己の道は、己で創り出すものですよ!
6m級の岩に当たって砕けた(物理)のは昨日の話。
今日は今日の風が吹くという言葉の通り
昨日は昨日であり、今日は今日なのだ。
失敗も大事。
あの失敗がなければ、俺は魔素変換に限界があるなど
露知らず危険な冒険へと向かっていたかもしれない。
まぁ、知ったからと言って危険な冒険へは
行くつもりはないのだが、
それでも知って損はないものだった。
そして問題の魔素変換率の特訓の成果は、と言えば……
「おー少し見ない間に、見違えるほど変わったね」
「おっ、そう思ってくれるか」
「うん。凄いよ。一体どれだけの事をすれば
そうなるのか知りたいぐらい」
「そうかそうか!悔しいが、あの特訓は良かったんだな」
「うーん……どんな特訓をしたのかはしれないけど、
もう今後はしない方がいいと思うよ?」
「まぁ、出来ればしたくないかな」
「凄いもん。その怪我」
「あれ?そっち?」
サラは心配そうに大量の擦り傷と
右拳に残る大きな青アザで痛々しい俺の身体を覗いてきた。
「なにしたの?」
「あーそれはな……あれだ。荒療治」
「荒療治……」
ここでカティの名前を出しても良いのだが、
その後の報復が怖すぎるので止しておこう。
「まぁ、タケル自身が良いならいいけど、
その怪我は良くないよ」
「確かに、そうだな」
「だから、今日は泉に行かない?」
「泉?」
「そう、泉。前に洞窟行ったでしょ?
その洞窟があった山の中に回復効果のある水が湧き出る
ポイントがあるんだよ」
「へぇーそんな所があるのか」
「傷を癒やすには良いと思うの」
確かに傷だらけというのは見た目的によくないのだろう。
折角のお誘いだ。
特にしようと決めていたこともないし行って損はない。
「案内、よろしくな」
「決まりだね。じゃあ、用意出来たらギルドの前に来て」
「よし、わかった」
そういえば、ここまでのやり取りに
カティの名前が上がることはなかった。
それってつまり、今日はサラと2人ってこと?
いやそんな……
けど、前回はカティと2人だけだったから、
その流れでいけば今日は2人だけ……
なんだ、この胸のときめきは……!
いつも小うるさいカティがいないと知った途端に
湧き出る喜びは……!
今日こそはのんびり異世界ライフを
満喫することができるんじゃ……!
いやっほーい!!やったぜ!!
✳︎
まぁ、知ってたけどね?
「いやぁ、最高ですよ!あの怒りの悲しみと諦めが
混ざった表情!」
「別に、分かってたし?」
「なんか、ごめんね?
言ってなかったけど、分かってると思ってたよ」
「別に、分かってたし!?」
腹を抱え、爆笑しているカティを横目に
「それより……ここから、泉まで何分ぐらいかかるんだ?」
「おやおやぁ、話変えても無駄ですよ?逃しませんよぉ?」
「サラ、何分ぐらいかかるんだ?」
「ねぇ無視ですか?」
「えっと、ここから歩いて1時間ぐらいかな?」
「近いような、遠いような」
「喋ってれば案外すぐですよ」
「そういうもんか」
「ありません?友人と話してて気が付いたら
2時間経ってた、とか」
「フフフ……お前、俺を誰だか分かってないな?」
「カティ、これは謝るべき」
「タケル……ごめんなさい」
「振ったのは俺だけど、やめて?」
おいおいと泣き真似をするカティ。
無表情でこちらを見続けるサラ。
女の子に見つめられる経験がなく、照れる俺。
この三人間の謎めいた膠着は数秒にも渡って繰り広げられた。
「では、行きましょうか」
気を取り直し、だらだらと
村の中心から端へ向かって歩きだす。
そういえば、こうやって誰かと歩くなど何時ぶりだろうか。
思い出せるものは全て親との記憶しかなく
もしかすれば、いやおそらく親以外の誰かと
会話しながら移動するなど初めての経験だ。
我ながら泣けてくる。
「村をゆっくり見るって今まで無かったんじゃないですか?」
「あー確かに……」
今更な気もするが、このゲームは冒険RPGではない。
SLGなので、村を育成させるというのが本来の趣旨だ。
改めて辺りを見渡せば、案外普段と違った景色が見えてくる。
最初の頃なんて、
時速60キロで進んだ車が1時間後に
60キロ先に進んでいるような田舎だったのに
今ざっと見れば、
時速60キロで進んだ車が1時間後に
55キロ先に進んでいるような田舎になっている。
この5キロの差は大きい、はず。
何より目を引くのは、住人だろう。
以前、俺がレアドロップを見つけてしまったおかげで
この村の発展方向が鍛冶関係へと定まった為、
鍛冶を得意とすると言われているドワーフが
