16 市民ギャラリーにて
翌日の夕方。土曜日である。
「わあ、ロタさん、来てくださったんですね!」
ロタが、市民ギャラリーの建物から立ち去ろうとした時、不意に声をかけられた。入り口近くのロビーだ。
何ということ、シュレナとバッタリ会ってしまったのだ。
四階建て。ホールや図書室、休憩所など、大小さまざまな部屋がある。
通称は「市民ギャラリー」だが、実質は地域住民のための総合コミュニティー施設である。
前回同様、シュレナはズボンの制服姿。大きめの箱を大事そうに抱え持っていた。
(げっ、まさか本人に会うなんて……。密かに済ませたかったのに。
何でいるんだよ。会期は明日からだろ?)
ロタは、胸の中で愚痴る。表情に出ていたか、
「えー。そこまで嫌な顔しなくても」
シュレナが苦笑いをした。眼鏡の上のまゆ毛が、キュッとハの字に下がる。
前回の初対面でも思ったが、右まゆ毛付近のほくろが特徴的だ。
五十歳も年下の少女にそのような顔をさせてしまい、ロタは少し焦って、
「あっ、いや、ごめん。全然、嫌じゃないよ。驚いただけ。
今日は、ほんの下見のつもりだったんですよ」
シュレナは目をぱちくりさせ、
「下見、って……。ここは駅そばだし、迷いようがないのでは?」
ロタは首を振り、事情を順番に話す。別に隠すことでもない。
「下見というのは、イリカのためです」
「えっ、イリカさんも来てるんですか?」
シュレナの大きな瞳がパッと輝き、左右をキョロキョロする。
辺りの廊下や階段には、十数名の人通り。老人も、若者も子供たちもいる。
ロタが再び首を振ると、シュレナは「なーんだ」と口をとがらせた。
「今日、イリカはお留守番。いきなり連れて来ても危ないですから」
「何で?」
と、不思議がっている様子のシュレナへ、
「建物の段差とか、エレベーターとか。イリカは、歩くのが得意ではないから。あと、人目にも付きやすいしね。
だから、どこから入って、展示の部屋までどうたどり着こうか、シミュレーションしてたんだよ」
と、ロタが説明する。
「じゃあ、来週、来ていただけるんですね?」
箱を胸に抱えたまま前のめりになるシュレナを、片手を上げてロタは制し、
「まだ分からない。今、自分の足で歩き回ってみて、コースは決まったけどね。
会場は、二階の多目的室ですよね?」
「そうです。突き当たりが和室なんですけど、その手前」
「よかった。間違いない。今、見てきましたよ」
「もう、準備始まってました?」
(ああ、やはり、そういうことか)
シュレナの質問で合点がいったロタは、
「そうか、その、手に持ってるやつが、例の自作ロボット?」
まさに、今から会場設営なのだろう。ちょうど、そのタイミングではち合わせしてしまったわけだ。
「えへへ、そうなんです!」
歯を見せて、シュレナはニカッと笑った。