17 若きシュレナと、保守的ロタと
続いて、質問に答えるロタ。
「準備は、まだ始まってないみたいだったよ。後片付けしてました。
あれは書道かなあ」
シュレナはコクリとして、
「ああ、きっとそうです。
同じ部屋で、今日まで地元の書道教室の展示だったんです。
……よかった。じゃあ、これからなんだな」
「これから、展示物の入れ替えなんですね」
と、ロタ。
若者相手にも敬語を使うのは、ロタの昔からの習慣だ。
「そうです。
郵送も可なんですけど、っていうか、ほとんどの人が郵送するみたいなんですけど、私は自分で持ってきちゃった。
家も近いし」
「あれっ、学校帰りじゃないんだ?」
「今日は土曜だから休み……あっ、そうか、制服だからか」
途中で気付いたようで、シュレナは自分の服を見下ろす。
ロタが「そう」と首肯すると、
「今日はこの後、主催者のお偉いさんにも会うかもしれませんから。
一応、正装しとこうかと」
シュレナの言葉に、
「そうかあ。正装は制服かあ。そりゃそうか、学生さんだものね」
と、ロタは納得する。
(若いなあ)
自分を見上げているシュレナが、ロタにはキラキラとまぶしい。
ロタの視線を読み違えたか、シュレナの唇の片端がひくつき、
「ええと、変ですかね?
こういう時って、私服の方が印象いいですか?」
「へ?」
真意を計りかねるロタへ、
「子供らしくないとか」
シュレナが自信なさげに付け足す。
ロタは軽く笑って、
「考え過ぎですよ。その判断で良いかと。
私も、同じ立場なら背広を着て来たかも」
今日のロタは、シャツにジーンズのラフな格好だが。
シュレナの表情が緩む。
ふと思いついたように、箱をロタの方へ少し差し出し、
「せっかくだから、ロボット、見ていかれますか?」
「今、ってこと?」
シュレナへ問い返すロタ。やや面食らう。
「そうです。すぐそこに座る所もあるし、外見だけでも」
「いや、見たいけど、遠慮しとく。イリカより先に見るのも悪いから」
と、ロタ。が、シュレナは間髪を入れず、
「でも、来られないかもしれないんですよね?」
と、すねたように上目でジッと見てくる。
(見透かされたか)
ロタの胸が小さく痛む。
できればシュレナとは余りかかわらずに済ませたい、ロタにはそんな気持ちも残っていたからだ。
女子中学生と交流しているなんて、周囲に知られたら面倒である。
定年退職した以上、仕事をクビになるおそれこそないとはいえ。
(しかし、まあ、ここまで言われちゃったらなあ)
ロタは努めて前向きに、
「用事とか入るかもしれないから、やはり約束はできない。
ただ、なるべく行くようにはしますよ」
まだ若干ふくれっ面のシュレナに、
「イリカも、あなたにまた会いたがってるし」
ロタがそう付け加えると、
「うん!」
シュレナがようやくほほえんだ。