睡眠欲
レストランの敵を倒したあとすぐに、農場エリアを出て、高層ビルの建ち並ぶ、ビジネスエリアに到着した。
あたりは今より4時間ほど前に暗くなり、既に夕食も済ませた。
「敵はもう来ないんじゃあねぇかなぁ〜?もうこんな時間、みんな仕事が終わってこの辺りは人っ子一人いないぜ?」
畑は高速道路を走行しながらずっと話している。
きっと眠気を覚まそうとしているんだろう。
疲れているから八代は十分ではなかった睡眠を取り、かく言う俺も眠たくなり始めた。
高速道路から見る景色はあたり一帯ビルでどこも変わらない。
気を紛らわすためにも話をするしかない。
「それを待っているかもしれない。八代が眠ってしまった今、彼女を守るのは俺たちの役目だ」
俺は助手席から後ろでこちらを睨みつける少女を見た。
金髪の髪をツインテールにしている。
なかなかに優れた容姿をしているのではないのだろうか。
ただ、そんなことで奪い屋が動いているとは考えづらい。
何か重要な情報でも知っているのかもしれない。
口が堅そうな性格をしてると思うが。
「何よ?こっち見て。あなたたちは物のご機嫌取りをするのね」
上手に人に皮肉を言うんだな。
ここまで気が強いと感心までしてしまう。
「今はそっとしておけよ。きっと反抗期なんだぜ」
「いや、そうじゃあないだろうけど」
お風呂には入れないのだろうか。
女性なら気にしているのではないか。
「一度あの部屋に戻らないか?お風呂に入りたいだろうし」
「俺もそうは思うけどなぁ〜。任務中はアジトに帰るのはタブーなんだぜ。一応、隠れ家だからよ」
依頼物に場所を知られたくないのか。
運び屋というのはどうも冷たい仕事らしい。
やはり違法職なだけはある。
「なら、1人でも大丈夫だから銭湯に連れて行ってくれないかしら?流石にシャワーだけでも浴びたいのだけれど」
「いやいや、1人じゃあ危ないぜ。いつ狙われてるかわからねぇからな」
「でもここには男しかいないじゃあない」
これに関しては仕方ないんじゃあないか?
違法の仕事に女なんてそうそういないだろうし。
…なんだろう。瞼が物凄く重い。
かなり疲れているようで眠気が酷い。
「…あれ?おいおい寝るなよ照人。俺も眠たいのによ」
「なら私がお風呂に入っている間に寝ればいいじゃあない。1人で大丈夫だって言ってるでしょう?」
「それは流石になぁ…」
なんだか話が遠のいてきた。
ちょっとだけ、浅い眠りならいいだろう…。
日笠は目を瞑り、眠気に体を任せた。
それを確認した男が1人、彼らのすぐそばにいる。
誰も彼には気づかない。
「あっ!とうとうぐっすり眠りやがったぜこいつ。…お前は寝ないのか?魔術戦に巻き込まれて疲れてるだろ?」
「お風呂に入るまでは寝れないわよ。私は一応、綺麗好きなのだから」
確かに小綺麗な服を着ている。
依頼物の女は口を手で隠しながら大きく欠伸をした。
車の中にいる人間は既にほとんどの人間が睡眠欲に襲われていた。




