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Blade of Memories  作者: FT
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1-1 仕事場での一幕

仕事の呼び出しが来てから15分後。自家用車を飛ばして、俺はある施設の前に来ていた。

敷地内には廃車などが積み重ねられており、一見すると単なるスクラップ業者だ。

そんな施設の裏側には小さな小屋があり、それはあたりからはスクラップの山やらのせいで辺りからは完全に死角となっていた

小屋の前に立ち、ノックを4回した後に…。


「すみません、水を恵んでいただけますか」


そう言葉を発した数秒後、扉にかかっていた鍵が開いた。

小屋の奥に進むとそこには電源の入っていないエレベーターが1基。

エレベーターの入り口にある『↑』のボタンを3回押すと、エレベーター内に明かりが灯り、扉が開いた。


(このスパイごっこみたいなセキュリティはなんとかならないだろうか…)


とはいってもこれは普段は普通に生活したいという俺のわがままを汲んだ結果の産物ではあるのだが。

ここの施設で働いている人たちは基本的に情報漏洩防止の観点からほとんどが地下施設内で生活をしている。

俺みたいに普段は普通の市街地で暮らして仕事の時だけ出勤してくるというスタイルはここでは異常だ。


そんなことを思いながら、エレベーターを使い地下へと下って行く。


『最下層エリアです』


エレベーター内にアナウンスが響くと同時に扉が開き、かすかに油と鉄の臭いが香る。

そして目の前に広がるのは何もない地下通路。

しかし、ここまでくれば後は普通のセキュリティだ。

地下通路を少し進んだ場所に分厚く大きな扉が現れる。

そこで通行用の磁気カードを電子パネルに提示し、指紋、声紋、網膜スキャンを行う。


『確認されました』


電子パネルにそう文字が表示されると分厚い扉は重厚な音を立てて開いてゆく。

ここから先がメイン区画。ラボなど研究関連の施設がある今の俺の職場だ。


「ご苦労、キリサワ大尉。待っていたよ」

「お待たせして申し訳ありません。ドレイク主任」


見知った白髪の男性が扉の向こうで俺を出迎えてくれた。

キース・ウィリアム・ドレイク技術少将。自分の今の仕事の上司。

火星軍におけるAH開発プロジェクトの中心人物の一人で、設計開発部門の主任という立場にある人物だ。


「こちらが急に呼び出したんだ。むしろあの呼び出しから20分でここまで来たのだから十分早いさ。私なら支度に1時間はかかるところだよ」

「それはその、ありがとうございます」

「さてそれではさっそく仕事を始めようか。ついてきたまえ」


そう言いながら地下研究所の奥まで通された。



*     *     *



「「「おはようございます。大尉」」」

「おはようございます」


研究所のメインルームに入ると一斉に研究員たちが挨拶してくる。

一応は大尉ということになっているので、こんな14歳になったばかりの子供の身なりでも皆丁寧に接してくれる。


「やあ!先任大尉殿!相変わらず今日も美少年ですな!しかし主任も気が利かない。早朝に仕事の電話なんてしたらあの金髪のお嬢さんとの甘いひと時の邪魔になったでしょうに」


……まあこういう例外もいたりはするわけだが。

ダライアス・ダナー大尉。自分と同じテストパイロットとしてこの研究所に配属されている火星軍の軍人である。

筋骨隆々でスキンヘッドという出で立ちの男性で良く笑う明るい性格。容姿もどこか愛嬌がある感じでコミュニケーション能力の高さが目立つ好漢だ。

個人的にもこの人のことは信用している。色々気を使ってもらうことも多いというのもあるがやはり接しやすい雰囲気がなにより良い。

立場を無視しすぎるのも問題だが、『自分たちより序列が上の子供』という非常にやりにくい存在である俺に恐る恐る接してくる人たちが多いこの研究所で周りとそれなりにやっていけてるのは彼の助力が大きいと個人的には思う。

まあ、それはそれとして……


(金髪のお嬢さんって噂の子供大尉の彼女さん?)

(なんでもすごいかわいい子なんだとか。金髪碧眼で)

(事務的なこと以外喋らない方だと思ったがやることやってるんだな。意外だ)


こういう興味本位な視線が来るから皆の前でルリィの話題を出すのは本当にやめてください。

というか普通にコソコソ話してるつもりなのかもしれないけど聞こえてますよ。

……普通だったらこの手のプライベートな話をオープンな場で振られたら個人的には嫌うところだがなんとなく許せてしまうのはダナー大尉の人柄故だろうか。


「甘い朝も何もあっちはちょうど家を出るところでしたから。むしろ主任は空気を読んだタイミングで電話をくれました」

「おやおや、そうだったのですか。主任、空気が読めないなど言って失礼しました!」

「気にしなくていいよ、ダナー大尉。私は心が広いんだ。……でも減俸な」


主任がそういうと周りの職員たちが一斉に噴き出した。

まあジョークなのは分かるのだが……一応少将の地位にある人の発言だから結構洒落になってないと思うのは俺だけなのだろうか?


