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男はみんな、そう言いますね



なんとなく、頭が重い。

目を開けようとしても視界は開けない。

気分はすこぶる悪く、ふわふわと浮遊感に囚われている。


……なんなんだ、これ




*




「おお 神よ!

  この者に あなたさまの

  ご加護の あらんことを!」


「目が覚めたら所持金が半分になってそうな起こし方やめろ」



「しんでしまうとはなさけない!」


「まったくもって上から目線すぎるぜ・・・」


なんだよコレ



というか、ここは何処なんだ……

ハイオークに紙一重で、惜しくも、奇しくも、敗北を

許してしまった所までしか記憶が無いんだが……



「ここは、ギルドの裏の教会です」


「へぇ、こんな所があったのか」



教会。

そのワードと、カティの最初のセリフを聞いて

思い浮かべるものと言えば、ひとつしかない。



「俺、死んだのか……?」


「なんて言いましょうかね〜」


「死んでないのか?」


「正確に言えば死にましたし、もっと正確に言えば、

死んでいません」


「はっきりしないな」


「このゲームは、プレイヤーが『死』を確信すると

死亡判定が出る仕組みなんですよ」


「……?」


「ハイオークの目の前で、滑って転んでドジ踏んだのは覚えてますか?」


「ドジは断じて踏んでいないが、覚えている」


「では、その後は?」


「その後……」



先程も言ったが、そこからの記憶がサッパリ思い出せない。

てっきり、その後ハイオークにスパッとやられたのだと

思っていたのだが違うのだろうか。



「あの時、あなたは死を覚悟したのだと思います。


その時に脳が受けたストレスを機械が感じ取り、

自動的にあなたを昏睡状態にさせたのでしょう」


「じゃあ結局、俺は殺されたのか?」


「昏睡して、クエストは失敗。

それ以上もそれ以下もありません!」


「じゃあ、死んでないのか」


なんだかよく分からないが、そういう事らしい。



「殺しはしても殺されはしない、

ノーリスク、ハイリターンなゲームですね!!」


そうだとしても、言い方を変えろ。


ふと、2人を見て思う。


「2人のようなNPCはどうなるんだ?」


「私たちのような場合は、棺桶に入れられますね」


死んだことないのであまり詳しくはわからないのですが……

と言いながら、教会の祭壇に躊躇無く座る。


「そこに座るのはマズくないか?」


「まぁ、いいんじゃないですかね?」


よくねぇよ


「私、死んだことあるよ」


「え、ポータ入ったことあるのか!?」


「一応?記憶はないのでそれほど覚えてないけど」


「しかし、どうやって復活したのです?」


「唯一、私とパーティーを組んでくれた人がいて、その人に」


そう小さく答えるサラは

懐かしむような、悲観するような顔をしていた。


とても、その後を尋ねることは出来そうにない。


復活の際に感じていた不快感も治まった。

そろそろ活動を開始しても良い頃合いだろう。


ひとつ頬に気合を入れ、教会の出口を探そうと辺りを見回す。

この重い空気を変えようと、2人に声をかけ……


「何でパーティー解散したんです?」


この時の空気といったらもう、最悪だった。


サラは、まさかこれ以上聞かれないと確信していたのか

「あれぇ……?」って顔のまま硬直しているし、


俺は、空気読んでぼーっとしてたし、


カティは、この空気の原因が分かっていないのか

キョトンとしてるし、


猫は猫で、小さくあくびしてから外へ歩き出すし……


って猫いたのか。

よし、このまま便乗して外へ逃げよう。

この空気は、俺には厳しすぎる。


そっと腰を浮かして、さぁ片足を前に。というタイミングで

サラが口を開く。


「……デリカシー実装してないの?」


「まさか」


「後で、運営に報告しておいてやるよ」


「おやおや?」


またひとつ、運営への報告事が一つ増えた。


受付嬢のデリカシー実装、待ってます。


一区切りつき、ギルドへ戻る。


「……ごめんなさい。まだ自分の中で整理をしきれて

いなかったせいで」


「また今度、話したいと思ったら話してくれよ」


「うん、またいずれは」


この話はきっと、心から俺たちを信用してくれた時

聞くことが出来るのだろう。


「それにしても、サラも意外と言うんだな」


「自覚はないなぁ。でも、タケルには負けると思うよ」


「そういうところだぞ……ん?今タケルって」


初夏。

ささやかに風は流れるも、穏やかだった日光が時折、

強く暑く存在感を増す季節。

母さん、今日初めて女性に下の名前を呼ばれました。




✳︎




ギルドへ戻り数刻、


ギルドの一角、村の食堂の役割を担うスペースの

いつものテーブルを、といってもまだ3回目なのだが

囲んでいた。


そこで、お財布に良心的な定食を食べながら、思い出す。


意識がなくなる前、ある出来事に疑問を抱いたこと。

その出来事とは、俺がヘッドスライディングを決めたアレだ。


俺は何もなしにコケたわけではない。


あの時、確かに加速したのだ。

一瞬、太ももが淡く光り力が溢れたことも覚えている。


あれは一体なんだったのだろうか。


「食事中に考え事とは感心しないですねぇ」


「あぁ、悪い」


「なにかありましたか?」


「俺さ、コケただろ?あれ、急に加速したのが原因なんだよ」


「加速、ですか」


「そう、なんだかおかしな話なんだが、太ももが淡く光った

ような気がするんだよなぁ」


それを聴き、2人は少し驚いたような顔をした。


「それ、もしかして強化魔法じゃない?」


「あ、サラもそう思いました?」


強化魔法……?

