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五日目

途中で行商人と別れてから徒歩で移動して鬱蒼と茂る森の中を進んで行くと、森の中にぽっかりと空いた空間に出た。

「………………………………よもや、盗人が自らの足で戻ってくるとは探す手間も省けたというものよ」

くっくっくっと喉を鳴らす。

眼前に広がる巨大な翼と全身を覆う赤い鱗。小山のような巨躯、丸太のような手足と長い首と尻尾。

無骨に鋭い鉤爪、ぞろりと並ぶ鋭い牙。

その壮絶な力を前に成す術がなく、誰もが平等にひれ伏し。

敵も味方もなく、己の欲のままに力を振るって猛威を知らしめる。

弱き者を圧殺し、強き者も圧殺する暴力の化身。

そして、森羅万象の頂点に立つ王者―――――――ドラゴン。

詩音達はそこに住まうドラゴンと対面する。

そのドラゴンに睨まれて詩音の後ろに隠れるシロット。

「ドラゴン。まずはどうか話を聞いて欲しい。ここにいる兔人族は貴方のドラゴンアップルを狙ったわけじゃなんです。三日三晩モンスターに追いかけ回されて仕方がなくドラゴンアップルに手を出してしまっただけなんです。ここに来たのも謝罪の意思がありますからこうして足を運ばせて貰いました。誠に申し訳ありません」

「申し訳ありませんでしたぁぁぁあああああああああああああああああああっっ!!」

詩音が頭を下げ謝罪するとシロットもその場で勢いよく土下座を披露する。

そしてセルも主人に習って頭を下げる。

「そんなもので我が許すと思っておるのか?」

だが、そのドラゴンはその程度で怒りを収めることはできなかった。

「我が、我がどれだけ楽しみにしていたかわかるか? 十年以上前にドラゴンアップルの若木を見つけ、それから実を楽しみに、せっせと育て………………その日の瞬間をどれだけ楽しみにしていたかわかるか………………? 雨の日も風の日も身を削って育ててきた我の苦労がわかるか………………………? 実を奪いに来た同族から守り続けてきたのだぞ…………………。それを………………………それを………………………そこにいる兔人族の小娘が一つ残らず全部食べたのだぞ!? 一つだけならまだしも全てだぞ!? どう許せばいい!?」

憤るドラゴンのその瞳には涙が溜まっている。

しかし、その気持ちはよくわかる。

楽しみに育てたものを横からかっさられたら怒るのも無理はない。

それが全部なら尚更だ。

ドラゴンの苦労と怒りが切実に伝わってくる。

「我はもう怒りで正気が狂ってしまいそうだ!? 300年も生きてこれほど怒りを覚えたことはない!! この怒りを少し鎮める為にもそこの兔人族の小娘を食う!!」

「ひぃぃいいいいいいいいいいいいいいッッ!! お、お許しをぉぉぉおおおおおおッッ!!」

「許せるわけなかろうが!?」

大口を開けて今にもシロットを食べようとするドラゴンの嘆きも怒りもよくわかる。

だが、流石に友人を見殺しにすることはできない。

「どうかそれは勘弁してあげて―――」

「焼兔にしてくれるわぁぁぁあああああああああああああああああああああッッ!!」

詩音の言葉を遮るようにドラゴンは口から炎の息吹(ブレス)を吐き出して三人はドラゴンの炎に呑み込まれてしまった。

鋼鉄すらも溶かすドラゴンの息吹(ブレス)

灼熱猛火の称されるその炎を一身に浴びれば灰すらも残さずに燃え尽きるだろう。

「おい」

「な――――」

それが常識に囚われている人間だったらの話だが。

ドラゴンの炎に呑み込まれた三人は全くの無傷。服すらも焼け焦げていない。

「………………………………今回の一件は完全にこちらが悪いから穏便に済ませようと思った。だけど、今の息吹(ブレス)は完全に殺す気だったな」

瞳に怒気を含ませて一歩を踏み出す詩音にドラゴンは思わず一歩下がる。

そんな詩音の姿にセルは呆れたように小さく息を吐いた。

「穏便に済ませればよいものを………………………」

怒らせてならない人を怒らせた。

セルはもはやドラゴンに同情も哀れみも抱かない。

ドラゴンが怒らせたのは人類最強の人間だ。

刹那、詩音は姿を消した。

「ど、どこに―――」

「ここだよ」

一瞬でドラゴンの真下に移動した詩音は拳を作ってその拳でドラゴンの顎に叩き込む。

「――――――――っ」

気が付けばドラゴンは空を飛んでいた。いや、殴り飛ばされていた。

そして、そんなドラゴンよりも高い場所に姿を現す詩音は拳を振り上げて――――

「ま――――」

「反省しろ!!」

振り下ろされた拳が炸裂。ドラゴンは地面に叩きつけられた。

「な、なんという力………………………」

もはや立ち上がる力さえもないドラゴン。地面に着地した詩音はドラゴンに歩み寄る。

「ど、どうか命だけは………………………」

「取らないよ。ちゃんと反省してくれたらだけど」

「も、勿論反省しました! もう二度とあのような愚行はしないと約束します!!」

「ならよし」

しっかりと反省してくれたドラゴンに満足そうに頷く。

その光景を少し離れた場所で見ていたシロットはあまりの光景に理解が追いつかず、全身の力が脱力したようにぺたんと座り込む。

「す、素手でドラゴンを倒したのですか………………?」

自身が見た光景と常識がかみ合わないシロットは理解も納得も追いつかないが為に思考を放棄した。

「まぁ、そういうこともありますよね」

「ありません。まぁ、気持ちは同意しましょう。このようなことができるのは世界でただ一人、私のご主人様だけでしょうから」

人間はドラゴンに勝てない。

誰かがそう言っただろう。だが、現実は違った。

「ご主人様のお言葉を借りるのならチートでしょうね」

「ちぃと、ですか?」

「反則、異例。そういう意味です」

ああなるほどと納得した兔人族(シロット)だった。

そんな二人に気付かず、詩音は次の行程に移る。

「さて、ドラゴン。そのドラゴンアップルの樹木はある?」

「はい、それならあちらに………………………」

ドラゴンの爪が指す方角に一際大きな樹木があった。

地球で見た林檎の木よりも大きいその樹木を見て詩音は根本的問題の解決を執り行う。

「まずは作農能力(スキル)

