十日目
西地区にある豪華な屋敷の正門には警備兵と思われる二人の見張りに大きな門がある。
厳重な警備のなかで詩音達は堂々と正面から歩いている。
「止まれ。ここはノービリス公爵様のお屋敷だ。要件があるのならここで聞く」
矛先を向けながら淡々と告げる見張りに詩音は言う。
「囚われのお姫様を助けにきました」
「はぁ?」
意味がわからない言葉に呆気を取られる見張りが持つ槍を手に取って見張りごと持ち上げる。
「な、なんだ!?」
「なんて力だ!? は、離せ!」
「いいですよ。そーれ」
詩音は見張りを遠くの方へ放り投げると、拳を作って大きな門を殴り飛ばした。
「て、敵襲―――――――――――――――――――――――――――――――――――ッッ!!」
屋敷に侵入した賊を倒そうと警備兵や金で雇われた冒険者がわらわらと集まってくる。
「うわぁ、凄い数ですね…………………私、逃げ出したいです」
「何を今更言っているのですか? 覚悟を固めなさい」
今更ながら怖気づいてしまうシロットに呆れながら細剣を鞘から解き放つセルと詩音も刀をその手に握る。
「貴様等!! ここがどこだがわかっての狼藉か!!」
「知ってますよ。土初級魔法【アースウェイブ】」
土の津波が警備兵と冒険者達を呑み込んでいくなかで彼等は先に進む。
「くそ! なんだこいつ!? 誰か! もっと人を呼んで来い!!」
「おい貴様! こんなことしてタダで済むと思うなよ!」
トレイヤを救出する為に屋敷に堂々と侵入した詩音達を倒そうと多くの者達が武器や魔法を駆使して倒そうとするも――――それは不可能だった。
剣で斬っても剣身が折れて。
槍で突き刺しても槍が砕けて。
矢を放っても弾かれて。
魔法で攻撃しても傷一つ負わせられない。
彼等はただ絶句する。自分達が束になっても勝てない絶対的強者の前に言葉を失う。
「私達、必要ないのでは…………………?」
「そもそもご主人様を敵に回した時点でこうなることを想定しないノービリス公爵が悪いのです。愚かですね。たかがこの程度でご主人様を止められるわけがないというのに」
そんな詩音に戸惑いと呆れる二人に詩音は歩む速度を変えずにスマホでトレイヤの位置を確認しながら突き進む。その間にも攻撃は受けているがなんてこともない。
「ちくしょう――――――!! なんなんだこいつは!? 化物かよ!?」
「もうやってられるか!? 俺は逃げるぞ!!」
「ま、待ってくれ! おいて行かないでくれ!!」
絶対的強者に耐え切れなくなった冒険者達は武器を捨てて逃げ出す。
「化物とは失礼だな…………」
否定はできないが、と内心ではぼやく。
「たくっ、どいつもこいつも使えねーな」
曲がり角から姿を現し、詩音達の前に立ちふさがるは詩音達と歳も変わらない少年だった。
黒い装束を身に着け、左右違う瞳を持つ少年ガーゼは軽薄な笑みと共に詩音に声をかける。
「お前がシオンか? 見た感じ別にどうってことねえようにみえるんだがな。ま、いっか。これから死ぬ奴のことなんてよ」
軽薄な笑みを浮かべながらもその言葉は確かな自信がある。
「お、そこの使用人さんはの見かけによらずレベルがたけーな。そっちの兔耳は、うん、まぁいいか」
「どういう意味ですか――――――!!」
「なんだ、強く生きろよ」
「どうして私をそんなにも哀れむのですか!?」
敵に哀れまれて嘆き声を出すシロット。しかし、詩音は気付いた。
「なるほど。魔眼か」
「ご名答。俺は悪魔と契約に成功して看破の魔眼を手に入れた男だ。この魔眼に見抜けないものはねえ」
トレイヤの言っていた看破の魔眼。きっとトレイヤの正体を見抜いたのもこの男に違いない。
「あの姉ちゃんのおかげで大分稼がせて貰ったぜ。まぁ、でも、そろそろ潮時だ。あの豚公爵に難癖つけられる前にトンズラしようと思ったが最後に侵入者であるお前等でも倒しておこうと思ってな。悪く思うなよ?」
ガーゼは剣を取り出して最後の詩音のステイタスを見抜く。
「へへ、お前のステイタスは――――――――――っ!」
詩音のステイタスを見抜いてガーゼは言葉を失った。
名前:シオン
Lv:MAX
体力:20000
筋力:20000
耐久:20000
敏捷:20000
器用:20000
魔力:20000
魔防:20000
魔法
風魔法(初級Lv5・中級Lv3)
炎魔法(初級Lv6・中級Lv4)
水魔法(初級Lv7・中級Lv2)
土魔法(初級Lv9・中級Lv5)
雷魔法(初級Lv4・中級Lv3)
光魔法(初級Lv5・中級Lv1)
闇魔法(初級Lv2)
生命魔法(初級Lv9・中級Lv6・上級Lv1)
付与魔法(初級LvMAX・中級Lv8・上級Lv5)
空間魔法(初級Lv7)
能力
全魔法適性(Lv限界突破)
能力向上(LvMAX)
剣術(刀Lv2+5)
鑑定(Lv4+5)
固有能力
作製(鍛冶Lv限界突破・調合Lv限界突破・裁縫Lv限界突破・作農Lv限界突破・建築Lv限界突破・調理Lv限界突破・道具Lv限界突破・魔道具Lv限界突破)
「なんだよ、なんなんだよ、この馬鹿げたスタイタスは………………………!?」
