十三日目
工房で鉄を叩く音が響く。
赤色に染まった鉄を叩き、凄まじい金属の打撃音が甲高く響き、叩く度に鉄は形を変えていく。
散る火花。赤い閃光。
振り下ろされる槌を一振り一振り魂を込めて打ち込む。
「ふぅ~」
最後の行程を終わらせて一息つく詩音は今日は商品の品物を作っている。
最近では少しは売り上げが上がってきている為に時折は商品の品物を作る必要性も出てきた。
嬉しいことだ、と思いながら出来上がった剣に刻印を施して休憩に入る。
「あ、お疲れ様です!」
「あ、シロットも休憩中?」
「はい! 先ほど配達も終わりましたし、後ほどセル様と交代です」
居間に行くとシロットがソファで寛いでいたが、詩音の登場に嬉しそうに兎耳をパタパタと動かす。
「何か飲み物ちょうだい」
「はい!」
「ありがとう」
俊敏な動きで飲み物を持ってくるシロットから飲み物を受け取り口にして喉を潤す。
「シオン様、膝枕をしましょうか? それとも私の胸で癒されますか?」
「壁に手をついてお尻を突き出して。鞭打ちするから」
「なんでですか!? そんなのセル様一人で間に合ってます!!」
「セル、してるんだ………………………」
シロットをからかおうと冗談で言ったのにまさか自分の使用人が先に兔を調教しているとは露にも思わなかった。
「うぅ、思い出すだけでもお尻が………………………シオン様に夜の奉仕を満喫する為に私は尊い犠牲になっているのですよ………………………」
「そっか。ありがとう、シロット。お礼に今夜一緒に寝よう? 鞭、用意しておくから」
「やめてください!! ………………………それは、シオン様となら、それで…………別にいいのですが、やっぱり、私も普通に愛されたいです」
「そういう愛もある」
「ないですよ!!」
とことんからかいがいのある兔だ。反応が新鮮で面白い。
というよりも、いずれ自分はセルに鞭打ちされる夜が来るのだろうか?
そんな不安が脳裏を過る。
最近、夜の主導権はセルに握られている気がするからないとは言い切れない。
今もなお主導権を握れていると思えるのは眼前にいる兔ぐらいだ。
ソファに腰を下ろして座る詩音とその隣にシロットは座って詩音の肩に頭を置く。
「ふふふ、セル様もトレイヤ様もいない今、シオン様を独占です」
「はいはい」
調子よく笑うシロットに苦笑しながら兔耳を撫でると、気持ちよさそうに頬を緩ませる。
「あ、そういえばシオン様に聞きたいことがあったのです」
「なに?」
「どうしてシオン様は口酸っぱくも安全・堅実がモットーと口にするのですか? 確かにいい心がけとは思うますが」
「ああ、それね。確かにセルにしか話したことなかったな」
頬を掻きながら苦笑する詩音は自分が掲げているモットーについて説明する。
「実は、俺の父親、父さんは賭博中毒者で借金してまで賭博をしまくって、挙句の果てに借金を俺と母さんに押し付けて逃げたんだよ」
「え………………?」
「多額な借金を背負わされて住んでいた家も売り払って、ボロボロの安アパートで二人暮らし。母さんは朝は早くから夜遅くまで仕事で俺は家で一人で留守番。母さんの温かいご飯を食べたのだって数えるほどだ」
思い出す昔のこと。
テレビもない最低限の家具だけの狭い部屋で一人で寂しく家にいる自分を思い出す。
「寂しかったし、辛かった。それに甘えたかった。我儘なのはわかっていても感情はそうはいかないから我慢するしかなかった。たまに会う母さんに笑って『大丈夫だよ』って言うのが精一杯で、借金がなくなるまで我慢してたんだ。まぁ、今はその反動もあってセルや皆に存分に甘えているんだけどね」
苦笑しながら話を続ける。
「だから俺はそんな父親を反面教師にして安全・堅実をモットーにしたんだ。寂しさなんて感じない賑やかな家族を作りたいから………………………って、なに泣いてんの?」