住むようになった。
今も横を流れる小川で丸く可愛らしい
ドワーフの子供と俺と同じヒューマンの子供が
楽しそうに遊んでいる。
このゲームでは異種族共存はよくある話らしく、
どちらかと言えば、異種族で協力し合っている村の方が
1種族で構成された村よりも発展しやすい傾向にあるらしい。
それを聞けば、この村は案外良い具合に発展
しているのかと思うが、
俺自身がそう力を入れて発展に貢献している訳では無いので
実際はまだまだどの方向にも転びそうな、
善し悪しがわかる位置にも達していないように感じる。
昼には小鳥が歌い、
夜には虫が合唱するような村も好きではあるが、
発展という面で話をするならば
目指す村はそれではないのだろう。
ならば、東京のような虫よりも人の方が多い
近未来チックな方が目指す目標としては良いのだろうか。
しかし、これは好みの話なのだが、
俺自身が現在都会に住んでいるので
ビルよりも自然に囲まれたいという気持ちが強い。
自分の理想をこの村に押し付けるなら
自然は大事に残していきたいが、
ゲームの主軸をずらさないのであれば
もっと近未来な雰囲気に変えていくべきなのだろう。
うーむ、どうすれば……
「怖い顔して黙り込んで……どうかしました?」
「……!あぁ、ごめん」
「なにか考え事?」
「いや、この村の発展をどう促すべきなのかなぁ。って」
「珍しく、まともなこと考えてますねぇ」
「珍しく、は余計だ」
「発展ですか……別に深く考えなくて
いいと思いますけどねぇ」
欠伸を誘いながらカティは続ける。
「ヒューマンは近未来的な家を、
ドワーフはより効率化された工房を、
エルフは自然豊かで落ち着きを持てる家を好みます。
他の種族もそれぞれが好む住処の形が存在します」
カティが話し始めたのは、各種族の好みの話。
「じゃあ、ヒューマンだけの村は……」
「言ってしまえば、東京のような
とても過ごしやすい都市へと生まれ変わりますね」
「へぇー」
「サラも知らなかったのか」
「うん。私、そういう類の情報は全く」
「そうなのか」
「因みに、エルフとヒューマンの村では
外見は巨大な森だけど、入ってみたら所々に
近代的な技術が埋め込まれてるらしいですよ!」
「両方の好みを合わせた村になるんだな」
「なにそれ、楽しそうだね」
じゃあ、今ドワーフとヒューマンの村である俺の村は
現代の日本の技術を駆使し、効率化を図った工房が
連なる町になるのか。
近未来な技術を持つヒューマンと
効率化を求めるドワーフはなかなか相性が良さそうだ。
「もし、自然を残していきたいと考えるのならば
エルフを村に取り込んではどうです?」
「そんな簡単に言うが、出来るのか?」
「勿論、エルフの心地良いと思える場所と
それなりのきっかけは必要ですが、
幸いこの土地は自然に恵まれているので後は運次第ですかね」
「エルフって、あの耳が尖った種族だよね?」
「かなり大雑把なイメージですね……」
「ん?違うのか?」
俺もエルフと言えば、耳が尖った金髪をイメージするが……
「まぁ、合ってるといえば合ってますけど」
コホンっとひとつ咳払い。
カティの解説タイムが始まった。
「正確には、森と共に生きる種族ですね。
長い手脚は木々を移動しやすいように、
尖った耳は小さな音を捉えるように、
髪の色は森の景色に溶け込みやすいように
進化を遂げており、『森の妖精』とも呼ばれています」
「「 へぇー 」」
「生息地ですが、基本は自然豊かな場所で
あればどこにでもいる可能性があるらしいですよっと……」
サラがふと歩みを止める。
それを見て、カティも会話を一旦引き上げた。
カティとサラに釣られて止まってみれば
目の前にあるのはあの洞窟。
その奥には広大な森がある。
洞窟に潜った時には意識もしなかったが
木の迫力というのは凄いもので、
はるか昔、森と神との関係性を疑ったのも頷ける。
「道ないけど……」
「己の道は、己で創り出すものですよ!」
そういうこと言ってんじゃねえよ
「大丈夫、私はこの森で育ったと言っても過言ではない。
迷うはずがない」
そう言って悠々とサラを先頭に森の中へ進んでいく。
その足取りにはとても迷いなどは感じない。
カティも鼻歌でも歌いそうなほど軽い足取りで進んでいく。
俺も負けじとついて行くが
柔らかい土と浮き出た木の根に阻まれて
思うように進むことが出来ない。
……いやぁ!虫!!
*
足元に気を使いながら歩いて随分と奥までやって来た。
「さぁ、タケル!ここが目的地の場所ですよ!!」
カティはそう言って、少し先を指差したーーー




