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Blade of Memories  作者: FT
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プロローグ

プロローグ


目の前に炎が広がっている。

見知った建物が燃え落ちていき、知人が目の前で焼死していく。

血を流し、地面に倒れている者も多い。

今は夜だというのに、炎のせいで驚くほど辺りは明るかった。


しばらくすると救助や消火活動のための人員が次々と集まってきた。

そのうちの一人がこちらに向かって問いかける。

困惑と悲嘆交じりの声で「なぜこんな事をしたのか」と。

別の者もそれに続いて声を上げた。

怒りと殺意を込めながら「何故、我々を裏切ったのか」と。


仕方がなかった。俺もこんなことはしたくなかった。共に命をかけて戦い、同じ釜の飯を食い、良き信頼関係を築き上げてきた戦友を好き好んで殺す人間がどこにいる。

でも……もう俺には、()()()()これ以外の道が無かった。

生まれてからずっと誰かに命令され、いつ死んでも構わない消耗品同然の環境から抜け出すにはもうこれしかなかったのだ。

ここには自由が無さ過ぎる。何のために戦うのか、誰のために命を捨てるのかすら選べない。

俺は建前で塗り固められた綺麗なお題目や見知らぬ人々や市民のためなどではなく、自分にとって大切な誰かのためにこの命を使いたい。

ひどく自己中心的なのは分かっている。モラルとしては下の下だろう。でも俺は、顔も知らない誰かのために命を捨てられるほど人間が出来てはいない。


さあ逃げるぞ。俺は以前、お前に助けられた。だから今度はこっちの番だ。

無事に逃げきれれば、もう自分に嘘をつきたくないと言って泣くようなことだってきっと無くせる。

以前にお前が行きたいと言っていた普通の学校にも通えるように手を尽くす。

こんな場所からはさっさと離れよう。

俺達にはもっと自分たちが望むように生きられる場所がどこかにあるはずだ。

仮に無くても、作ってみせる。

それぐらいの気概を見せなければ……いや、実際にやり抜かなければアイツだって死んでも死にきれないだろう。


もう、後戻りはできない。

唯一の友人を踏み台にしてまで、進むと決めた道なのだから。


*     *     *


「シュン!大丈夫!?シュン!」

「うっ……あぁ………。えっ……あぁ……ルリィ……?」

「はい……おはようございます。その、酷くうなされてたみたいだから起こしましたけど……」

「うなされていた?そう……夢か……」


目の前には、幼いながら整った顔立ちの長髪で金髪の少女が居た。

少女の青い瞳は不安一色に染まり、片手は俺の手を握っている。

たぶん、うなされている俺を見て咄嗟に掴んだのだろう。


「悪い夢を見ていたのですね」

「5年前の……一緒に逃げ出した時の夢を見ていた。実際よりもだいぶこっちに都合よく美化されてた気がしたけど」

「そう、ですか……」


5年前と言った途端、金髪の少女ルリィ・リリアントの表情が曇った。

しまった……寝ぼけているせいか素直に夢の内容を話してしまった。

この話をすればルリィがこういうリアクションを取ることはすぐに察しがついただろうに。

我ながら寝起きは頭が全然回らず嫌になってくる。


「ああ、いや変に気にするなよ?別にあの時のことは後悔してないし。うなされるほど悩んでるなんてことは一切ないからな」

「はい……わかってます」

「いや、その反応は分かってないだろう。『私のせいで苦しんでるんじゃ』と気にしてますって表情に出てるぞ?」

「いえ、そんなことはない、です……よ?」


……なんというかわかりやすいなぁ。

とはいえ、昔は嘘が上手すぎて色々苦しむことになったのだからきっとこれは良い事なのだろう。

少なくとも、一緒に暮らしている相手にすら本音を隠し切って過ごしているより、思わず顔に出るぐらいの方がよほど健全だと思う。


さて、それはそれとしてこの場はどう納めるか……。

ルリィの立場と性格を考えると気に病むなと言うのが土台無理な話なのは俺も承知している。そして、気に病んでいる理由もこちらへの気遣いから来ているものであるのは明白なので態度を責めるようなことを言うのも良くはないだろう。

