おっ久しぶりですねっ!!
日は移り変わり、7月上旬。
これが学生にとってどんな意味を成すかといえば……
そう、テストの終了である。
そして、同時に夏休みの始まりが近いという事でもあるのは
言うまでもないだろう。
辛く苦しい期間からの解放に加えた
長期間の休日への歓喜。
つい浮かれてしまうのも無理もない。
高校生の夏休み。
友達と川に行ってバーベキュー?
気になるあの子と花火大会?
それとも眩しく煌めく海へ行こうか?
全て、否である。
共に川へ行く友達はいないし
気になるあの子は画面から出てきてくれないし、
海に行くような友達は生憎持ち合わせていない。
敢えて言おう。
俺はボッチだ。正真正銘、独りだ。
では、この夏、どうして過ごすというのか。
答えはひとつしかない。
俺を受け入れてくれるのはここしかないのだから……
*
「おっ久しぶりですねっ!!」
降り注ぐ太陽に張り合うような挨拶を向けてくる。
カティには夏の暑さも効かないらしい。
「久しぶり」
一週間ぶりの会話に、少しぎこちなくも返してみる。
「もう夏休みですか?」
「そうだな」
どうやら挨拶はクリアしたようだ。良かった。
ところで、ポータの姿が見当たらない。
どうかしたのだろうか。
「サラはどうしたんだ?」
「サラなら今日はお休みですよ」
「そうか」
意外、と言っては怒られるかもしれないが
NPCにも都合があるらしい。
運営のこだわりが伺える。
「サラはいませんが、張り切っていきましょう!」
「そうだな」
「ところで、今日はなにします?」
「魔素変換率を鍛えたい」
「それ前回も言ってましたね」
「どうすれば良いんだっけ?」
「効率よく上げるにはやはり実践あるのみ!でしょうね」
「実践か……」
ひたすら魔物と戦うのであれば、かなりハードな
特訓になることは間違いない。
「別に無理に習得する必要はないと思いますよ。
この完璧な私がいますし」
「絶対習得する。頑張る」
頼るのはゴメンだ。
✳︎
実践あるのみということで発注したのは
小型モンスターの討伐クエスト。
モンスターと言っても、戦闘能力の乏しい村人でさえ
頑張れば勝てる程度の危険度しかないので
練習台としてはもってこいらしい。
村を出て、少し歩けば早速足跡が目に入る。
足跡を発見してほどなく
辺りよりも一層厚く敷かれた草花の絨毯の上を
群れて歩く姿が。
のっそりと歩く四足歩行の草食動物。
牛のような体躯だが、その身はさっぱりと淡白な味わいで
どちらかといば鶏肉に近いらしい。
個体数も多いことから、庶民には
馴染み親しまれている食材のひとつなのだそうだ。
特にその肉を使った唐揚げが人気なのだとか。
「よし、終わったら食おう」
「油断は禁物ですよ?」
「……わかってるよ」
弱いと言ってもモンスター。
緊張はあるに越したことはない。
「では、強化を始めてみてください!」
その言葉を合図に全身を1度脱力させる。
緊張を和らげるような深い息を数回。
吸った空気を全身に巡らせる感覚を意識しながら
敵であるモンスターの群れを見据える。
俺の視線を感じたのか、モンスターの
今までの温厚な雰囲気が一転。
群れのトップであろう一際大きなモンスターが先頭に立ち
これから起こるであろう戦闘に備えて
群れの全てが臨戦態勢へと移った。
弱いと言われていても、立派な牛程度あるその体躯から
発せられるモンスターとしての威圧は
決してぬるいものでは無い。
「落ち着いて〜焦らずに〜」
強ばり始めた俺をカティがゆるく宥める。
「お前はもう少し緊張感持てよ……」
「あなたが緊張しすぎなんですよ」
「まぁ、間違いではないけど」
大丈夫、俺だってテスト中何もしてこなかった訳では無い。
俺のこの強化に似た「個性」を持つキャラクターが登場する
漫画を読み、能力の調節に関しての情報を得たりしてきた。
一度に2箇所も意識するのはまだ難しい。
なので、腕だけに。
手前にいた一際大きな牛Aに殴り掛かる。
「プルス・ウルトラ!!」
ズドンッ
意識を刈り取るには充分な威力だった。
牛Aの頭は大きく揺れ
その振動は徐々に全身へと伝わっていく。
頭から前脚と崩れていくその姿に、
後方で様子を伺っていたモンスター達が突然
四方八方に散っていった。
「おや?」
