12 なぜタイムワープは不可能なのか
あっさり否定され、シュレナは、
「どうして、そんなはっきり言い切れるんですか?」
サミヤは、優しい笑みを浮かべつつ、
「この世のエネルギーや物質の量は一定だからだよ。それが、時間的に同じ方向へ進んでいるの。
状態は変化してるけど、差し引きはゼロ。総量は同じ。授業でも教えたよね?」
「まあ……」
シュレナが思い出してうなずくと、サミヤは続ける。
「その中から、例えば誰か一人が過去へワープしたら、このバランスが崩れちゃうよね。
一人分の質量が消える。さらに、前へ進んでたその人の時間もエネルギーだからね。
つまり、起こり得ないんだよ」
「でも、話を宇宙にまで広げれば、例外もあるんですよね?」
「相対性理論のこと?」
「とか、素粒子とか……」
シュレナは語尾を弱める。
理科好きのシュレナとて、この辺の理論までちゃんと分かっているわけではない。
サミヤは、
「時間を超えると言っても、進む速度が変わるだけ。重力が異なる場所では速くなるとか遅くなるとかね」
「それって、応用すればタイムマシンにもつながりませんか?」
シュレナは食い下がる。
「過去へ行くのは不可。
少なくとも、実験開始時点より後ろへは下がれないよ」
「どうして?」
「時間が同じ向きに進んでることに変わりはないから。
ある場所での一分が、別の場所での一分とゼロコンマ数秒になることはあり得てもね」
にべもないサミヤの態度に、シュレナはブーッと鼻息を吐きながら、制服のブラウスをたたむ。
サミヤは加えて、
「仮にそういう大がかりな装置を建造できたとしても、時の進み方の違いを体感できるほどにはならないだろうしね。
一秒にも満たない、人間にとっては誤差の範囲でしかないはず」
「過去へ行くのは無理。それ以外も誤差の範囲、かあ」
シュレナの言葉にサミヤは同意し、
「そうだね。
人も物も、突然消えることはないの。この世は一定に流れて、動いてるだけ。
その移り変わりに、何か一貫した法則がないかを突き止めるのが理科という学問なんだよ。大ざっぱにまとめればね」
シュレナはうなずくが、
(でもなあ)
胸中はモヤモヤしている。
その表情を読み取ってか、
「何で、急にそんなこと聞くの?」
サミヤが尋ねてくる。
「いえ、ちょっとネットで見たんで」
シュレナはごまかした。
心の中で、
(今朝、不思議な二人組に会ったんです。片方はロボット。
とても、現代の文明で造れるとは思えない。
恐らく、未来からタイムワープしてきたんだと思う)
ロタとイリカのことであった。
今朝、二人と別れてから、徐々にそう感じるようになったのだ。
だが、口には出せぬ。
誰にも言わないと約束したのだし。
しかし、考えれば考えるほど、シュレナには、あの二人が未来からのタイムトラベラーだと思えて仕方がない。