15 イリカの「入浴」(美少女ロボットのお手入れ)
場所は変わり。
翌日の夜。ロタの自宅。
「イリカ、明日、お風呂に入ってもらおうかと思うんだけど」
「分かった。お願いしますね」
「ああ」
イリカの返答に、ロタはうなずく。
それから、明日に備え、イリカの電源を完全に落とす。いつもは、夜もスリープモードにしているが。
「お風呂に入る」とは、ロタがイリカを清掃することを意味する。
数日おきに行っているが、やる前には、こうやって一言断るようにしていた。パートナーへのマナーとして。
次の日。
朝食後、ロタは作業に取りかかる。
昨夜から停止したままのイリカは、椅子に座らされ、目を閉じている。
イリカの被服を脱がせ、洗濯する。
イリカ専用の特注セーラー服だ。紺色の長袖。
サイズはかなり大きく、特にスカートは、人間用の三倍もの布を使用。
二足歩行ロボットのため、脚は太く造られているのだ。重い体を支えるからである。
上半身は、人間に近い大きさにとどめられていた。
インナーシャツや靴下なども、イリカ専用の物だ。
順番に脱がせ、洗濯機へ入れる。
被服を取り払うと人工皮膚が露出するが、銀色の金属関節や端子、ネジも見えるので、マネキン人形とは違う。
女性のヌードというより、人型の工作機械というイメージ。
無論、いびつな作り物とはいえ「女の子の服を脱がせる」行為にドキドキはするが、大半は地味な作業である。
掃除機、ブラシ、薬剤を用いて、関節や皮膚を掃除する。
イリカの長い黒髪は人造毛のかつらであり、取り外して風呂場で洗い、ドライヤーで乾燥させる。
イリカは、身長も体積も大きい。
清掃は三、四時間がかりだ。
(ふう。この作業は嫌いじゃないけど、疲れるなあ)
老後で暇だからこそ、無理なく続けられるのだと思う。
ロタは独身である。還暦過ぎ。
郊外の一戸建てに、美少女ロボット・イリカと暮らしている。
イリカ完成は一年前。ロタ定年退職の日であった。
元々、楽しい老後のために、専門機関へ依頼し、十年がかりで製作してもらったロボットなのだ。
ロタの家には、イリカ用に改築した機械ルームがある。
サーバーその他、研究所並みの設備。
今の清掃も、ここで行っている。
最後に、イリカの全身をから拭きし、髪を頭部へはめ直し、新しい服を着せる。
イリカ用の服は何通りもある。
昼、イリカを半日ぶりに起動。
「おっ、今度はパジャマかー。いいね」
目覚めたイリカは、自分に着せられた服を見て、笑顔で感想を述べた。ピンクと黄色の、ズボンのパジャマ。
次の清掃までは、この格好で過ごすわけである。
「下着は何色?」
「パジャマに合わせて、ピンクにしたよ」
「ほんとだー」
と、イリカが片手で自分のズボンの腰ゴムを引っ張って、中をのぞく。
「こらこら」
ロタは苦笑して目をそらした。