュレナ。
仲は悪くないし、そこそこイケメンなのだが、
(このセクハラは、ほんと、何とかしろよ)
と、時々思う。
「朝来た第一声がそれかよ。キモ」
窓枠から床へぴょんと飛び下りつつ、ユツコの言葉もとがる。
ユツコのスカートがふわりと舞い、膝のばんそうこうを紺色のすそが隠した。
「おお、こわ」
ガイチが苦笑して、前へ向き直る。
そこへ、割って入るように予鈴のチャイムが響いた。
(今日は、放課後の時間配分どうしよっかなー)
そのあとの授業中、シュレナは何度も考える。
(一応、一時間くらい部室に詰めて、新入生を待つか。
で、四時半に下校して、市民ギャラリーに寄ろう)
ギャラリーの展示は夜七時まで。
昨日は行けなかったが、その前の月曜は夕方、日曜は午前午後、顔を出していた。
既に家族や友人たちは見に来てくれたが、どうやら、イリカとロタが見に来た形跡はない。
(もし、私がいない時に来てたら、設置したノートに記帳してはくれてるだろうし……)