侵攻者
魔術都市農業エリアの土の香りに包まれたポアービア教会。
そこに着いたのは約束の時間、2分前だった。
参謀であるという八代が1人で依頼人と立ち会うため、教会内に入っている。
俺のことを信用してない畑と2人っきりになったわけだ。
気まずい雰囲気が俺たちを包んでいた。
「お前、名前は言わねーって言うならよ。年齢くらいは教えろよ」
沈黙を破ったのは畑の1つの質問だった。
年齢くらいなら教えても構わないだろう。
「17才。俺は17才だ」
「ならお前、俺より1つ年上じゃあねーか!ますます気に食わない奴だぜ」
なるほど。畑は声も高めで容姿も年相応の見た目をしている。態度だけが大きい。
「お前みたいな奴をどうしてリーダーが助っ人にしたのかは分からねーけどよ。役には立って貰わねーと困るんだ」
そう言って渡してきたのはさっきの魔銃と同タイプの銃だった。
「コンロに火をつけるみてーに、魔力を込めてトリガーを引けば弾は出る。もしもの時は頼むぜ」
「信用してない相手に渡して良いのか?」
「構わねー。ボクシンググローブを着けた赤ん坊に、ビビる大人はいねぇのと一緒だぜ」
それほどの自信はどこから湧いてくるんだか。
しかし、八代という男、なかなか戻って来ない。
教会に入るのを見て10分は経つだろうか。
「しっかしお前なんで行き倒れなんてしてたんだ?」
「シンプルにお腹が空いてたんだ。俺は孤児院の手伝いで食ってたんだけどな、そこが燃えてしまったんで仕方なく」
特に興味がなかったのか、畑は小指で耳をほじっていた。
「それはついてねーな。でも、この仕事が成功すればよ、食に困ることはなくなると思うぜ」
とりあえずは金が必要だ。今はなんとしてでも生き延びなければ。
駄弁っていると年老いたお爺さんが車のドアの扉を叩いた。
「知り合いか?俺にはジジイの知り合いなんていねーぞ」
「俺もこのお爺さんには見覚えがない。ここは駐禁だったんじゃないか?」
「俺たちが止めたわけじゃあねーし、どうしたもんか」
畑は窓を開け、どうしたのか、と尋ねる
だがお爺さんは車内に手を伸ばしてきただけで反応はない。
「なんだこのジジイ!気持ちワリィし泥クセー!」
怒ったのだろうか。よりこちらに手を伸ばしたお爺さんは、まっすぐに畑の首に手をかけた。
畑はすぐに抵抗したが凄い力なのか全く引き剥がせていない。このままじゃ首をへし折る勢いだ。
「あ…っが、テ…メェ…」
このままじゃあ死んでしまう。
今はまだ、俺は彼らの味方であるべきだ。
「悪いのは俺じゃなくてあんただからな」
急いで銃のトリガーを引いた。
撃たれた弾は確かにお爺さんがの手首に穴を開け、車のスタンドグラスを割った。
それでもお爺さんは手を離さない。
だが、手首に穴が空いて力が弱まったんだろう。
畑は辛うじて手を引き離した。
「危なかったぜクソジジイ!テメー俺を殺す気だったな!」
それでもお爺さんは返事をせずに、窓から離れた畑に手を伸ばしている。
「もしかして怒らせたんじゃないか?話も不気味なほど耳に入ってないみたいだぞ」
「いや、こいつは俺たちの敵だ!テメー、殺し屋チームか?盗み屋か?どっちだろうと加減はしねーからな!」
殺し屋チームと盗み屋チーム。それは俺でも知っている。
運び屋と並ぶ大きな組織であり、魔術都市最高権力の議会すら放任している犯罪組織だ。
運び屋チームも合法ではないが殺し屋や盗み屋はその比じゃない。
「いや、ちょっと待ってくれ。今の銃声で人がワラワラ集まってきているぞ!そんな状況で殺しはまずい」
「知ったこっちゃねー!くたばりやがれ老いぼれがよー!」
畑はいつの間にやら手に持っていた小さなボールをお爺さんに投げつけた。
「何をしてい―――」
俺の声を遮るほどの爆音が車外で轟いた。
さっきのボールは爆弾には見えなかった。
もしかしてこの男も俺と同じ能力を持っているのかもしれない。
俺が孤児院を燃やした力と同じものを。
「見たかよジジイー!…あれ?おかしいぞ?チームの魔術士がこんなに呆気なく死ぬもんか?」
「ああ、おかしい。さっきからこの車を何十人もの人が囲って叩き始めている。狂ってたように、ひたすらに!」
爆発音に集まったとしてこんなに車を叩けつける人がこんなにいるはずがない。
今は畑の能力や被害なんてどうでもいい。
この狂った現状をなんとかしなければ!