何イチャイチャしてるんですか
「この氷は、魔法によって出現させたものでは
ありません。水を冷やして作ったものです」
役所の一室に並べられた、ブロック角の氷と
村で取れた果物で作ったシロップ。
今から作るのは皆さんご存知かき氷。
しかし、この世界にはかき氷というのが
ないらしいので、作ってやろうという訳だ。
もちろん、かき氷がなければかき氷機もないので
ナイフでガリガリ削っていく。
「では、この氷をナイフで表面を薄く傷つける
感じで削っていきます」
続けて、台本通りに淡々と喋っていく。
「魔法で発現させた氷では、一定時間経過すると
霧散してしまうので、必ず水を凍らせた氷を
使用してください」
このお料理教室唯一のポイントなので
念を押して伝える。
念を押したのが良かったのか、
聞いた村人はふむふむとメモをしたり頷いたりと
それぞれの反応を見せていた。
「魔法を使わない氷ね……」
サラも意図を理解したようで、隣で
せっせとメモにペンを走らせている。
『氷は水からつくれる!』
うーん、そうじゃない。
後で教えることも出来るので
今は放っておくとして、
ある程度削り終えた氷にシロップをかけていく。
かき氷機で作る訳では無いので、手間が多く
その癖時間経過でどんどん解けていくので、
なんだかイメージとは違ったものとなったが
早くも完成だ。
「さぁ、食べてみて下さい」
出来上がった品を
小分けにして、村人に食べてもらう。
「ふむ」
初めてにしては、上手く削れたのではないだろうか。
しかし、シロップが溶けた氷によって薄まり
少々水っぽさを感じる。
屋台のかき氷はシンプルながらに計算された
立派な料理だったんだな。
自己評価をしたところで、村人の様子を見てみると
皆揃って難しい顔を……ということも無く、
「美味しいね」
「凍らすだけでこんなに……」
など、ひとまずは高印象を
与えることが出来たようだ。
「しかし、手間がかかるなぁ」
「なんとかだれでも簡単に出来ないものですかな」
子供も大人もみんなが楽しみ
みんなで作る祭りごと。
早速、屋台担当の村人がこの料理を
如何にして出品するか、
という議論が展開されつつある。
聞けば勇者を祀る催しと言うので
無闇に俺が参加するわけにもいかない。
白熱した議論を遮らないように
退出しようとドアへ向かうと、
サラが俺の方へそっと近寄って
「教えてくれて、ありがとうね。
お陰でいい屋台になりそう」
そう言って、小さく微笑んだ。
女性に面と向かって感謝を伝えられる
こともなければ、微笑まれることなどあるはずが無い。
真っ直ぐで、花が咲いたような笑顔に
つい魅入ってしまいそうになるが、
ぐっと堪えて
「俺も貴重な体験をさせて貰えたよ。
みんなの力になれたのならよかった」
……こんな有り体な返事でよかったか?
文、おかしくない?
素っ気なく感じられてはいないだろうか。
滑舌悪くて上手く伝わってないって事はないよな?
そんな考えも、サラのより一層輝きを増した
笑顔を見れば、たちまち馬鹿馬鹿しく思えた。
心が洗われるって、こういうことなんだろうな。
「何イチャイチャしてるんですか」
そんな所に、空気を読めないカティが割り込んできた。
「い、イチャイチャなんてしてないが?」
「駄目ですよ、サラ。この勇者、女性耐性皆無
なんですから」
「な、何もしてないよっ」
「……ならいいんですけどねぇ」
カティが、サラの若干の頬の変化に
気付かないはずもなく、
そのことをサラが気付かないはずもなく。
2人は俺との会話の途中だということには
気付かないまま、楽しげに会話を広げていた。
*
その後の村人達の働きと言えば、
それは大したものだった。
俺が提案したかき氷を元に、あれやこれやと
改良に改良を重ね、姿はそのままに
作りやすさと美味しさを兼ね備えたものと
なったそうだ。
祭りの準備は屋台料理だけではない。
近隣の山へ男手を派遣して、切り倒した大木を
加工。
十分な強度とスペースを確保した簡易テントを
造り上げた。
村全体が活気に溢れる中、
勇者である俺は何をしていたのかと言うと、
見てるだけでは申し訳なくなったので
カティに
「伐採ぐらい手伝えないか?ほら一応男手だし」
と頼んだのだが、
柱に使用する丸太を1人で担ぎ運んでいる
屈強な村人達を見たから。という訳ではないが、
突然草むしりがしたくなったので
準備期間はずっとしゃがみこんで
草引っこ抜いてました。
あのおっさんの方が勇者向いてる気がするよ……
準備期間は幸運にも快晴が続いており、
まさに村が世界が一丸となって準備は進められた。
*
そして、当日。
「それでは、『ナタ祭り』開始です!!」




