邂逅
冬だというのに何故か暖かい風が吹いている。
地面は冷たくなく、ふかふかとした柔らかさがある。
徐々に頭が冴え始め、昨日の出来事が少しずつ思い出されていく。
確かに昨日は外で倒れるように眠ったはずだ。
だからこそこの状況はおかしい。理解ができない。
もしや今、俺は危険な状況にあるのではないか。
跳ね上がるように起き上がり、自分の固有魔法を発動させた。筈だった。
脚に力が入らず、立つことができず、結局またうつ伏せに倒れてしまった。お腹の音が大きく部屋に響く。
そうだ。俺はお腹が空いて倒れたのだった。
水は公園で賄えども、食べ物はどうにもならなかった。
俺には雑草や廃棄物を食べる勇気はない。
と、これまた何故か2人くらいの笑い声が聞こえた。
「おいおいなんだ今の!釣り上げられた魚みたいによー!元気よく跳ね上がってまた倒れたぜ!」
「笑っちゃ駄目ですよ…失礼じゃあ…ないですか…」
1人はゲラゲラと笑い、もう1人は笑いを堪えながら必死に平静を保っている。
ソファから立ち上がった時に、一瞬だけお洒落な部屋が見えたが、この部屋の住人だろうか。
「うるせぇぞ!帰って来たばっかりなんだッ!静かに寝させろッ!」
何処からか、ここにいる2人以外の声が聞こえる。
この家には何人の人が住んでいるんだろうか。
そしてどうして俺はここにいるんだろうか。
「起きたんですよっ!あなたが連れてきた子供が!」
「そうなんだよ。着水に失敗したトビウオみてぇによー!」
首だけ横に向けてみると、白のポロシャツを着た男と、黒のパーカーを着た男がまたクスクス笑っていた。
その時、2人の男の後ろに複数並んだ扉の1つが開いた。
「食ってさっさと風呂に入れ」
僅かな扉の隙間から、俺に向かって焼きそばパンと服の上下が投げられた。
2日ぶりの食事。俺はすぐに座り直し、パンの袋を破り、食らいついた。
「ちょ、ちょっと!そんなに早く食べたら喉に詰まらせますよ!」
白いポロシャツの男はコップにミルクを入れ、俺の正面にある机に置く。
その男が言った通り、パンが喉に詰まり、ミルクで急いで流し込む。
「なんだお前、随分と腹空かしてたみてーだな。パンならまだあるんだからよー。もう少し落ち着いて食べろよなー」
「聞いてないみたいですね。まるで飢えた野良犬みたいだ」
俺はパンを食べ終えると、ミルクを飲み干した。
少し冷静になり、脳も正常に回り始めた。
「ありがとう。この恩は必ず…」
「良いから風呂に入ってこいよ。お前そうとう汚れてるぜ。ボスは綺麗好きだからな」
「ほら急いだ急いだ。初日から追い出されたくはないでしょう」
追い出される?ボス?いまいち俺は現状が理解できていなかった。
言われるがまま俺は風呂に入る。
風呂は大きく、浴槽は3人くらいまで入れそうだった。
綺麗好きのボス(?)のお陰か清潔感もある。
頭と体を洗い、浴槽には入らずに風呂から出る。
所要時間は15分。割と長い方なのだろうか。
風呂場から出ると4人の男が机を囲んで談笑していたが、俺を見るとすぐに黙った。
「やぁ、初めましてこんにちは。俺は蒼樹士郎。この運び屋チーム、『アリア』のリーダーをやっている男だ」
目も髪も肌も白い、死神のような雰囲気を醸し出すその男。
蒼樹士郎は立ち上がり、俺に微笑みながら手を差し伸ばした。
週一ペースでの投稿にしようと思います。