「うっうっ……………シオン様の気持ちを考えるだけで涙が止まりません………………………」
「大袈裟な………………もう昔の話だよ?」
涙を流す兔の頭を撫でる。
「私にも存分に甘えてください! シオン様が望まれるのなら何人だって子供を産んでみせます!」
「はいはい、それは生活が安定したらね」
「はい!」
隠すことなく好意を素直に口にするシロットに詩音も好感を持っている。
「私もご主人様の子供を産みますよ」
不意に聞こえた声に振り返るとセルが扉を開けて立っていた。
「私も家族が欲しいです。それもご主人様と作る幸せな家族を。初めはやっぱり男の子がいいですね。あ、でも女の子も捨てがたいです。子供の教育的には女の子が先に産まれた方がいいと聞きます。まぁ、どちらでも私とご主人様の子供ですから沢山の愛を注いで大切に育てますが、私的にはご主人様にそっくりな子供がいいですね。本当なら今すぐにでも欲しいのですが、ご主人様の意思を反してまで行うことは出来ませんし、するつもりもありません。でもご主人様が望まれるのであれば今すぐにでも宿してみせます。私とご主人様と一緒に子供を公園に連れて行って一緒に遊んでそこでお弁当を広げるのも夢ですね。満面の笑顔で私に抱き着いてきたら私、我が子の可愛さの前に理性が飛んでしまうかもしれません。想像するだけで胸がはち切れそうなぐらい可愛いのに実物を見たら私は我慢できるでしょうか? ああ、堪りません。その時は子供の目を盗んでご主人様に受け切って貰いましょう。それでも子供は最低三人は欲しいですね。ご主人様が望まれるのならもっと頑張りますが、やっぱりそのぐらいはいて欲しいです。呼び方も色々と考えてみましょう。ママ、お母さん、お母様、どれも捨てがたいものです。どうしましょうか? 悩ましい限りです」
「あ、あの~セル、様?」
「大丈夫、少ししたらいつものセルに戻るよ」
恍惚の笑みを浮かばせて両頬に手を当てながら悶えるセルを始めて目撃したシロットは顔を引きつかせるも詩音はもう慣れたように対応する。
「セルは少しヤンデレ要素があるから」
「ヤンデレ、ですか?」
「そう、ヤンデレ」
貴方を殺して私も死ぬ、というほど病んではいないが、時折こういう風に暴走する時もあるが、そういう時は静かに見守る詩音だった。
完璧と思われる使用人にも欠点の一つや二つぐらいはある。
「子供も欲しいですが、まだご主人様には女として愛されたいです。ああ、もどかしい。一人の女として毎日のように愛されたい気持ちもあれば愛する人の子供を産んで育てたい気持ちもあるなんて。やはり、子供はもう少し先の楽しみとして今は女としてご主人様からたっぷりと寵愛が欲しいです。残念な気持ちもありますが、慌てる必要もありませんし、今の生活は不安定な所もありますから子供はしっかりとお金を蓄えてからでも遅くはありませんね。子供に窮屈な思いをさせたくありませんし、沢山かまって遊ばせてあげたいですから。ふふ、ああ楽しみですね。そんな未来を考えれば仕事にも頑張れるというものです」
「シロット。そろそろ仕事に行って」
「あ、はい」
そろそろだと思いシロットを仕事に行かせる詩音はシロットが居間から出ていくのを確認してセルに言う。
「セル。おいで」
「はい!」
その言葉を待っていたといわんばかりに飛びつくセルは抱き着いて詩音と唇を重ねて、そこから舌を絡ませ、官能的な音を響かせる。
数秒もしくは数分間。互いに時間なんて感じない程に唇を重ね合うと詩音はソファの上にセルを押し倒す。
「主導権を握らせてもらうよ?」
「私の主導権はもうご主人様が握っておられますよ?」
互いに笑みを見せ合うと、二人は昼間から愛を共有する。




