始めに
―――異世界転移・転生したら貴方はどうしますか?
アニメ・漫画などでよく出てくる異世界ファンタジーもので出てくる異世界転移もしくは転生を果たして現代社会とは異なる剣と魔法の世界に足を踏み入れたら何をするか?
神様と出会い、特典としてチート能力を授かって魔王討伐。
冒険者になって仲間と共に未知の冒険を探検する。
夢、希望、未知、冒険、願い、戦闘、魔法、平和、使命、宿命、生活、日常……………etc
人の数だけ異世界でしかできないことをするだろう、と芳賀詩音はそう考える。
何故そう考えるのかと言えば自分もその考えに沿った一人だからだ。
安全、堅実をモットーに彼は危険を冒さずに常に安全を確保して確実に物事に取り組む。
世の中には危ないことは多い。平和に暮らすのなら下手に冒険することは避け、安全性を確保する。
賭けはもっての外だ。絶対に手をつけたくないものの一つだ。
そんな彼は常に一定の成績をキープして、高校も進学校を選び、堅実な会社に務めて、お金を溜めて、いずれは幸せな家庭を築けたらと願うごく普通の学生だった。
だが、そんな彼にも不幸が訪れる。
いつものように学校から帰宅の最中に彼はそれを目撃してしまったのが原因だった。
路地の物陰で一人の男性が女性を壁に押し付けていた。
女性は自分と同じ制服を着た女子生徒。男性は暴れて抵抗している女子生徒に苛立ったのか殴った。
殴られた女子生徒は突然の暴力に諦めたのか、大人しくなると男性は卑しい笑みを浮かばせた。
それを目撃してしまった詩音は思わず男性に向かって駆け出した。
「あああああああああああああああああああああああああっっ!!」
「ぐっ!?」
唐突の突撃に反応できずに男性は直撃し、地面に倒れるもすぐに起き上がった。
「このガキが…………ッ!」
男性は懐からナイフを取り出して詩音の腹部を刺した。
「死ね! 死ね! 死んじまえ!!」
詩音に跨って何度もナイフを突き刺す。
身体に熱が帯びているかのように熱くなる詩音は最後に女子生徒は逃げていく光景を目撃した。
――――どうしてこんなことをしたんだろう?
詩音はこれまで喧嘩らしい喧嘩もしたことはない。
そうなりそうになってもいつも苦笑いを浮かべて逃れてきた。
あそこはまずは警察に連絡するのが一番の最善手で安全な手段なのにどうして喧嘩もしたことがない自分が飛び出してしまったのだろうか?
そんな疑問を抱きながら彼の意識は途絶えた。
「起きてください、ご主人様」
「ん……………………」
いつもの声に彼はゆっくりと瞼を開けて見慣れた天井を見て、懐かしい自分の過去に苦笑いする。
「おはようございます」
「おはよう、セル」
自分を起こしに来てくれた使用人であるセルに挨拶する。
白銀色の滑らかな艶を持つ長髪を結ばずにそのままにしている美女の使用人セルの瞳は髪と同じ白銀色をして、黒と白を基調とした使用人服を見事に着こなす。
「朝食の準備はできております。それとも朝の奉仕を先にいたしましょうか?」
艶のある仕草で身を寄せてくるセル。使用人服からでもわかる胸をこれでもかと強調するセルのその仕草は男性ならそんな誘いを断るなんてことはしないだろう。
「いや、今日はいいよ。昨晩は激しかったし」
「そうですか。残念です」
少し残念そうにするセルに苦笑しながらベッドから出る詩音はセルが持っている服に着替えながら今日の予定を尋ねる。
「今日の仕事は?」
「はい。冒険者ギルドの方々は回復薬を3ダース、昼間の火の猫帝の料理の助っ人、西区の現在建築中の大工の助っ人、それと日常品の発注と修理が何件かあります」
「ん~、回復薬は在庫の使うか。日常品は作ってあるのは回して修理は夜にするか。なら、朝は西区に行って親方の手伝いをするよ」
「はい。では私は回復薬などを渡しておきますね」
「頼む」
「はい」
今日の予定を確認して朝食を済ませた彼は道具を持って家を出る。
「行ってきます」
「いってらっしゃいませ」
主を見送るセルに詩音は青白い空を見上げながら微笑む。
「この世界も大分慣れてきたな」
芳賀詩音。地球で女子生徒を庇って殺されて、神様と出会って異世界に転生した。
神様から特典を授かった彼は日々の生活の為に特典を活かして店を開いてお金を稼いでる。
「と、急がないと」
足に力を入れて跳躍。屋根の上を軽やかに飛び跳ねて移動する彼の姿はこの街ではもう見慣れた光景となりつつある。
彼が神様から貰った特典は二つ。
LvMAXのステイタスとありとあらゆる物を作り出せる固有能力〈作製〉。
それを駆使して彼は今日も堅実に働く。
「親方、何でも作ります、創造店『クリエイション』店主。ただいま現場にやってきました」
彼は異世界でも堅実に今を生きている。