プロローグ
その日は、街の明かりはすでに消え、折角の満月も雲で隠れてしまっていた。見回しても何も見えないような真っ暗な夜だった。
そんな夜に、コートを着た男を乗せた馬車は魔術回路を用いた2つの懐中電灯の光を頼りに、レンガ造りの道を走る。
そこはヴィエール大陸の3分の1の面積を有する、魔術都市メリビア。数値にして約100万㎢にもなる大都市である。
資源も多く、農林水産業の衰えや環境汚染もない、完璧な発展を遂げた、惑星一の国家でもあった。
そこまで発展しているのだから、メリビエには魔術車という交通手段も存在する。
しかし男はその日、仕事の疲弊が酷いというのに早く帰れとの指令があったため、馬車の運行サービスを利用していたのだ。
疲れを癒すために男は馬車の中でぐっすりと眠っていたのだが、急停止した衝撃で目を覚ました。
近くに置いていたハットの埃を払ってから被り、魔銃を構えると、様子を見るために客車を降りた。
「起きろッ!起きろと言っているんだッ!」
声が聞こえる方に銃口を向けると、御者が道の真ん中で横になっている、白髪の青年を起こそうとしているようだった。
男は御者が気付く前に素早く銃を胸ポケットにしまう。
「急停車してしまいすみません、お客様。どうもこの子供が道の真ん中で寝ておりまして、轢きそうだったところをすんでの所で停車したもので…生きてはいるんですがね」
「こんなに暗くちゃあ道の下に転がってる人間なんてのはなかなか見つけにくいもんだ。むしろあんたは優秀な御者だ。謝る必要はないし、俺も怒っちゃいない」
男がそう言うと御者は安心したように深呼吸をし、青年を道の端に追いやろうとした。
「しかしこの子供、随分と痩せ細っているじゃあないか。この辺りは貧困街なんてないはずだよな?」
「はいお客様。確かにこの辺りには貧困街はございません。そもそもこの都市に貧困街はございません」
「…それはちょっと違う。まぁいい、子供の料金も俺と同じ代金を支払う。だから乗せてくれないか」
「良いんですか?知りもしない子供なのでしょう?」
「構わない。こんな所で餓死される方が迷惑ってもんだからな」
代金を支払ってもらえるならば…と御者は快く了承し、男は青年を客車に乗せた。
男が1つ気がかりだったのはこの青年の髪色だった。
老けているようには見えないのだが、電灯の光の反射を考慮しても、彼の髪は真っ白だった。
完全に髪が白くなるほどの暗い過去をこの青年は持っているということだ。
男は考えるのやめ、ハットの縁を前に下げると、今度は浅い眠りについた。
これは1人の青年の成長の物語だ。
1人の人間として、男としての進歩の物語だ。
既に時計の短針は3を通り過ぎていた。
じきに夜は明ける。
自己満足の小説のため、言葉使いが上手ではありません。この話は先に書いて投稿したので本編は少し遅くなります。