瞬く間に、すっかり牛っ子一頭いなくなってしまった。
「これは、成功でいいのか?」
「及第点は超えてますね」
「おぉ!!」
「しかし、まだまだ制御が甘いですね!」
カティの視線につられて倒れているモンスターに目をやると
ピッタリ俺の拳サイズで左頬が陥没している。
「おぉ……俺そんな威力で殴ってたのか」
「驚きました?」
牛を殴って骨を折った話を聞いたことがあるので
めいいっぱい力を込めたのは確かだが、
それでも攻撃が通じるとは思っていなかった。
嬉しいような、少し怖いような……
「こんな威力出てるけど、まだ及第点なんだな」
「まぁ、偶然の1発でしょうしね」
少し遠くを見たかと思うと、
「場所を移動しましょうか」
そう俺を促してきた。
*
「では、これを先程のように殴ってくださいっ!」
「これは……」
6mはありそうな巨大な岩。
何も無い草原のど真ん中にこんな岩転がってることも、
これを殴れというカティも、
どうかしているとしか思えない。
「いや、無理だろ。骨砕けるぞ?」
「牛殴って無傷なら大丈夫ですよっ!」
「いや、それはそうだけど……」
いや、それはそうではないだろ。
そういえば、無傷なのだ。
普段、喧嘩どころか誰とも関わらない俺にとって
殴るどころか拳を握る行為ですら非日常であるのに、
薄皮も剥けず今もツルツル綺麗なお手手のままだ。
……じゃあ、大丈夫か!
脱力。そして、ゆっくりと深呼吸。以下略!
「うぉぉぉお!!!」
ペチッ
ハッハッハッハッ痛い、痛い痛い痛い!!!!
これダメなやつだ!絶対折れてる!これはダメなやつだ!!!
もちろん、岩は不動を貫いたまま。
「と、まぁこんな感じでまだまだ魔法の発動が
不安定なんですよね。身を持って確認しました?」
「口で言ってもらえば理解したけど!?」
「いやぁ、あんまり1度の偶然で調子に
乗られるもどうかなぁって」
優しさですっ!と可愛くウインク。
コノヤロウ……
「魔素をしっかりと扱えれば、普通は怪我をするような
場面でも無傷で耐えることが出来ます。
攻撃にも防御にも使えるなんて、とても便利で優秀ですね!」
「よーく理解出来たよ……」
「あっ!そうだ!!」
カティは、突然大きな声を上げて手をポンと叩いた。
「これからの特訓は、私の攻撃をひたすら魔素を
コントロールして防御することにしましょうか!!」
「おい、お前楽しんでるだろ」
「そうですが、なにか?」
「驚いた、人じゃねぇな?」
「NPCですね」
「……こういう時、なんて返すのが正解なの?」
「『ご尤もでございます、カティ様。どうか
この無礼をお許し下さい。』
とかじゃないですかねぇ」
「そうかそうか、じゃあ特訓スタートな?」
喋り終える前に殴りにかかるも余裕で回避。
その後、
晴れてカティの魔法の的となりました!
*
「こんなもんですかねっ!」
「お前、ほんとに覚えとけよ……?」
身体には全身に土汚れと擦り傷。
精神には忘れることの無いトラウマを。
30分間、的となったタケルにはもう精も根も
残されていなかった。
「でも、かなり魔素の扱いは上手くなりましたね!」
「……」
「なんですか!つれないですねぇ!」
「そりゃ、特訓というよりただのお前のストレス発散……」
「え?」
「頼むから、謝るから、その火の玉はやめてくれ」
「分かればいいんですよ」
しかし、憎めないことに魔素の扱いの上達は本当のようで
最後の方はしっかりと攻撃を防ぎきることに成功した回数も
増えてきたのだ。
「では、最終確認と行きましょうか!」
*
あの巨大な岩まで戻ってきた。
最終確認とは、お察しの通りこの岩の破壊。
カティとの地獄、もとい特訓を積んだ俺にとって
魔素のコントロールなど御茶の子さいさい屁の河童、
この岩などおそるるに足らない存在となった。
ここで一発岩にも痛い目を見させてやろうというわけだ。
「よし。やってやる」
しっかりと魔素を感じ、イメージを持った上で
素早く腕を引き、腰を落とす。
……いける!
「はっ!」
ペチッ
え?は?ちょ、まっっ痛い痛い痛い痛い!!!!
「なんで!?」
「過度な魔素変換に身体が対応しきれなくなったんですね」
「なにそれ聞いてないけど!?」
「言ってませんもん」
……コノヤロウ!!!!!




