転生前
「芳賀詩音さん。残念なことに貴方はお亡くなりになりました」
気が付くと詩音は真っ白な空間で目を覚まし、眼前には金髪の美少女が悲しげにそう告げた。
「えっと…………どちら様で?」
「申し遅れました。私は女神アウルと申します。この度は詩音さん、貴方の命の終わりを告げに参りました」
「………………………………ああ、そっか」
命の終わり。その言葉を耳にしてようやく自分が死んだことが理解できた。
「貴方が助けた女性は無事に警察に保護され、男も逮捕されました。しかし残念ながら警察の方が駆け付けた頃にはもう貴方はお亡くなりになっていたのです。心中お察しします」
心から詩音の死を哀れんでいる女神に詩音はなんだか申し訳ない気がしてならない。
「いえ、女神様がお気に成すことは何一つありません。それに、あの時は自分でも何であんな行動を取ったのかと思っていたぐらいですし………………………」
「それでも貴方の勇敢な行動であの女性は救われたのです。結果は死を招いてしまいましたが、私は一人の女神として貴方を称えましょう」
女神様から直々に褒められて苦笑しながら頬を掻く詩音に女神アウルは本題に入る。
「本来なら貴方にも輪廻転生し新しい人生を歩んで欲しいのですが、貴方にはとある選択を取ることが出来ます」
「選択、ですか……………?」
「はい。芳賀詩音さん、貴方は異世界に興味はございませんか?」
「………………………………それって異世界転生ですか? あの漫画でよく出てくる?」
「その通りです。実は異世界でも地球と同じように亡くなった方はその世界でまた新しい命として誕生するのですが、地球とは違って異世界ではモンスターに食べられたり、嬲られ、犯されて殺されて亡くなる方もおりまして、転生したくないという方が増えているのです」
「それは………………そうでしょうね」
苦笑しながら説明するアウルにその世界で亡くなった方々に同意してしまう。
「色々と説得を試みているのですが、とある神がこう提案したのです。『では、別の世界の人間と入れ替えて転生してみるというのは?』と。その案は採用されて現在、別世界、詩音さんの地球に転生を望む者が増えているのです」
「なるほど。俺がそっちの世界に行く代わりにそっちの世界の誰かが地球に転生するというわけですね」
「はい。しかし、誰にでもそうしているわけではありません。こちらの世界で生活する以上は特典を与える決まりがありまして、その特典を悪用しない一定以上の人格者のみを限定にして望まれるのなら異世界に転生するようになっているのです。いかがしますか?」
尋ねてくるアウルに翔は首を傾げながら言う。
「俺ってそんなに人格者じゃないと思うんですけど………………………」
「それでしたらここにお呼びするわけがありませんよ」
そう即答された。
「勿論拒むこともできます。地球で新しい人生を歩むこともできます」
「………………………………その異世界ってどういうところですか?」
すぐには頷けれない詩音は異世界の事について尋ねる。
「地球のゲームと似たようなものです。レベルやスキルは勿論のこと、モンスター、獣人、エルフなども存在しますからゲームの世界に転生したと思って頂ければ大丈夫です。あ、勿論言語も可能にしておきます」
なるほど、と詩音は腕を組んで考えて、もう一つ特典の方も訊いてみる。
「特典ってどんなものですか?」
「何でもです。望まれる能力、武器、魔法。望まれる力を与えます。ただし、ポイント制ですから気を付けてください」
「ポイント制なんだ…………」
「因みに詩音さんは最後の人助けが大きく貢献されて所持ポイントが76Pですから大抵のことは叶えられますよ?」
何かしらの書類をめくってポイントを教えてくれるアウルは紙を束ねた冊子を詩音に渡す。
「こちらが特典の参考資料になります。よければどうぞ」
「ありがとうございます」
早速その参考資料に目を通していく詩音。
聖剣エクスカリバー、魔剣グラム、超怪力、超能力、魔法強化………………etc
様々なあるなかで詩音は考える。
確かに一度は使ってみたいものばかり。だが、基本的にどれも戦闘系ばかり。
これでは戦えっていわれているようなものだ。それは自分の安全・堅実のモットーから外れてしまう。
だけど異世界といえば危険がいっぱい。戦うまでも身を護る手段は必要だ。
そして職がつける能力もいる。
生涯現役冒険者とは普通に考えて無理だからと、詩音はふと思ったことを訊いてみた。
「あの、初めからLvMAXってできますか?」
「え、あ、はい。可能ですよ? 50ポイントですから詩音さんのポイントなら可能ですが、それなら強力な武器や魔法を選んで地道にレベルを上げれば時間は多少はかかりますけど到達しますよ?」
「いえ、これでいいです。剣なんて竹刀すら握ったこともない俺が持っても意味がありませんし、強力な魔法を持っても使える自信がありません」
これなら自分の身を守れるし、必要以上の戦闘は回避できる。
我ながら言い判断だと胸を張る。
「……………………まぁ、詩音さんがそれでいいのでしたら構いませんが、残りのポイントはどうなさいますか?」
「それならこの〈作製〉でお願いします。15Pなので大丈夫ですよね?」
「は、はぁ………………………」
目を丸くしながらも頷くのを確認してもう一度〈作製〉の項目に視線を向ける。
《固有能力〈作製〉はありとあらゆる物を作り出せる。道具、農作物、料理、薬物など人の手で作れる物限定だが、無から有も作り出せる。道具、材料があればより精度の高い物も作製可能。補助として作製に必要な知識、技術は能力取得と同時に脳に刻まれる》
明らかに非戦闘系の能力だが、詩音は日常生活で金を稼ぐためにこれ以上にない能力だと自負できる。
「では、残った11Pはどうしますか? お勧めは5Pと6Pずつに分けて全魔法適性と能力向上はどうでしょう?」
「それでお願いします」
欲しい特典は手に入れた詩音は最後は女神様からのお勧めに素直に首を縦に振った。
女神アウルは句中にキーボードのようなものを出現させて打ち込むと、詩音の足元に魔法陣が展開される。
「それでは詩音さん。貴方の新しい人生に祝福があることを」
「ありがとうございます。では、いってきます」
「はい」
女神に見送られながらも詩音は異世界に転生した。