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あ、全然虫が嫌いとかではないんだよ?


そもそも何故この洞窟に潜ることになったのだろうか?


ーーそれはもちろん、魔法を使えるようになるため。


何故この洞窟に行こうとなった?


ーーそれは俺が魔素を感じ取ることができなかったから。


ふと重い足を止めて考える。


果たして、魔素は感じることができたのか。


何故わざわざ俺に魔石を取ってこいなんて

クエストを出したのか。



全ては、今後の冒険のため。

魔法があった方が、モンスターとも渡り合える。

仲間と協力して、困難なクエストにも立ち向かえる。


この洞窟にたった一人で挑む理由は

全て未来を見据えた上での行動であり、

魔法習得を乗り越えてスタート地点に立つことにある。


だから、

俺はこの絶体絶命な状況を

どうにか打破しなければならないのだ。







腹が減れば、飯を食べる。

喉が乾けば、水を飲む。

では、池があれば?


そりゃ、底を覗きに行くでしょ。

当然。常識。これ当たり前ね。


そんなわけで、ログアウトしても空腹は

引き継がれたまま開始した2日目。


たまたま遠くに水に反射した光が見えたことによって

見つけた池。ふと気を取られて近寄ったこの池。


周りの青い光が純度の高い水に反射して、その場所のみの

一風変わった空気を醸し出している。


近寄ってみると、なんとも甘い香りが鼻腔をくすぐる。

横を見ると、なんとも幸運なことに

池の周りには少ないながらにも

立派な植物が生息しているではないか。

もうこれは神様……いや、運営からの贈り物と思って

間違いないだろう。


植物はいくつか種類があるようで、それぞれ

赤、黄、青色の実をつけている。


空腹に支配された今、毒があるかどうかなど考えもしない。

実があると分かればすぐさま手に取り齧り付いた。


アクが強いがなかなかに甘い。

決して食べることが出来ないわけではなく

前回から何も口にしていない俺からすれば充分な食材である。


ふむ、とても美味しい。

もういっその事ここに定住してやろうかと

考え始めた時、どこからかゴゴゴ……と地響きが聞こえた。


「……!?」


轟っ!!


先程まで自分が座っていた辺りから飛び上がってきたのは

1匹の蛙、のようなモンスター。


人を丸々飲み込めそうなほど大きな口。

肌の色は地面の砂地に合った薄茶色で、

その体躯は2m近くある。

向かい合ってみればその迫力と大きさに

思わず生唾を飲んでしまう。


恐らく、この甘い木の実に釣られてやってきた

他のモンスター達を襲うモンスターなのだろう。


あと少しでも反応に遅れていれば確実に飲み込まれていた。

その事実が悪寒となって背中を駆け巡る。


モンスターは依然として俺を睨み

じっとタイミングを伺っているように見える。


今までのモンスターよりも一段と大きな躯体に怯みはするが、相手は虫ではない。そう、虫ではない。

虫ではないのなら近づくことも出来るし、

剣で斬り付けることも出来る。

……あ、全然虫が嫌いとかではないんだよ?


とにかく、戦うことが出来るのだ。


カエルは鶏肉のようなサッパリとした肉をして

なかなか美味と聞く。

……鶏肉。


よし、殺ろう。どうせ逃げれないし。


剣を構えてモンスターを睨み返してみる。

デカいし怖いが、オークのような凶暴な顔立ちはないので

まだ面と向かって見ることが出来る。


こちらもじっくりとチャンスを伺う。

いくらゲームの中に入っても、剣の扱いも

知らない素人でしかない。

無闇矢鱈に突っ込んだところで反撃されておしまいだ。

ここは相手の出方を伺うのが懸命……


ヒュッ、ズドンッ!!


