使用人の一日
創造店『クリエイション』の店内では多くの物が売られている。
日常品に使う、調理器具から幼い子供が使う玩具。
普段着や肌着、マニアックな服。
冒険者が使う回復薬から武具。
職場に使う工具や機具。
それらを販売しているのが創造店『クリエイション』だ。
何でも作りますというキャッチフレーズ通りこの店には作れるものは全て販売されている。
他の店を回って買うより、この店で纏めて買える方が余計な時間をかけずに買い物を終わらせられる。
それで稼ぎがいいと言われれば微妙な所なのが痛い。
格ギルドから依頼がくるからある程度は稼げてはいるのは確かだけど、店に足を運ぶ客は少ない。
その為に詩音は出稼ぎのようにあちらこちらと動いている。
そして、店に来る客といえば―――
「へへっ、姉ちゃん。こんなところで店番なんかしてないで俺達と遊ぼうぜ?」
「な、いいだろ?」
荒くれ者の冒険者が店番をしているセルにナンパしてくる客が一番多いのが悩みどころだ。
「お客様。商品をお買い上げにならないのであれば他のお客様のご迷惑となりますのでお帰りください」
そんな相手でもセルは営業スマイルで対応する。
「客? そんなんどこにいんだ?」
他の客にガン飛ばして店から追い払うチンピラ冒険者達は卑下な笑みでセルの全身を舐め回す様に見ている。
「………………………………これ以上は営業妨害として強制的に排除させて頂きますが?」
営業スマイルを崩すことなく静かな怒気を滲ませるセルだが、そんなことにも気づかずにチンピラ冒険者はおかしそうに笑った。
「おー怖い怖い。どうやって俺達排除されちゃうんだろー」
「きゃーこわーい」
「たすけてーおまわりさーん」
「……………………警告はしました」
ふざけた態度を取るチンピラ冒険者にセルは腰に携えている細剣を取り出して一閃。
「ごっ!?」
鞘に収めた状態の細剣の一突きがチンピラ冒険者の一人を打倒する。
「て、てめえ、ガっ!?」
仲間が倒されて慌てて剣を抜こうとするも、それよりも早くセルはチンピラ冒険者を瞬く間に倒し終えると小さく息を吐いて喉をやられて呼吸困難を起こしているチンピラ冒険者を踏みつける。
「どうして私が貴方方のようなゴミ以下の屑に愛想よく笑みを振りまいているのかおわかりですか? 全ては私の愛するご主人様が誠心誠意お作りになられた商品を売る為ですよ? そんなことも理解出来ないのですか、この屑は。ああ、申し訳ありません。屑に理解を求めようとした私が馬鹿でした。そこは謝罪致しましょう。ですが、貴方方の屑のせいでいったい何人お客様が減ったのかおわかりですか? それだけご主人様の商品が売れなかったら分だけ貴方方が買って頂けるのですか? それでしたら私も非常に腹立たしいことですが、愛想笑いぐらいはしてあげますよ? しかし、噂はどう頑張って消えないものなのですよ。あの店にはガラの悪い屑の溜まり場と噂が広まったらお客様が減ってしまうではありませんか? おわかりいただけますか? そうなったら私の愛すべきご主人様自らの手で作りだした商品が売れず、ご主人様自身も負担が増えるのですよ? 疲れたご主人様を癒すのも私の役目ではありますし、望まれるままに、求めるままに私の全てをご主人様に捧げても一向に構わないのですが、ご主人様に悲しい思いをさせたくないのですよ、私は。だから私は貴方方のような屑でも最初は愛想笑いするようにしているのです。我慢している私の気持ちがわかりますか? わかりませんよね? 本当にどうしてこんな屑は息をしているのでしょう。さっさとモンスターの餌にでもなってしまえばいいのに。そうすればもう少しはこの世界は優しくなると思いません? ああ、処分したい。でも、殺したらご主人様の名誉に傷をつけてしまいますね。それは使用人として避けるべきことです。本当にこの屑のせいでストレスがマッハに溜まっていきます。今日もご主人様に存分に可愛がってもらいませんと、さて、長々とお喋りするのもこの辺でやめておくとしましょう」
セルは店にある試験管を持ってきて店内に倒れているチンピラ冒険者達に見せつける。
「ふふ、これはご主人様がお作りになられました回復薬です。それも並みの回復薬ではありません。死んでいなければどんな重症を負っても瞬く間に傷を癒してくれる万能回復薬です。凄いでしょう? 凄いですよね? 私のご主人様はこのような素晴らしい物まで貴方方屑にも販売できるようにしてあるのですよ? 本当に心優しいお方だと思いませんか? 勿論、これだけではありません。この店にあるもの全ては他では手に入らない物ばかり全ての人に平等に販売しております。そのような配慮までされているこんな素晴らしい商品が売れないのはおかしいと思いますよね? そこで貴方方屑にでも私はご主人様を習って販売しましょう。しかし、先ほどの態度と営業妨害も踏まえて適正価格の十倍のお値段でこの万能回復薬をお売りしましょう。お値段はお一つなんと百万Gです。お安いでしょう? 勿論買いますよね?」
「……………………ッ………………………ッ!」
セルの言葉にチンピラ冒険者は必死に首を横に振るもセルは踏み付けている足に力を入れて続ける。
「痛いでしょう? 苦しいでしょう? これを飲めばすぐにその苦痛から解放されます。ああ、もしかしてお金が足りないのですか? ご安心してください。お金がないのでしたら借りればいいのです。この店から出て左を真っ直ぐに進んだ先に高利貸し店があります。そこでお金を借りてこちらの商品を買えばいいのですよ。あ、万が一に逃げようなど、この店の悪評を広めようとするのであれば処分しますのでくれぐれもそのようなことはないようにお願いしますね? それでお買い上げになりますか? なさらないのですか?」
愛想笑みを浮かばせながら選択を促すもそれは強制だ。
チンピラ冒険者は苦痛と恐怖に身体を震わせながら確かに首を縦に振った。
「では、こちらにサインをお願いします。ふふ、私はご主人様のできる使用人。こんなこともあろうかと高利貸し店から契約書をお預かりしているのです。貴方方のようにお金がない人達も考慮している私って立派だと思いませんか?」
それは悪魔に憑りつかれたような魅惑の笑みだった。
そして自分達は愚かにもそんな悪魔に近づいてしまった生贄でしかなかった。
その日を境にチンピラ冒険者はこの街で姿を見せなくなったことに誰も気づく者はいなかった。
「ただいま」
「お帰りなさいませ、ご主人様」
そして彼女はいつものように自分の主人の帰りを心から待っていた。
「ふふふ」