14 シュレナ直筆、未来人対策メモ
・イリカさんとロタさんが未来人だと仮定して
・目的は旅行か。陰謀なら、無防備に私と接触しないはず
・ロタさんが敬語だったのもつじつまが合う。未来人だから私の方が年上?
・私が成すべきことは、イリカさんから科学知識を吸収
(また会える前提で)
・歴史改変にならないよう注意!
その夜。
帰宅して私服に着替え、夕食後、二階の自室にて、シュレナはこのようなメモをノートに書いていた。頭を整理するために。
昼のサミヤ先生の解説も、納得はしている。だから、イリカとロタが自分と同時代の者だという考え方も捨てない。
しかし、今のところ、タイムトラベラー説に傾いている。
イリカのロボットとしての完成度が高過ぎたからである。やはり今の文明では造れない気がする。
加えて、シュレナにはファンタジー好きの一面もある。
サンタもタイムスリップも、半分は信じている。
この辺は、十代前半の少女らしさかもしれない。
「お姉ちゃん、風呂上がったよ!」
三歳下の弟が、一階から知らせてきた。声変わり前の高い声。
「ありがと。入る!」
シュレナも叫び返す。
廊下へ出ると、正面の部屋から父親がひょいと顔を出し、
「シュレナ、制服のズボン出しといて。今からアイロン」
「分かったー」
シュレナが、中学校の制服をスカートからズボンへ変えて以降、アイロンがけは母から父に交代。
父は三日おきに自分の背広ズボンのアイロンをかけており、ついでというわけだ。
「スカートは分からんけど、ズボンなら出来るからさ」とは父の弁。
なお、母も勤め人。まだ帰宅していない。
シュレナは部屋へ引き返し、クローゼットから制服ズボンを取り出し、ハンガーごと父に手渡す。
その直前、ハンガーを少し高く掲げ、ズボンのお尻をちらりとチェックしたが、今朝の汚れはもう落ちていた。
階下の風呂場へ。
着ていた青いトレーナーを首から抜く。
「!」
不意に、ギクリとするシュレナ。
トレーナーの袖からニュッと現れた自分の腕が、洗面台の鏡に映り、それが今朝のイリカとの握手シーンに重なったからである。
鏡越しのシュレナ。白いキャミソール姿。
肩から指先までむき出しの、きゃしゃで、やや色白の腕。
一方、朝のあの光景。ケープから出てきたイリカの腕。
可能な限り、人の腕に似せてあったはず。だが、それでもなお、継ぎ目やぎこちなさは隠しようもなく。
「服の中は普通に下着、それから体。シュレナさんと同じだよ」。
イリカから告げられたせりふを思い出し、改めて恥ずかしさがよみがえる。
ザブン!
眼鏡を外し、服を脱ぎ、わざと乱暴に湯船へ飛び込んだ。
三秒ほど、頭まで潜り、膝を抱える。
(楽しいことだけ、覚えていられたらいいのにな)
いつだって、甘い夢は苦い現実とセットで、かむと変な味がする。