だったら―――


「腹減ったな」

「えっ?」

「なんというか、うなされて汗かいたせいか空腹が酷い。学校の制服着て俺を起こしに来たって事は、朝食はもう出来てるんだろう?」

「あ、はい。準備はできてますよ」


―――さっさと話題を変えるに限るだろう。

平行線をたどるだけの話を延々続けても疲れるだけで得られるものはたいして無い。

少なくとも、今は。


「それじゃさっさと食べるかな。リビングまで行こうか」


俺がそういうとルリィは微笑みながら「はい」と返事をした。

うん、やはりこれが正解のようだ。


*     *     *


「ご馳走様。おいしかった」

「お粗末様です」


朝食を食べ終え、自分の分の食器を洗った俺はテレビの電源をつけ、適当にチャンネルを回していた。

一方、ルリィの方は学校へ行くための準備をしているようだった。

ただいまの時刻は7時30分。ルリィは部活動などは一切やっていないのだからもっと遅くてもいいのだが、友人と一緒に登校するためにこの時間には家を出る。


「よし、これで全部。それじゃあシュン、私は学校に行きますね」

「ああ、行ってらっしゃい」

「そういえば、今日は何時くらいに帰ってきますか?」

「たぶん今日は遅い。11時くらいか……もしかしたら日をまたぐかもしれない」

「わかりました。お仕事、頑張ってくださいね」


そういうとルリィは家を出て行った。

さて、仕事の時間まではまだまだ時間がある。今日は昼の12時までに仕事場に行けばいい。つまりあと4時間以上時間がある。

流石に暇を持て余す。かといってもう一度寝る気にもならない。

さて、何をして暇をつぶそうか。考え込んでいると、自分の携帯電話に着信が入った。正確には、仕事専用で使っている携帯電話に……であるが。


「はい、キリサワです」

『おはよう、大尉。朝早く申し訳ないね。今、大丈夫かね?』

「おはようございます、主任。どうかされましたか?」

『例の5番機のテストだが予定されていたより調整が早く終わった。ついては予定を早めてさっそくテストを始めたいのだが今から研究所に来れるかね?無論、急な話だ。無理にとは言わない。予定通り本日の13時からでも構わないがどうするかね?』

「大丈夫です。お気遣いなく。それでは、ただちに向かいます」

『すまないな大尉。それでは待っている』


そこで通話は終わった。早く起きていて助かったというべきか。おかげさまで急な呼び出しに対しても対応できた。

……しかし、予定通り13時からでも構わないと言っておきながら『テストを早める』と先に言いだすあの言い方。拒否権など最初から無いと言わんばかりで少しげんなりする。突然、仕事のスケジュールが早まるだけでもテンションが下がるのだが高額な給料が出ているだけまだマシか。


「とりあえず、さっさと準備するか……」


ルリィには伏せてある俺の仕事。それは新機軸の兵器であるA(アームズ・)H(ヒューマノイド)の開発協力とテストパイロット。

5年前、地球の軍隊を脱走するまでやっていた仕事と全く同じことを今は火星の軍隊の中で行っている。折角戦争から距離を置いたのに、また戦争に関わってると考えるとなんとも間が抜けた話だと思う。

だが結局、飯を食べていく方法がこれ以外思いつかなかったのだ。そもそも14歳の子供が2人だけで不自由なく生きていこうとするとなかなかにまともな手段が限られる。社会保障もほとんど期待できない火星の現状では子供というだけで金銭を恵んでもらえるような甘い話も無い。


時に、西暦2413年。

人類史上、最初の星間戦争の真っただ中で俺達は生きていた。

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