dead me
「お待ちしておりました。アリアチームの方ですね」
俺が教会に入って初めに会ったのは70歳くらいのお婆さんだった。
老夫婦で教会はやりくりしていると事前情報で見たが、今はお婆さんだけだった。
「そうだ。依頼の商品を受け取りに来た」
受取証書を見せ、商品を受け取ろうとする。
「えぇ、ええ。確かに。しばらくお待ちください」
「ああ。年寄りだけで大変だな」
「いえ、外でお会いしませんでしたか?最近若い者が手伝ってくれているんですよ」
若者どころか中年の男性すら見ていない。
見たのはお爺さんやお婆さんが農作業をしているところくらいだ。
「お婆ちゃん、なるべく早く頼もう。ここに長居するのは嫌な予感がする」
奥に飾ってある十字架に、祈りを捧げようと足を進める。
「神に祈ってくださるのもよろしいですが、そこに座って頂けますか?すぐに二階の商品をお持ちしますので」
「…わかった。とにかく早くだ」
扉に手をかけていたお婆さんがこちらを見ずに俺を引き止める。
こんな仲介を頼まれるくらいだから、実力もあるのだろうか。
扉の中に吸い込まれるようにお婆さんは消えていった。
大きな十字架に特に異変は感じない。
なら、なぜお婆さんは俺を引き止めたんだ?
大きな十字架に音を立てずに近づく。
目の前に来るにつれ、確かに違和感を感じた。
正確には十字架ではなく、その前にある大き目の棺桶にだ。
「臭いだ。これは鉄、血の臭いだッ!」
棺桶を蹴り飛ばし、ひっくり返す。
同時にドロドロの赤い液体が床に広がり、十字架の首飾りをした青年の死体が転がり出る。
「あらまぁ、気づいてしまったんですね」
扉を見ると、商品も持たずにこちらを睨みつけているお婆さんが立っていた。
お婆さんからは殺意も敵意も感じられない。
だがッ、このお婆さんからは奇妙な不安感を感じさせる、何かがある!
「<運命のカティーナ>!ハットよ!お婆さんを縫いつけろッ!」
被っていたハットは投げられると同時に糸となり、壁とお婆さんを縫い合わせる。
そのまま糸は首元に回り、すぐにでもお婆さんの息の根を止められる状況を作る。
「この糸は熊の首だろうと切り落とすほど鋭利で、ダイアモンドを上回る強度を持っている。要するにいつでもあんたの首と体をわかることができるんだ。ここから先は立場を考えて発言するんだな」
ゆっくりとお婆さんに近づき、様子を伺う。
…おかしい。まだ、俺は糸を締めていないはずだ。
だが糸で確認したお婆さんからは、既に脈は感じられない。死んでいる!
バタンッと、教会の出入り扉が閉まった。
そっちを見ると血が所々に、棺桶の方から点々と続いていた。
棺桶に入っていた男の死体はそこにはない。
「俺は今、夢でも見ている気分だ。死体が動いたり、生きている人間が突然死んだりなんていうのは有り得ない!ここは既にッ!敵の魔術のテリトリーだったのかッ!」
如何なる魔術も人を蘇生することは出来ない。
固有魔術は空気中の魔素を必要とし、魔素は魂を作ることは出来ない。
人間を作ることは、人間にできることではない。
だからこそ、今この状況はおかしいんだ!
「おや、どういたしましたか?」
後ろから声に反応し、振り返った目と鼻の先にいたのは、首と体が2つに分かれているお婆さんだった。
まさか、自分で引き裂いて近づいてきたのか。
教会の床からは手が出てきている。
ゾンビだ。その言葉以外に当てはまるものが見つからない。
しばらくして、外から爆発音が響いた。
ー「あっちはどうなっているんでしょうね」
「さあ?けど八代がいるんだ。きっと大丈夫じゃあないかい?俺たちも早く仕事を終わらせよう」
彼らは『重要』とだけ書かれた封筒を人に届けているところだった。
池住が車を運転し、目的地に向かう。
「この仕事を終わらせたら連絡が入るでしょうね。良いんですか?本当に」
「構わないよ。もう、俺の慕う人はいないんだから」
蒼樹はそれ以上は何も言わない。
池住は赤信号で車を停めた。
花粉症が酷くてキレそうです。
ちょっと書き溜めして十話以上溜まったら適当な日に投稿するかもしれません