初任務
「僕は池住富弥。よろしくお願いしますね」
「この俺は畑陽弘だぜ。よろしくなー」
「俺は八代紡だ。お前も名乗れ」
白いポロシャツ、黒いパーカー、ハットにコートの男が順番に名乗り、俺にも自己紹介を強要する。
名前が分かっても俺をここに連れてきた理由がわからない。
「どうして俺が名乗らなくちゃいけないんだ?そもそも俺はどうしてここにいるか分かっていないんだ。勿論、食事をくれたことは感謝しているし、何より嬉しい。だけど、信用は出来ない」
その言葉を聞いて畑はため息をつき、蒼樹は差し伸ばしていた手を下ろした。
「こいつ状況がイマイチ掴めてねーみたいだぜ。説明してやれよトミヤぁ」
「僕の方が年上なんですよ。『さん』くらいつけましょうよ」
「さんトミヤぁ」
「三ノ宮みたいに呼ばないでください。まあ、説明はしますけど」
畑に頼まれて、池住は立ち上がり、こっちを向く。
「簡単なことなんですけどね。この運び屋チームに入るか、今ここで死ぬかの選択を迫られてるんですよ。で、生憎ですが時間はないんですよ。今すぐに決めてくださいね」
池住は愛ポケットから何かを取り出した。
彼の握り拳に収まる何かを。
「でないと、僕は指を滑らしてしまいそうです」
握り拳を開くと彼の手には魔銃があり、人差し指は既に、トリガーに引っ掛けられていた。
発射された弾は彼の足元に凹みを作っている。
本物の銃、本物の弾、俺のことを殺す気か。
「どうしますか。名無しの迷い他人さん」
名を名乗らなかったのは間違いだったのか?
だが俺の情報を探られるのは不愉快だ。
ここで俺が争ったところで逃げ切れるだろうか。
1人が魔銃を持っているとなればきっとみんな持っているんだろう。
無理だ。運び屋チームとやらに入るしかないのか。
…否だ。俺には1つだけとっておきがある。
観察するんだ。必ずチャンスが来るはずだ。
こいつらを殺し、逃げることのできるチャンスが!
「選択肢はもう一つある。俺のことを忘れてここで見逃すっていう選択肢が!」
俺は左手に念を込め、能力を発動させる。
「時間は必要ねーみたいだな!撃っちまえトミヤ!」
「さんを付けろって言ってるでしょうが!」
畑が楽しそうに俺を指差すと、同時に池住はトリガーに再び力を込める。
しかし、銃弾は出てきはしなかった。
俺の能力も発動されない。
「そこまでだ2人とも。嫌なら良いんだからね。だけど事故に巻き込まれそうだった君を助けた恩は必ず…なんだったけ?」
この男が何かしたのか?…だとしたら今は従うべきだ。
仲間になっておいて後から逃げれば良い。
「…返す、と言おうとしたんだ」
「なら、一度だけでいいから任務の手助けをして欲しい。その間の衣食は保障するし、報酬も払う」
悪くはないと思う。恩を返さずに逃げるっていうのも癪だったんだ。
「分かった。それならこちらから頼む」
「そうと決まったなら早く次の任務を教えてくれ。移動中にでも俺は寝たいんだ」
朝帰りだと言っていた八代は不機嫌そうに言った。
「次の任務の報酬は500万だ。1人のお嬢さんを守るだけでね。場所は教会ポアービア、時間は今日の10時だ」
「あと30分しかないじゃねぇかッ!もっと早く言えッ!」
「そんなことよりもよー!500万だって⁉︎どこのお姫様だそいつ!」
500万もあればもう食に困ることはない。
これは良い仕事に巻き込まれたんじゃないか?
もしかして今、凄くついてるんじゃないか?
「もう1つあるんだがそっちは50万の仕事なんだ。分担して片付ける」
すると全員が手を前に出し、握り拳を作る。
俺はこの遊びを知っている。
「じゃんけんぽん!」
結果は池住と蒼樹が安い仕事で他が高い仕事だ。
俺も高い方に駆り出される。
「報酬は等分ですからね。ネコババしないで下さいよ」
「しねーよ。でもうっかり落としてきちまうかもなー」
等分なら安い仕事の方が良かったんじゃないか?
助っ人なら楽な方で働かせてほしい。
「お前、車は運転できるのか?」
「いえ、俺は未成年ですので」
「なら俺は寝れねぇじゃあねェーか!」
畑に導かれて俺は車庫に入った。
「早く車に乗れッ。あと30分もない。飛ばすぞッ!」
こうして俺は畑と一緒に八代の運転する車に乗り込む。
「先に言っとくけどよー。俺はお前のこと、信用してねーからな」
殺されないようにしないといけないな。
これで報酬さえ入れば俺はそれで良い。
もしかしたら奴らに接触できるかもしれないな。
さっき、奥の手を見せずにすんで良かった。
次回から魔術での戦闘に突入させる予定です。
今までの話はキャラ紹介と設定だと思って頂ければと思います。