それはたしか、俺が唯一使える魔法だったはず。


まさか、あの一瞬だけ偶然にも魔法が発動したのか。


「普通、魔法は適性があっても

そう易々と発動するものじゃないよ」


「そもそも、魔力とかそこら辺の感覚が鈍いですしね」


もしかして、俺……才能あるやつ?


俺の時代、来ちゃった?

ま、当然といえば当然だろう。なんたってこの俺だ。

現実世界の充実を捨て、ゲームに費やしてきた俺ならば

そういう優遇があっても仕方の無いことだろう。

これこそが然るべき展開であり、

今までが何処か間違っていたのだ。


大器晩成、万歳。


「まぁ、扱いきれていないのであれば

危険極まりない行為ですけどね」


「そんなに危険なのか?」


「えぇ、例えば強化魔法であれば加減を間違えれば

自分の身を滅ぼすものとなりますし、

炎、水に関しても自分の魔法に巻き込まれて死ぬなんて

よく聞く話ですよ」


「それは困るな」


「何より大変なのは、巻き込まれて死ぬ時、一瞬すぎて

自分の死を認識することが出来ないことなんですよねぇ」


「まずいのか?」


「えぇ、機械がストレスを感知出来ないことで

死亡処理が出来ません」


「ほう」


「おかげで、自分の身体が炎で焼かれたり氷漬けされる感覚を味わいながら死にます」


なにそれ怖い。


「と、言う訳で無闇に不慣れな魔法を扱うのは

危険なんですよ」


「なるほどな……」







「はい、ノートとペンは用意しましたかー?」


「「はーい」」


「じゃあ、早速授業を初めていきたいと思いまーすっ!!」


「「わーい」」


だるいくらいの日差しの中、青空教室が開校した。


時は数時間前に遡る。


カティの魔法の危険について聞かされた後、

俺はサラに「魔法を教えてくれ」と頼んだ。


何故サラなのか。

理由はいくつかあるのだが、

強いて挙げるなら友好関係の構築だろうか。


カティとサラは以前から打ち解けており、

互いに気兼ねなく会話を楽しんでいるのが印象に残っていた。


一方、俺とはまだどこか壁があるような雰囲気がある。


ところがこの頃、時折その壁が少し薄くなったと感じる。

そして先程、変化は感覚だけに留まらず

敬語はタメ口に、呼び名は呼び捨てと目に見える形で

変化を遂げていた。


それは最早、向こうから信用してきたと言っている

ようなものであり、

関係性を見直していきたいと、相手も思っているに違いないと

安易に想像が出来る態度であった。


だからこそ、今ここで彼女との距離を縮め、あわよくば

サラルートの開拓を……

と、まぁそこまでは考えていないが、

今までのよそよそしい関係よりも

1歩踏み込んだ程度には親睦を深めてやろうという算段だ。


あと、カティに教わるのは

なんかすごい負けた気がするのでイヤだ。



俺の願いをサラは二つ返事で答えてくれた。

あとはいつ教えてもらうかだが、



「ここのギルドの裏にいくつか机と椅子があっただろ?

そこで教えてくれないか?」


「いいよ」


ところで……とサラが質問を投げかけてくる。


「カティじゃ、ダメなの?」


「やっぱり迷惑だったか?」


「いや、そういうわけじゃないんだよ?

けど、私よりカティの方が数倍魔法上手いし。


っていうか、彼女以上に上手い使い手なんていないから」


「まぁ、そうなのかもしれないけど……」


「私を褒める声がしましたよっ!!」


「そうか、帰れ」


「それ、普通に酷くないですか?」


「すまない。でも、帰ってくれ」


「サラとなんの話をしてたんですか?」


あ、まずい。


「タケルが魔法を教えて欲しいって頼んできて」


「サラに?」


「うん」


「へぇ……」


「……なんだよ」


「サラ、いいですか?男はみんな狼です。何かあったら

即座に私に助けを求めてくださいね?」


「変な嘘を教えるな」


「お、狼だったんですか……」


「違う!誤解だ!!」


「男はみんな、そう言いますね」


「お前は頼むから黙ってて」


「……」


サラがジト目でこちらを見てくる。

俺が狼かを疑っているのだろうか。


……可愛いな。


「あ、今サラに対して邪な事考えてましたね?」


「ッ!!」


「ねぇ、本当にちょっと黙っててくれるかな?」


サササーっとサラが距離をとっていく。

既に数分前の親しげな距離感は消えてしまった。


「サラ……?大丈夫だから、絶対何もしないから。な?」


「……カティ、教えるの手伝って」


「もちろん!!」



カティは、ご機嫌なまま話を続ける。



「では、ギルド裏の外庭のスペースに簡易教室を

作りますのでそこでやりましょう!!」



テンション高めなカティを他所に、

サラは「男の人……狼……男の人……狼……」と

唱え続けている。


サラに信用されるのは、まだまだ先になりそうだ。


それはさておき、


「なぁ、カティ」


「なんです?」


「お前、サラだけ俺に頼まれてたから嫉妬したんだろ」


ドヤ顔で、そう問う。

話している途中から違和感があったのだ。

勘違いなど、万二一つもありえない。


「途中から分かってたんだぜ?

全く、寂しいなら寂しいと言えばいいのに!」


「いえ、全く違いますよ?」


「へ?」


「勘違いと、そのドヤ顔、やめて貰えます?」


「あ、ごめんなさい……」







「今から外出るの?なんか顔色悪いよ?どうしたの?」


「あぁ、ちょっとそこまで死んでくる」


「本当にどうしたの!?」



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