任務は既に始まっている
俺は土から脱出する。
ゾンビ達が土を混ぜ、柔らかくしていたために出ることが容易だった。
「お前がいなけりゃ案外危なかったかもな。ありがとよ」
「…いや、俺も一つ謝らないといけない。俺の名前は日笠 照人。俺はお前だけを信用したから教えるんだ。教えなくてすまなかった」
「そうかそうか。どんどん信用してくれよ。照人」
どうして下の名前で呼ぶんだ。
今は畑の、銃弾に空けられた腹部の傷の止血。
これが最優先事項だ。
「とりあえず、止血を…」
「いや、構わなねー。八代が戻ってくれば済むからな」
八代も何か魔術を使えるのか。
…そうだ。俺は一つ聞きたいことがある。
「…もし最後、あいつが俺たちがお前の魔術の爆発に巻き込まれる距離まで近づいていたらどうするつもりだったんだ?」
「んあ?その心配はしてなかったぜ。そんなことしてくるならもっと早くにしてるからよー。あいつは俺たちの能力が分からない時はビビって距離を取った。分かってからもゾンビが必ず盾になってくれるように動いた。そんな奴がリスクを背負って攻めてくることなんてしねーよ。それこそ、自分の無事が確立されるまではよ」
しばらくして教会の中から出てきた八代は一人の女の子を連れてきていた。
年齢は俺と大して変わらないだろうか。
八代が畑の傷に触れると、体に空いた穴が糸で縫われ、治療されていく。
八代の能力は医療に向いているのか。
「こいつが俺たちは襲った犯人か」
「そうだぜ。こいつがゾンビを使ってたんだ。自分は安全な場所からこっちを見ているだけのチキンだ」
「先に依頼物を殺さなかったところを考慮すると恐らく奪い屋だな」
敵について話し合いをしているようだ。
経験から来る推測だろうか。
そんなことより俺は気になる。気になってしまう。
「…ところでその女の人はどなたですか?」
なぜ誰も突っ込まないんだ。
「誰って…そうかお前は知らないんだな。依頼物だよ。人の護衛も俺たち運び屋の仕事でもある。その人が無事に日を運べるように」
八代が答えると、不機嫌そうになったその女の人と目を合わせないように努める。
「ちょっと…今露骨に目を背けたでしょ。人のことを物扱いしておいて、今度は触らぬ神に祟りなしってこと?」
ば、バレている。なぜ不機嫌なのかは知らなかったが、俺が目を合わせまいとしていることがバレている。
「そうなのかー?お前、案外冷たいやつなんだなぁ」
「あなた達が私を物扱いしていること忘れたの?私が怒っている主な原因はそこなんだけど」
「え?俺たち?八代〜。俺たちなんかしたか?」
物扱いされたと言っているだろう。
「あなたって馬鹿なのね。私の護衛が本当に務まるの?」
「大丈夫だ。俺たちは運び屋の中の護衛チームだからな。心配はしなくていい。その辺に関してはプロだ」
物扱いしたことに八代は言及しなかった。
これじゃあ彼女が怒るのも仕方ない。
「名前は?名前だけでも教えてくれませんか?」
「教えると思う?あなた達なんかに」
これは…駄目だな。
俺たちは信用されていないわけだ。
「兎に角早く依頼はこなして頂戴。私、お腹が空いたわ」
「…そうか。車が見つかるまでは歩くしかねぇな」
「は⁉︎嘘でしょ⁉︎…あり得ない。本当にあなた達プロなの。依頼人の足を煩わせるなんて」
すると畑は嫌そうな顔をする。
これはまた、面倒くさい奴を守ることになったもんだ。
10連休羨ましいですわ。
是非とも来年もお願いします(切実)