13 視聴覚準備室、長机二つ
「ところで、私がここに来た用件だけど」
サミヤは話題を変える。
というより、そもそもの目的へ戻った形だ。
「あっ、はい。
済みません、何か私ばっかしゃべっちゃって」
シュレナも我に返る。
「それはいいんだよ。教師は生徒の聞き役なんだから」
と、サミヤが軽く首を振ると、セミロングの髪が揺れた。ウェーブがかかった茶色。
前髪ももしゃもしゃにカールされており、ひたいを覆っている。以前聞いたところによると、天然の髪質もかなり影響しているそうだ。
「朗報だよ。秋の文化祭の件ね。部屋、取れたから」
「本当ですかっ。やったー!」
サミヤの知らせに、シュレナはピョンと飛び跳ねる。
笑顔に変わるサミヤ。やや離れた切れ長の釣り目。
ホッとさせる雰囲気を持つ顔である。
説明は続く。
「場所は視聴覚準備室。半分のスペースね」
「三階の」
サミヤはうなずき、
「そう。もう半分は生徒会執行部が使うから」
「また、生徒手帳が出来るまでのアニメ流すんですかね」
と、シュレナが昨年を思い出すと、二人は同時に笑った。
生徒会特製のデジタルアニメであり、手足の生えた生徒手帳が持ち主を探し回るストーリー。
そのシュールさが評判であった。
生徒手帳を大切に、という啓発にもなったようである。
サミヤは、
「生徒会、今年はテレビ画面は使わないって言ってたけどね。
で、シュレちゃんは何が必要?
とりあえず、長机二つ、確保しといたけど」
シュレナは歓声を上げ、
「わあ、ありがとうございます。十分です。
例のロボットを飾るつもりですから、それで足ります」
この部室でシュレナが組み上げたオリジナルだ。サミヤは、
「市民ギャラリーに出展するやつだよね」
「そうです。文化祭はかなり先ですから、また改良するでしょうけど」
「来週だよね。もう送ったの?」
「いえ、小さいロボットなので、会期の前日に自分で搬入しようと思って。
一昨日、家に持って帰りましたけど」
「なるほどね。たくさん見に来てくれるといいよね」
「はい」
うなずくシュレナの脳裏には、両親や弟、クラスメイトや先生方、御近所さん、そして、イリカとロタの顔が浮かんだ。
その時、キーンコーンと校内のチャイムが鳴った。
次の五時限目の予鈴である。
「ヤバ」
「もう、このまま行っちゃっていいよ。鍵は閉めといてあげるから」
サミヤの提案に、
「本当ですか?」
「いいよ。どっちにしろ、一旦、私は職員室戻るし」
普段、部室の鍵は職員室に置いてあるのだ。
「済みません」
「じゃ、また放課後にね。体育頑張って」
「はい」
脱いだ制服を丸めて手提げ袋へ押し込みつつ、シュレナは返事をし、バタバタとプレハブを出る。
中庭には、同じく、校舎へと駆け戻る他の生徒も見えた。
スマホでゲームをしていたらしき男子たちなど。