ここは架空世界ですからね
カティは少し先を指差して、
「さぁ、タケル!ここが目的地の場所ですよ!!」
と、なれない山道に疲れ果てた俺に教えてきた。
「おぉ、やっと着いたか……」
「大丈夫?疲れた?」
「駄目かもしれない。息が苦しい。視界がぼやける」
「ここ、『クマさんとかけっこ!わんぱくチビッ子コース』ですよ?」
……。
「超元気。呼吸が楽。視界がピント合いすぎて怖い」
肩で呼吸はしつつ、右腕にあるグッドマークを
ドンッと突き出す。
「……大丈夫?」
「バッチリだとも」
「超元気、ですもんね」
「カティ、おまえはちょっと黙ってろ」
「さぁ、バカ言ってないでとっとと行きましょう」
ひとしきり笑って満足したのかカティが声をかける。
「そもそもなんだよ『クマさんとかけっこ!わんぱくチビッ子コース』って」
クマさんとかけっこ!って、それただの遭遇だろ。
あと、かけっこじゃない。全力で逃げてるんだよきっと。
「このコースは村の子供たちがここの泉に来るために
作られた道。大人達の粋な計らいで名前がついたの」
「その大人達、危機感死んでるな」
「あながち間違いではないね」
しかし、今話題にすべき事は危機感が死んだ村人ではない。
「それで、これが例の泉か……?」
泉と聞いて、小さな湖のような姿をイメージしてたが
森の中にポツンとあるそれは、直径3mもいかない
程度のものだった。
とは言っても、その3m足らずの空間は深く下へと
続いており、覗いても暗闇が見えるばかりである。
「この青色は水の色なのか?」
「そうですね。すくってみます?」
そう言って俺に試験管のような細長いガラス瓶を渡してきた。
「よっ、と……」
しゃがんで、泉の水面にガラス瓶の口を沈めていく。
ガラス瓶に入った水は、変わらずに
ブルー○ット顔負けの濃い青色をしていた。
「さぁ、グイッといっちゃって!!」
これ、微生物とか細菌とか飲んで大丈夫なのか……
なんて現代っ子らしいことを思いながらも飲んでみる。
「ッ!!」
医薬品独特の清涼感とともに
一気に熱い何かが身体中を巡り出す。
体の隅々が疼くような感覚に囚われるのは一瞬。
震えに近いそれを味わった頃には
既に小さな傷は癒されていた。
右拳にあった青アザもみるみる小さくなっていく。
数秒もしないで、清涼感は傷と共に消えていった。
「どうでした??」
「なんというか、この世のものとは思えなかった」
「ここは架空世界ですからね」
「傷は全部治った?」
「あぁ、おかげさまでこの通りだ」
軽く腕を上げて見せてみる。
「良かった。これで目標達成だね」
「はいっ!お疲れさまでした!」
「カティ、このガラス瓶もう何本かないか?」
「ありますよ。採っていくんですか?」
「今後、絶対に必要になるだろうしな」
折角ですしね。と言いながらカティはポーチから
何本かガラス瓶を取り出した。
「あ、私も採っとく」
サラも遅れて数本空のガラス瓶を取り出す。
「そのガラス瓶って冒険者ならみんな持ってるのか?」
「みなさん1、2本はもってるんじゃないですかね」
「中級者までの人は大抵持ち歩いてる」
「そうか。必需品なんだな」
俺のウエストポーチは冒険者専用のもので、
ガラス瓶やらナイフやら必需品は勿論
モンスターから採った素材なども入る。
なんでも容量を大きくする魔法がかけられており
見た目では想像もできない量のアイテムが入るのだとか。
サラもカティもこのポーチを愛用しており、
その縁もあって俺も使っているのだが、
未だにその中にはナイフ1本と水筒しか入っていない。
ガラス瓶が必需品らしいから、今度買い揃えておこう。
*
一通り採り終えて、
「この場所は、今後かなりの頻度で訪れることになるので
しっかりと帰り道も覚えていってくださいね!」
帰りも先頭のカティは、後ろを向きながら
ビシッと俺を指さした。
「この水の採取の依頼が結構あるから」
「あぁ、それで」
サラの説明に相槌を打ちながら
不安定な足下に意識を向ける。
「それに、複数のアイテム採取の際はそれぞれ
分担作業なんかもしますしね」
木の根っこに足を置きバランスを取りながら、
「え?じゃあ、ここに一人で来るってこと?」
「そうですね」
「クマが出るのに?」
「凶悪なモンスターよりはマシですよ」
「それはそうだけど……」
まぁ、先の話ですよ。と言いながらカティは
ピョンと段差を飛び下りる。
「それに、もうあなたは『強化』が扱えるんですから、
巨大なクマだろうと勝てるんですよ?」
「流石にまだ勝てないだろ……」
「自身の自信は強さの秘訣だよ」
……この発言、無視していいのかな?
普段は言わないサラの洒落をどう扱えば……
「サラも中々やりますねぇ!」
何も考えないのがこいつの長所だよな。
「?……ッ!偶然!本当に偶然だから!」
「そんなこと言っちゃってぇ〜」
サラの照れ隠しを
カティがここぞとばかりにイジっていく。
目の前で繰り広げられているのは
2人の美少女だけの花園。
木漏れ日に囲まれる中、仲良さげに言い合いをする
この空間は、後世に語り継ぐべき美しさを持っていた。
「時空ごと切り抜いて、額に入れて飾りたい」
そんな言葉をグッと飲み込むタケルであった。