「っ!?」


音のした方へ振り向いてみると、

そこには壁に頭の半分をのめり込ませた蛙がいた。


何が起こった……

今あのモンスターは自分の背の方にいる。

チャンスを伺おうとしたあの時までは確かに両目で

あの蛙を捉えていた。


一瞬、1度瞬きをしただけのほんの僅かな瞬間で

突進し、壁に衝突したというのか……

想像よりもはるかに高い運動能力だ。


「ヤバいな……」


今の動体視力では、あの突進の動きを微かに捉えるのが

精一杯だ。とても見切ってカウンターをする余裕などない。


……ならば、突進をもう一度する前に

ダメージを与えるしかない。


「っ!」


砂を大きく巻き上げながら走り出す。


狙うは足元。致命傷ではなくても突進を避けるための一撃。

切ると言うより、突くイメージをもって剣を肩の横に構える。


「おりゃ!!」


左足を狙い、勢いをつけて突く。


「クソッ!!」


が、モンスターの後退が速く

剣は虚空に置き去りとなった。


その後、二、三度攻撃を試みても

全て容易く呆気なく躱された。


一旦タケルの攻撃が止み、再び膠着状態に陥ろうとした時


モンスターは動いた。


身を少し屈め、深呼吸するかのように1拍。

先にも見た、突進だ。


瞬時に悟ったタケルはすぐさま左右に

避けることの出来る体制を整える。


右か……左か……はたまた正面か。


こちらも一度大きく息を吸い、目を見開き

全神経を目に集める。


……モンスターの脚が少し深めに沈んだ。

うなじをこちらに見せるように頭を下げる。

全身が後ろにぐっと下がる。

そして、今まで溜め込んだ四肢のバネを解放する。


……来た!

目線や方向から、狙いは俺の利き手のある右肩を

喰らうつもりだろう。


1度目の突進はかなりのスピードだった。

しかし2度目の突進はしっかりと標的を捉えたまま

身体を左にずらすことが出来た。


身体をずらした少し後に後ろから

壁の岩石が砕ける音が聞こえた。

その衝撃は1度目の時と遜色ない威力で

青く光る岩石が大きく凹んでいる。


突進したモンスターは避けられた事が意外だったのか

首を大きく振ったまま硬直する。


……あれ?なんで俺は避けれたんだ?

壁の様子を見るに先ほどの突進は1度目と遜色ない

威力、スピードだったはず。

なのに俺は、モンスターがモーションに入り力を込めて、

突進してくるまでの動作の全てを

この目で認識する事が出来た。

1度目は何一つ見る事が出来なかったのに、だ。


ここに来て、急激に動体視力が良くなった?

目が、強化された……?

洞窟に入ってずっと挑戦してきたものの、1度たりとも

成功しなかった魔法。自分の唯一の適性である『強化』。


何故今このタイミングで成功したんだ?

これまでの成功例は1度だけ。ハイオークの懐へ潜り込もうと走り出したあの時。

たしか、あの時は足に強化魔法がかかった。

そして、今回は目にかけられた。


練習時には音沙汰も無かったのに、敵と立ち向かう時のみ発動するのは我ながら少々都合が良すぎるようにも思える。

しかも二回も。


……敵に立ち向かう。

もしかして、これが魔法の発動条件なのか?


確かにそれなら都合が良いのも頷ける。

よし、モノは試しだ。やってみようじゃないか。


モンスターは突進以外の攻撃方法がないのか、

戸惑った様子でこちらを見続けたままだ。


ならば、チャンスである。


今度は1度目と同じくモンスターの懐へ潜り込むため、

脚に力を込める。

そして、解放。勢いをつけたままモンスターへ突き進む。


「ッ!!」


あの時のように太ももが青く光ることもなければ、

驚異的な加速もない。

ただ、走って突進しただけ。

もちろん、そんな程度ではモンスターの薄皮一枚当てることは叶わず空振りに終わってしまった。


「もうひとつ、なにかある……?」


敵に立ち向かうという意思だけでは

魔法は発動しなかった。

しかし、感覚はハイオークの時と似ていて

いつもよりも速く、鋭くなっていた気がする。


あと少し、何かが足りない。

パズルのピースがひとつ欠けたような感覚に囚われる。


何が足りないんだ。あと一歩、そんな漠然とした

もどかしさについ深く考え込んでしまう。


深く考え込んでしまった。

今は戦闘中であるのに。

砂の擦る音に意識を戻してみれば、モンスターは四肢をしっかりと地面に付け、突進の体勢を整えていた。


「やばいッ!」


すぐさま動きを見切るために神経を集中させる。

モンスターが深く身を沈めるタイミングに合わせるように、

自分を一度落ち着かせるように大きく息を吸い込む。


モンスターが突進を開始したのと動きを捉える事が出来たのはほぼ同時。

間一髪で身体を大きく倒れこむように左にずらす。


またも壁に激突したモンスターは流石に衝撃が効いたのか、

大きく身体を揺らしながらこちらの方をぼーっと見ている。


またも、発動した。一体、何をした?

斬りつけた時と同様、敵の攻撃を避けるという『意志』を

持っていた。その他は?

