怪しいキノコに、うねる草。
ピチョン、と天井から水滴が零れる。
青く光る岩石へとぶつかりながらも
またピチョン、と地面へ。
心地良いリズムに水を差すように響くのは、1つの音。
屁っ放り腰になりながらも懸命に歩き続けるタケルの足音である。
カティ達と別れてもう結構経っているとは思うのだがまだまだあの大きさに達する魔石は見つからない。
それどころか、着々と疲労は溜まりつつあり歩くだけで
精一杯だ。
カティ達は、終わる気配を見せないクエストに翻弄されている俺を、快適なギルドで談笑を挟みながら待っているのかと
思うとつい、肩を落としてしまう。
だがしかし、決してこのクエストが悪い事しかない
訳では無い。
この洞窟は、音を聞いても分かる通り水分に富んでいる。
その上、陽の光など充分に届くはずもなく、
この場の空気はジメジメしていて気持ちが悪い。
はずなのだが、そうでもないのだ。
確かに多湿ではあるが、不思議と深い森林のように
澄んでいて心地良い。
一体どうしてなのだろうかと考えてみても、まだまだ知識の
浅い俺にはわかるはずもないが、カティ達がわざわざ
連れてきた事を踏まえるなら、おそらくこの『心地良さ』を
演出しているのが魔素なのだろう。
もしそれが正しいのであれば俺は魔素を感じることが
出来たという目的を達成したことにほかならない。
魔素を感じることができたのなら魔法習得まであと一歩。
さっさとコツを掴んでカティを驚かせてやろう。
と、30分ほど前に思い立ち試行錯誤をしつつ頑張っているの
だが全く上達が見えない。
それどころか歩き疲れたのかこの空気に慣れたのか、
『心地良い』という感覚がわからなくなってきている。
サラは石を探すのに2日ほどかかったと言っていた。
カティは1日では到底終わらないと言っていた。
一方、今歩き続けた時間といえば3時間程度
……本当に、生きて帰れるよね?
あーだこーだ言っても魔石は見つかるはずもなく
今自分に出来ることは魔素を感じ取りながら探し続けること
しかない。
愚痴るのも歩きながらにしないと
本当に終わらないのが現実だ。
*
少し歩いてみてわかったことだが、
ここの洞窟は結構色々な動植物がいる。
大型犬並みのミミズに、大型犬並みのナメクジ。
上に乗れそうなほど大きな節足動物。
怪しいキノコに、うねる草。
触ると音を発する植物まであるのだから驚きだ。
ざっと挙げてもこれだけのもの。
まだまだ挙げようにもきりがない。
もう違和感は持ってもらえているとは思うので、
その心情を代表して言わせてもらおうか。
「サイズ感おかしいだろ……」
洞窟の道幅は都会の道路並みに広い。
のびのび過ごせていることは大変良いことなのだが、
どう考えてものびのびしすぎだ。
……ふと、気配を察知。
モンスターが、来る。
気配のする岩陰をじっと見つめる。
ネチョっと現れたのは3匹の芋虫。
ただし、大型犬サイズの。
「いやぁぁぁあ無理!キモい!!!」
芋虫を抜き去るように走るタケル。
先程は慎重に選び考えた分岐点も、
迷うことなく右へ。
「「……ネチョ……ネチョ……」」
総数にして、およそ20ほど。
大型ワーム達が、巣に飛び込んできたタケルを
追い払わんと一斉にこちらを見てくる。
「えぇ……」
来た道を全力疾走で戻る。
後ろから追ってくるのは、30近くのワーム達。
「なんで増えてんだよおぉお!!」
タケルは黒い風のように走った。
よく分からないが、少しずつ沈む太陽の、十倍も早く走った。
走る。走る。一目散に奥へ奥へと逃げていく。
5分ほど走った。
流石のワーム達も疲れたらしく
もう追ってくる様子はないが、
「ここは、どこだ……?」
なんせずっと逃げ続けていたのだ。
周りを見ている暇などなく、帰ろうにもどの道を
行けばいいのか分からない。
そして、戻ったところで虫の餌食。
もう俺には進むしか残されていないらしい。
*
かなり深いところまで来た。
ランタンなどの光源は持ってきていないので、
この洞窟を構成する不思議ながらに
青く光る岩石の淡い光だけが頼りとなっている。
太陽の光が無い分、岩石の青色が入口付近よりも良く
綺麗に映えており、なんとも幻想的だ。
ゴロゴロと道端に落ちている魔石も
小指の爪程だったものが、足で蹴って遊べる程度には
大きくなってきた。しかし、拳大のものはやはり容易に
見つかることはなく、まだまだ深く
潜る必要があるように思う。
洞窟に入ったのは昼頃。
進み始めてかなり経つのでもう太陽は沈み切った頃だろうか。
「腹、減った」
水はそこら中に岩清水が湧いており困ることは無かったが、
水だけでは腹は満たされることは無く、
そろそろなにか口に入れておきたい。
辺りを見回してみてもあるのは岩、岩、岩。
稀に紫と黄色の水玉模様のキノコや、
襲いかかってくるツルを持つ植物など
食せそうにないものしかないのだから困ったものだ。
ないのだから仕方ない。空腹は忘れてズンズン進んでいこう、と思えたら良いのだが
腹は減ったし、体力は尽きるし
見つかる気はしないし……
仕方なく、気休めに水を飲み、
気分を変えようと試みる。
もっと、進むしかない。