*     *     *


「いやはや、減俸処分云々は正直ジョークかどうか一瞬わかりませんでしたよ。ハハハ!」

「ダナー大尉じゃなかったらまず本気だったと思いますよ。主任は」

「先任大尉殿もそう思いますか。いやはや朝から死線でしたな」


そう言いながらダナー大尉は笑っていた。

いや、あなた奥さんと二人の子供抱えてる身なんだから自分の稼ぎをホイホイ死線にさらすべきではないと思うのだが…。

そんな事を話しているここはテストパイロット専用の待機室。現在は試作兵器の起動前最終チェック中なのでそれが終わるまで閑談して時間つぶしをしているというわけだ。


「そういえば、この間ご相談された贈り物の件。どうでしたか?」

「ああ、上手くいきましたよ。流石に妻帯者のアドバイスだけあって的確だったようです」

「お役にたてて良かったですよ」


相談事とは約3週間前の話。

14歳の誕生日を迎えるルリィへのプレゼントに悩んでいた自分は相談相手としてダナー大尉を頼った。

ダナー大尉は以前に二度ほどルリィと面識があったのでプレゼントの方向性を決めるうえで何か知恵を出してくれる気がしたのだ。

とりあえずの相談の中で強く言われたのはこの一点だった。


『あまり高価な品はよろしくないでしょう。ルリィさんはそういうのは多分気に病むタイプです』


価格が高いものを贈っておけば少なくとも不満も出にくいし、気に食わなければ換金してくれればいいと思っていたといったら呆れ口調でこんなことを言われた。

『気持ちがこもっていれば良い』なんていうのは良く聞くフレーズだが、自分の気持ちにそこまでの価値をルリィが見出してくれる自信が正直無かった。

結局ダナー大尉のアドバイスを参考に俺が選んだのは、家事・炊事を任せきりのルリィのために実用性重視の最新便利調理器具一式と女性に人気のあるメーカーの大判ストールだった。

ダナー大尉に選んだ品を事後報告すると調理器具一式に関しては『先任大尉殿らしいですな』とどこか苦笑い。ストールに関しては感心した感じのリアクションだった。

……そんなにダメだろうか。実用性特化の調理器具セット。


「しかし、ガールフレンドへの誕生日プレゼントで悩んでいると言われた時は失礼ながら驚きました。そういうのも先任大尉殿はそつなくこなすイメージでしたからな」

「ルリィとは10年近くの付き合いがありますがまともにかかわるようになったのはここ4年程度ですから。一緒に住み始めるまでは贈り物をするほど気安い関係では無かったんです」

「なるほど。4年目にしてようやく先任大尉殿もひとつ関係を進める気になったわけですな。ハハハ!」

「まあ、そんなところです」


普通は4年も一緒に居れば関係がどうであれ贈り物ぐらいしてて不思議ではない。たぶんダナー大尉もそう思ってる。

そういう風に突っ込まず、何か事情があるのかもと察してあえて明るい感じで話題を終わらせる辺り、他人との距離感の取り方がよく分かっているのだろう。

実際、一緒に暮らし始めた4年ほど前に何かしらプレゼントはしようとはした。だがその時は固辞されてしまったのだ。

受け取れない理由をルリィに聞くと『これ以上甘えるわけにはいかない』という事だった。

ものすごく申し訳なさそうに断るものだから何かを贈っても逆に迷惑になると思い、以後4年間なにもプレゼントせずに来てしまった。

おかげで何を贈ればいいのか一切わからず迷走していたわけだ。

本音を言えば何かをルリィにプレゼントする日は来ないと思っていた。

この1年で元同僚の同居人から男女の仲になるという関係性の変化はあったが、そこまで劇的に余所余所しさが解消されるというイメージが一切沸かなかった。正直、すぐに元の関係に戻る可能性の方が高いと思っていた。

結果的には杞憂であり、今はいい関係を築けていると思う。

今の時刻はちょうど昼の12時30分すぎ。ルリィは学校で昼食でもとっている時間だろうか。


『整備班より連絡。起動準備完了との連絡あり。テストパイロット二名は速やかに搭乗してください』


そんなことを考えていると待機室にアナウンスがかかる。


「ようやく整備が終わったようですな」

「そうみたいですね。それでは仕事をしましょうか」

「今日は模擬戦でしたな。先任大尉殿相手では五分以上粘れる気がしませんがね」


専用武装のデータ収集のための模擬戦。それが今日の仕事内容だった。

この施設で行われている新型兵器開発もいよいよ佳境だ。来週には完成した機体と装備の実戦部隊への引き渡しが始まる。

ダナー大尉ともあと1週間程度の付き合いになるだろう。俺の仕事も来週以降はどうなるのか詳しいことは現段階で未定だ。

この2年間、ずいぶんと仕事をしたと自分でも思う。できればしばらくは休みをもらってゆっくりしたいところだがどうなるのか。


何はともあれ、残り1週間。何事もなく終わればいい。

そんなことを考えながら自分がテストパイロットを務める最新鋭機『ヴァニティ』のコックピットに向かった。

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