11 部長お着替え中
数時間後。
場所はケミホ中学校。昼休み。
理学研究部の部室にて、シュレナが一人、立ったまま考え事をしていると。
目の前のドアにノックの音。向こうから、
「シュレちゃん、いる?」
よく知った女性の声。サミヤ先生だ。理学研究部の顧問。理科教師、三十三歳。
なお、ここはプレハブで、校舎の離れ。辺りは中庭。他の生徒の声もする。
「どうぞ。あいてまふよ」
シュレナが答える。「ます」と発音できなかったのは、おにぎりをほおばっているから。
ドアが開き、白衣姿の女性が入ってくる。
やや恰幅のよい、大らかそうな外見。
が、すぐギョッとした顔に変わり、中庭をうかがった後、慌てて後ろ手にドアをバタンと閉め、
「こら、シュレちゃん!
またこんな所で着替えて!」
「次の五限、体育なんでふよ」
「そういう問題じゃないでしょ」
と、サミヤ。
「考え事ひてたんで」
シュレナは会釈する。
「分かったから、早くそれ、履いちゃいなさい!」
サミヤは苦笑して顔をそむける。
シュレナの上半身には、制服の白ブラウス。長そで。
前をはだけており、中は白い半そでシャツ。名札が縫ってある。家から着てきた体操服だ。
制服のズボンは脱いだ後で、椅子の背に掛けてある。
そのあと、赤いジャージに着替えていたのだが、履いている途中であり、膝で止まっていた。今、下は赤いハーフパンツ。
しかられたシュレナは、左手に残っていた食べかけのおにぎりを口へ放り込み、両手でジャージのズボンをグイッと引き上げた。
巻き込んでしまったブラウスの裾を出し、シャツを腰ゴムの中へ押し込む。
「ズボンの制服は動きやすくていいんだけど、」
おにぎりを飲み込み、ブラウスから腕を抜きつつ、
「ジャージを下に履けないのがねー。そこはスカートの方が優れてるなあ」
ぼやくシュレナであった。サミヤは、
「ハーフパンツは履ける?」
「無理。お尻きつくて。オーバーパンツは履けますけど」
「えっ。じゃあ今、四枚も重ね履きしてるわけ?」
シュレナはうなずいて、
「世の中、物騒じゃん」
「まあねえ。
とにかく、なるべく更衣室使いなね。
で、着替えてる時は、ノックされても待っててもらうこと」
と、サミヤは顔をしかめる。
「はあい」
「第一、私が今、男子を連れて来てたらどうする気だったの?」
「あっ、なるほど」
気付かなかった。
(頭いいサミヤ先生なら、その場合は一言添えてくれるよね)
とも思ったが。
部活一年間での信頼関係というやつだ。
「それで?
何、考え事って?」
サミヤが問いかける。
いつも、シュレナの話をよく聞いているところがうれしい。
シュレナは、今朝からの疑問を口に出し、
「未来から過去へのタイムワープって可能ですかね?」
唐突な質問にも、サミヤは即答する。
「それは無理よ」