ガーゼが取った行動は逃走だ。
剣を捨てて迷うことなく即逃走を選択したその判断は正しい。
絶対に勝てるわけがない相手に立ち向かうなど無茶も無謀も通り越した愚行でしかない。
だか、彼は一つ間違いを犯した。
それは詩音達の前に姿を現したという致命的なミスを。
「『拘束蛇』」
詩音は収納指輪から鎖を取り出すとその鎖は意思を持っているかのように動き出してガーゼを追いかけて縛り付ける。
「う、動けねえ! クソ、クソ! 外れねえ! ひぃ!?」
自分のすぐそばで足を止める詩音に見下され怯え声を出す。
「お前が元凶か………………………」
怒りを灯すその瞳に見下されたガーゼは最後に自分が助ける方法に縋る。
「な、なぁ、俺を雇う気はねえか!? 俺は使えるぞ! 俺のレベルは40だ! 看破の魔眼だけじゃなく、戦闘も諜報だってできる! 必ずあんたの役に立つから! なぁ!?」
自分を売り込むガーゼに詩音は鎖でガーゼをきつく締め上げる。
「あああああああああああああああああああああああああああっっ!!」
「お前みたいなのを雇う気はない。そこで反省していろ」
それだけ言い残して先に進む詩音とそんな詩音にセルとシロットは続く。
「うわぁ、怒ってますね………………………」
「当然です。ご主人様はご自分よりも他者の為に怒る心優しいお方なのですから」
「知ってますよ」
誰かの為に怒るそんな彼の優しさに二人は微笑む。
「なんだ、騒々しい」
屋敷の一室でベーゼは騒がしい自分の屋敷に若干に苛立ちを覚えるが、今はそんなことで怒るほど気分は悪くはない。
「ぐふふ、お前がここに来るのを待ちかねていたぞ? トレイヤよ」
欲塗れな粘っこい卑しい眼差しを向ける先は腕を拘束され、身動きが取れなくされたトレイヤがベッドの上に寝かされている。
「何をするつもり……………………?」
「そんなこと聞くまでもなかろうに」
碌に動けないトレイヤは強気な態度で問いかけるもベーゼの表情は変わらない。
「街中でお主に目を付けてから今日までどれほど待ちわびたことか。今日はたっぷりと楽しませてもらうぞ」
「最低ね。貴方に人としての心はないの?」
「なんとでも言うがよい。ぐふふ、それにしても見事なものだ。その相貌、その容姿。精霊種であるドライアドの血が流れているゆえか」
髪先から足のつま先まで舐め回す様に見るベーゼに嫌悪感を抱く。
「では、楽しませてもらうぞ?」
「っ!? 触らないで!!」
手汗の酷い手で足を撫でられ、払いのけるもベーゼは嗜虐心に溢れた瞳で笑みを見せる。
「その強気な態度もいつまでも持つか……………………どれ、まずはここを味見しようか」
犬のように荒い呼吸と共に汚い舌を見せるベーゼはトレイヤの胸に近づく。
これからされる恥辱に耐えようとトレイヤは固く瞳を閉ざす。
その時、脳裏に浮かび上がったのは詩音に助けを求めた。
「助けて………………………」
消えそうなほどか細い声でそう懇願すると、その願いは破砕音と共に届いた。
「な、何事だ!?」
扉を破壊されて驚きの声を上げるベーゼとトレイヤは扉の方に視線を向けると―――
「トレイヤさん。助けにきましたよ」
「シオン君………………………ッ!」
彼は姿を現した。
「何者だ、貴様等!! ここをどこだと思っている!? おい、誰かいないのか!? 賊共を捕まえろ!!」
大声を張り上げて警備兵を呼び出すも誰も姿は現さない。
「おい! 誰か! 誰かいないのか!?」
「誰もいませんよ。後は貴方だけです」
一歩踏み出して近づく詩音にベーゼはその場で腰を落とす。
「ま、待て! わしが誰かわかっているのか!? わしはこの国の貴族、公爵だぞ!! こんなことをしてただで済むとでも思っているのか!?」
「もう貴方にそんな権力はありませんよ」
「なんだと!?」
怪訝するベーゼに詩音はある羊皮紙を見せつけるとベーゼの顔色が青くなった。
「き、き、貴様………………………それは………………………」
「隠していたようですが、随分と後ろめたいことをしてきたみたいですね。ここまで悪事を働いた貴方を警察や他の貴族様達が庇いますかね?」
詩音が事前にセルに頼んだのはベーゼの悪事に関する証拠の獲得だ。
こういう時の保険として先のことも考えて動いて貰った詩音自身も本当に掴んでくるとは思わなかった。
改めてセルの完璧ぐあいには驚かされる。
「因みにこれ以外の資料は全て警察に渡してあります。もうすぐここに到着する頃でしょう。そして、それを知らずに平民を誘拐した貴方は誘拐罪も重ねていますから処刑は確定でしょう」
「ま、ま―――」
「因果応報。好き勝手やってきた自分の罪を地獄で反省してください」
絶望に染まるベーゼを置いて詩音は拘束されているトレイヤの拘束具を壊して彼女を抱きかかえる。
「さぁ、帰りましょう。明日も農業ギルドでお仕事があるんですから」
詩音はいつもと変わらない優しい笑みをトレイヤに向けながら屋敷から出る為に足を動かす。
「シオン君………………………」
「はい?」
「ありがとう」
「どういたしまして」
トレイアは笑みを浮かばせながら詩音に強く抱き着く。