作農能力(スキル)である土壌確認を行う。

能力(スキル)はレベルが上がればそのレベルに適した技能を獲得することができる。

作農能力(スキル)にある技能の一つ、土壌確認はその名の通り一定範囲内の土壌の健康状態を把握することができる。普通であればLvMAX状態でも1kmも届かないがその限界を突破している詩音はそれ以上の距離を把握することができる。

「土壌健康状態異常なし。次、植物鑑定」

ドラゴンアップルの樹木の状態を確認して異常がないのを確認すると今度は魔法を行使する。

「土初級魔法【アースウェイブ】」

土を掘り起こす。それだけの魔法。だが、圧倒的魔力量を保持する詩音が使えば大地が盛り上げて津波のように木々を薙ぎ払って耕地へと姿を変えることも容易い。

「土初級魔法【アースゴーレム】」

続けて数百体の土人形(ゴーレム)お呼び出して薙ぎ払った木々を別の場所に移り返しておく。

ある範囲の耕地を完成させると今度はドラゴンアップルの樹木の枝をいくつか折る。

「お、おい」

大切に育てている樹木の枝を折られて思わず制止の声を上げるドラゴンだが―――

「生命初級魔法【ヒールレイション】」

傷を再生させる生命魔法。対象のエネルギーを消耗させて傷を癒す魔法なのだが、今回は植物。大地からエネルギーを吸収している樹木そのものに損傷はなく、折られた枝もすぐに元に戻った。

詩音は次に折った枝を更に細かく折ってそれを空に放る。

「風初級魔法【ブリーズ】」

そよ風を生み出す風魔法で細かく折られた枝は風に乗って耕地に振りまかれる。

「作農能力(スキル)、成長促進」

植物の成長を促進させる作農能力(スキル)を発動させる。

すると―――

「な、なんと………………………」

「す、すごい………………………」

「流石はご主人様です」

その光景に驚き、頷く二人と一体。

つい先ほどまで森だった場所がドラゴンアップルの樹木に埋めつくされているだけではない。

「実が、こんなに………………………」

シロットに食べられたドラゴンアップルの実が数え切れないほどに実っていた。

たった一つしかなかったドラゴンアップルの樹木が数十にも及ぶ数に増えたこの光景に何度も目を擦って確かめるドラゴンに詩音は声をかける。

「ドラゴン。この全てが欲しいのなら条件が三つある。一つ、ここをしっかりと管理すること。二つ、欲しい者がいれば必ず分け与える事。独り占めは厳禁。三つ、腹を空かした人には必ずこの実を食べさせてあげる事」

その条件にシロットは詩音に熱い眼差しを向ける。

「この三つの条件が呑めない、守らないのなら今すぐに枯らす」

「ま、守ろう! 我が命に賭けてその条件を守ろう!!」

即答で返すドラゴンに詩音は二人に歩み寄る。

「さて問題も解決したことだし、帰ろうか」

「はい」

来た道を戻っていく詩音とセル。そんな詩音の後姿をぽけ~と見つめるシロットに詩音は振り返って声をかける。

「どうしたの? 帰るよ」

「あ、は、はい! すぐに行きます!」

シロットは二人の後を追いかけるように駆け出す。

これで問題は解決。ドラゴンが条件を守ってくれれば争いも減って平和になるだろう。

満足した詩音は軽い足取りで街に帰った。





それから数日後。

「シオンさぁぁぁぁん助けてください~~~~~~~~~!!」

「黙りなさい。奴隷兔」

またシロットはやってきた。今度は首に奴隷の首輪をつけて鎖に繋がれた状態で。

そしてその鎖をどういうわけかセルが握っている。

「えっと…………………どういうこと?」

目を瞬かせて尋ねるとセルは溜息まじりで答えた。

「この駄兔、いえ、奴隷兔は先日詐欺師に騙されて多額の借金を背負わされて奴隷商に売られたところを買い取って来ました」

「うぅ………………シオンさんに何かお礼をしなきゃって思ったのですよ………………………」

「それで詐欺師に騙されるなど愚かの極みです」

しくしくと泣き崩れるシロットに呆れるセル。二人のやり取りに詩音は苦笑いしながら声をかける。

「ならすぐに奴隷から解放して」

「ご主人様、それは賛同できません。奴隷から解放してまた奴隷落ちになったらどうするのですか?」

「ああ………………………」

「ああってなんですか!?」

説得力のあるセルの言葉に納得してしまう。

「もういっそのことうちでこの奴隷兔を飼いましょう。雑用でも性奴隷でも実験でもそれなりの役には立つでしょう」

「実験ってなんですか!? せめて性奴隷で留めてください!!」

「そっちはいいの…………………?」

知らない仲ではないとはいえ、女の子がそう簡単に身を委ねる発言に溜息が出る。

というよりも夜の相手は別に困っていない。

でもセルの言う通りまた奴隷落ちしたら大変だ。雑用や店番でもして貰おうと詩音はシロットに手を伸ばす。

「まぁ、改めてよろしく」

「はい! よろしくお願いします、シオン様!!」

こうして新しい家族(どれい)が増えました。


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