勇者は崇められるのが定石ですよ?
初クエストを終え、一段落といったところか。
確かにあの時の俺は気を緩めていた。
全く盲点だった。知らなかった訳ではないが失念していた。
*
「ところで、勇者様」
「その呼び方はやめてくれ」
「いいじゃないですか、勇者(笑)なんですし」
「おい」
「そろそろ4時回りますけど、寝なくていいんですか?」
「へ?」
ここは空想世界。現実世界があってこその世界。
もちろん、向こうの時間は進んでいく。
外を見ればうっすらと朝日が登っている。
「忘れてた……」
「やりましたね!」
「もう戻らないと」
「セーブなどは自動で行われているのでお気になさらず!
あ、一応ですけど、ログアウトの方法は
視界下部にうっすら映ってるアイコンに意識を向けて、
反応したらログアウトのボタンを押してもらえば出来ますので!」
「じゃあ、また。
……万が一やる気が起きたら来るわ」
「えぇ!?そんなつまんなかったですかこのゲーム!?」
軽いめまいに襲われる。
視界が暗転したかと思うとそこは既にベッドの上だ。
現実世界に戻ってきた。
その事実だけで憂鬱になるのはこのゲームの欠点であろう。
さて、時計の短針は既に4時に向かって進み始めている。
急がなければ。
明日の学校の支度を適当に済ませ、ベッドへ戻る。
「先に飯と風呂済ませといて正解だったな」
こういうゲームは時間の感覚を奪う。
満足して帰ってきてみれば既に朝でした
なんてしょっちゅうある事だ。
良くないと知りながら、ついやってしまう。
ゲーム、オソロシイ。
さっきまでベッドで寝転んでいたので身体はすっかり元気だが脳の方は疲れているらしい。
ほんの数分で夢の中へと向かうことが出来た。
次の日
朝
バッチリ遅刻ギリギリに起きて、
ささっと家を出る。
昼
特等席、ともい教室の隅で昼食を取る。
今日は
「そこどいて」
「あっ……」
「プリント集めて」
「あっ……」
と同級生に話しかけらて、会話に花を咲かせることに成功したのだ。大きな進歩である。
このままいけば、同級生に顔を覚えてもらうことも夢ではない。
そして、放課後。
クラスの誰よりも速く教室を出る。
ー以上。
はい、学校編終了。
おいおい、あまりにも適当じゃないか?
いえいえ、かなり話を盛って膨らましましたとも。
コホンっ
そもそも、学校というのはその字の通り
学ぶところであり、遊ぶところでは無い。
学園ラブコメみたいに昼休みに一悶着
なんてそんなものはない。ありえない。
私は学園系の話題展開に違和感を禁じ得ない。
まず、学び場というところを舞台にするからには
勉学に関係する普段の授業内容を中心に話を構成するべきだ。
「それでは、夢もなく、面白くないではないか!」
という意見を持つ人もいることだろう。
その通りだ。全くもってつまらない。
学園ラブコメはあたかもそれが一般的に存在しているか
のように描かれるが、実際はそうではない。
学校を舞台に選んだ時点でそのストーリーは
勉学に関係するものばかりで、見てるだけで疲れるようなものとなり、面白みがなくなるだろう。
ひとつの事実として、勉強を中心に取り扱ったラブコメなんて
地上に出回っている偽りのラブコメと比べれば、極小数しか
存在しない。
みんな、夢を見ているのだ。
私は、そろそろその夢から覚めても良いのではないかと思う。
今までの話をまとめよう。
つまり、ラブコメは嘘あり、偽りである。
理想は、理想であるからこそ理想なのだ。
現実には存在しえない。
よって、この私の生活こそが本来の姿であり、妥当なのだ。
……え?
友人と育む人間関係のあれこれも学校が存在する重要な
理由なのではないのか?
学校は人との関わりを学び、心を育む場所でもあるので、
一概にラブコメが間違っているとは言えない?
……全くもってその通りですはい。
自分にこれっぽっちもその縁がなく嫉妬していました。
ごめんなさい。あと、出会いをください。
ひとり議論を終えて、前を向くとそこは自宅だ。
ぼっち陰キャが集団陽キャに勝てるとすれば、
妄想と独り言の声量ぐらいであろう。
そのふたつには自信がある。
……決して自慢は出来ないが。
夕食を済ませ、明日の支度も終えた。
時刻はまだ、7時になっていない。
今日もまた、始めよう。
「おやおや!!おかえりなさいです!!」
「……どうなってんの?これ」
「え?勇者は崇められるのが定石ですよ?」
「まぁ、そうなんだろうけど……」
町の広場には、一つの大きな銅像が鎮座されている。
そう、俺だ。
どう見ても3倍ぐらいムキムキになってカッコよくなった俺がぽつんと広場に置かれている。
「もうすっかり村と馴染んで、今では集合場所の定番となってるんですよ!」
ハチ公か
「さて、今日はどうします?クエスト、進めます?」
「そうしようかな……
次のクエスト、どんなのなんだ?」
「ええっとですね……」
これですっ!
と言って紙を1枚渡してきた。
『銅鉱石の納品』
「急に銅がなくなって、村の開発に支障をきたしているらしいんですよ。どうしたんでしょうね」
あんな銅像作ったからだよ。
あれ溶かして納品ではダメだろうか。
「では、行きましょうか!」
「どこに」
「探掘に、ですよ!」
どこに行くんだよ。
「さぁ!」
「はぁ」
本来、ある程度の準備を進めてから旅立ちたいところだが、
カティがどこからともなくツルハシを出してきたので
そのままの足で採掘場へ行くこととなった。
ツルハシを抱えながら村の出口へ歩いていると、
「あぁ、待ってください!!」
「ん?」
声からして恐らく、中年のオジサン。
生憎、オジサンに興味は無いので
無視を決めようかと思ったのだが、
「村長さん!!」
残念ながらカティが反応してしまった。
こうなっては無視もできない。
軽く会釈して済まそうと振り向くと、
村長の横にいるのは上品な金髪の女性。
「おや、その女性は?」
勿論俺が聞けるはずもなく、
未だに一言も発さないまま話は進んでいく。
「初めまして、サラと言います」
「うちの娘です。どうです、べっぴんでしょ?」
「おや、娘さんでしたか!」
こちらこそ、とカティも自己紹介を済ます。
「で、隣でずっと黙り込んでる
死んだ魚の生気を抜いたような目をしている男が
タケルです」
もう少し、気の利いた紹介の仕方はあったと思う。
しかし、軽く言えるほどこの状況で余裕はないので
ぺこっと会釈でこの場を乗り切る。
あぁ、絶対内心笑われてるよ……
「ププッ、昨日食べた
ちりめん雑魚のほうが良い目してたよ(笑)」
とか思われてるに違いないよ。
なんて事を考えていると、用がすんだのか
村長はもとの道を帰っていった。
「さて、ではいきましょうか!」
「はい!よろしくお願いしますね、タケルくん」
「えぇ?あぁはいはい……え?」
「聞いてなかったんですか?
村長さんのお願いで、娘に勇者様のお手伝いを
させてもらえないか?って」
「こう見えても同年代の中では強い方なんですよ!」
いや、聞いちゃいないよ。
つまり、新たな仲間ってことか?
「よ、よろしく……?」
急な状況に追いつけないまま、
絞り出された挨拶は相手にたどり着く前に
散ってしまいそうなものだった。