確か、見切ろうと目に意識を向けて

一度冷静になるために深呼吸を……


ふと、カティの言葉を思い出したのは偶然だった。


「魔法は魔素を使用する」


「どれだけ空気中から魔素を取り込み、効率的に魔法として変換するかが」


魔素を取り込み、魔法に変換する。


大きく空気を吸う事で魔素を体内に取り込み

意志によって魔法へと変換する……?


確かに今までの俺は、魔素はもともと体内に蓄積されている

ものとして、その魔素を体外に放出するイメージで

練習をしていた。


魔素を取り込むために深呼吸する。

そして明確な意志をもって魔法へと

魔素を自分の魔法へと変換していく。

新たに仮定した事の真偽を知るために、実際に試してみる。


やることは変えず、モンスターの懐に潜って

斬りつけることを目指す。


ぐっと身を沈め脚に意識して力を込める。

しっかりと攻撃の意志を持ち、深く息を吸う。


どうせ大したスピードではないと慢心しているモンスターに

一泡吹かせてやる。


すると、次第と太もものあたりが青く光り始める。


「ッ!!」


風を切る音が聞こえると、

次の瞬間にはモンスターの懐に剣を突き出した。


勢い良く突き出された剣先は

容赦なくモンスターに入っていく。

そのまま横へ引き裂かれたモンスターは

もはや立つ事さえままならない。


突き刺さった剣を抜けば、ずどんっと怪物は伏し

あとに残るのは静寂のみとなった。


「魔法、使えた……!」


脱力感に疲労感、それ以上の喜びがタケルの中を駆け巡る。

やっと倒せた。やっと使えた。

これでこの洞窟から出ることが……


初のモンスター討伐に打ち震えていたのは束の間

未だ拳大の魔石は見つかっておらず、

まだまだウエストは終わらないという事を

思い出し再び疲労感に包まれてしまった。


「どこにあるんだよ……魔石」


そうボヤいて先程倒したモンスターを眺める。


今見れば本当に自分が倒したのが

奇跡のように思えるほどの巨体だ。


周りの外壁を見ればいくつもの凹みが出来ている。

辺り一面にあの綺麗だった岩石の破片が飛び散り

……のはずなのだが飛び散っているのは黒い石ばかり。

それはまるで、カティが俺に見せたあの魔石そっくりで……


丁度、自分の横に転がってた拳大の岩石を手に取ってみる。


その石の色は、今俺の持つ剣と似た複雑な黒色をしており

ヘマタイトのような光沢を帯びていた。


「そんなオチある?」


今まであれほど必死に探し回っていたものは

実は最初から自分の周りを囲っていたらしい。


「ハハハ……」


なんとも拍子抜けな事実に、洞窟内に乾いた笑みが

洞窟内に響き渡った。







転がっていた拳大の魔石を2つほど拾ったタケルは

その池を後にした。

目指すは入口。

目標も、目的も達成した今、もうこの洞窟に用はない。

一刻も早くギルドへ戻り、あの2人に1発ずつゲンコツを

浴びせなければならない。


とは言っても、ここまで奥に来たのは

虫に追いかけられたからであって

一目散に逃げた俺は当然帰り道など覚えておらず……


只今、絶賛迷子中です。


右に行っても左に行っても景色は変わることは無く、

ただただ青く光る魔石が視界一面に広がるばかりである。


「ここ、さっきも通ったよな」


もうあの池を離れてからかなり経つがまだまだ陽の光を

見ることは叶わない。

それどころか同じ場所をぐるぐる回っている気さえする。


印をつけて確かめてやろうか。


そこにあった植物を斜めに切りつけ、目印をつくる。


その後目の前の分かれ道を右へ進んでみる。


10分ほど歩けばまた分かれ道が見えてきた。

近くに植物がないか見回す。


「やっぱりな」


あった。斜めにスパッと切られた植物が。


やはり仮説は正しく同じ道を行ったり来たりしていたようだ。


ならば、今まで同じ道を何時間も歩いていたのか?


案外入口は近いと知り嬉しさ半面、

あれだけ歩いたのがほとんど意味をなさないものであると知り

自分の不甲斐なさが半面。


そんな嘲笑がついこぼれてしまう。


しかし、まぁ、もうそんなことはどうでもいいのだ。


ただ、今はすぐにでも外に出たい。


はやく、陽の光を全身で浴びたい。




はやく、ギルドへ戻りたい。





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