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異世界転生したバカ息子の母です

「お父さん。お父さん。

しばらく掃除もしないでごめんなさいね。今綺麗にしますよ。」

3月21日。今日は昼も夜も仲のよい日。

妙子は夫の仏壇をそうじしていた。

楽しそうに夫の遺影に話しかけながら、仏壇をきゅっきゅっと磨く。

「お父さん、こっちでは桃が咲きましたよ。お隣の娘さんは、今年から社会人ですって。

まぁ、あんなに小さかったのにねえ・・・年を取るのはやなもんですねえ。

でも、うちの(たけし)ったら・・・」

妙子は仏壇を磨く手を止めて、はぁーっと深いため息をついた。

いくつになってもぶらぶらしてばかりの、一人息子武。その息子のことが気がかりで、もう落ち着いて老後を楽しんでもいい年ごろなのに、毎日眉間にしわを寄せているのだった。

「もう大学も卒業したってのに、いつまでたっても就職もせずにふらふら、ふらふら。バイトなんかは時々してるんだけど、定職に就く気はないみたいでさ・・・お父さんがいたら、一発怒鳴って働いたかもしれないのに。なまじ可愛い分、言いづらいのよねぇ・・・。あ、ごめんなさいね、お父さんはゆっくりしててください。まあなんとかなるでしょう。」

お気楽に話を終わらせると、気分をあげるように鼻歌をうたいつつまた手を動かし始めた。

雑巾がすこしづつ汚れていくのに反して、仏壇はみるみるうちにぴかぴかになっていく。妙子は雑巾をバケツにつけ、しぼりなおした。こぼれる水が窓から入る朝日に反射して光る。

「あ、お父さん。そういや武今日から新しいバイト入るんだって。さっきでかけてったよ。

うまくいくように、お父さんもそっちから見守っててねぇ。」

しあげにさっと全体をふき、妙子は満足げにうなずいた。

「これでよし。次はおかいものね。今日の夕飯・・・何にしましょうかねえ・・・」

バケツを片付け、ぞうきんを洗濯機に放り込んだ、そのときのことだった。

ジリリリリリリリリリリ!!ジリリリリリ!

けたたましく鳴る電話。妙子はリビングへ戻った。

今となってはなかなか見ない固定電話の受話器をとる。

「はいもしもし、高山です。

はい、はい。そうですけど・・・え」

妙子の顔が強張った。緊張した声で、応答を続ける。

「はい。はい、わかりました。

すぐにお伺いいたします・・・それじゃ」

震える手でそっと受話器を戻し、はぁーっと息を吐く。

「どうしましょうお父さん。」

うつむいて独り言を言う。どうしよう、と繰り返して、おろおろと歩き回る。

とにかく事の真相を確かめるべく、壁にかけてあったかばんをひっつかみ、身支度もせずに妙子は家を飛び出していった。


「こちらのバッグは息子さんのものに違いありませんね?」

「・・・はい・・・」

「・・・ご愁傷さまです」

真面目そうな警官が、沈痛な面持ちでそう告げた。

目の前には、顔に白い布をかぶせられた武が横たわっていた。

「ぼーっとしてたのか、信号を見ずにわたってしまったようで。軽トラにはねられて・・・打ちどころが悪かったようです。」

「そんな、そんな・・・」

妙子は膝から(くずお)れた。あまりきれいではないであろう息子の遺体にすがりついて、人目もはばからず泣いた。泣いた。

声を上げて、拭うこともせず泣き続けた。



その日の夕方。

事情聴取と説明が終わり、妙子はやっと家に帰ってきた。

妙子はこの世の終わりであるかのような表情で、夫の仏壇の前に座り込んだ。

目は泣きはらして真っ赤になり、部屋の電気をつける気力もなく、ただ窓から差し込む夕日だけが妙子を照らしていた。

「お父さん、お父さん。

どうしましょう。どうしましょう。武が死んだのよ!

ねえ、お父さん。お父さんお願いだから送り返して。武そっちに行ってるでしょう。追い返してちょうだい!お父さん!

武が死んだのよ!武が・・・」

妙子の鼻がつんとして、また涙があふれてきた。

泣いていちゃいけない、葬式の準備だってやらなくちゃいけない。今日の晩御飯も作らなくてはいけない。だけど今はただ、辛い気持ちに身を任せて泣き叫びたかった。

「お父さん・・・武・・・

どうか神様の手違いでありますように。どこかでひょっこり顔を出しますように・・・

ああ。」

一方そのころ死んだ武は、お茶目天使から

「神様の手違いでしたんで、転生させますね!」

と言われて戸惑っていた。


翌日。

朝から来てくれた妹夫婦によって、通夜の準備は進んでいた。

妹夫婦の娘たちも動き回り、あちこちに電話をかけている。

そんな中、妙子はぼんやりと座っていた。

目の前では葬儀社の人が何か言っているが、まったく耳に入らない。代わりに妹の芽衣子が受け答えをしていた。

「こちらでよろしいですかね?」

「・・・だって。どう?お姉ちゃん。」

「うん。いいですよ。お願いします。」

妙子はぼんやりとうなずき、はんこを押した。

葬儀社の人が帰っていき、連絡も大体すんだよ、と報告があった。

けれど妙子はそのすべてが夢の中の出来事のようだと感じていた。

「ちょっともう、しっかりしてよお姉ちゃん!

悲しいのはわかるけど、そんなにぼーっとしてちゃあいけないよ!大体おねえちゃんは、お義兄さんが死んだ時だってぼーっとして、お葬式なかなか進まなかったでしょう?悲しいのは私たちだってそうなんだから、周りに迷惑かけちゃだめよ!」

眠れなかったせいで隈のひどい顔をこすって、妙子は放心したように首を縦に振りつづけた。

「だって・・・悲しくないの?あんなに可愛い武が・・・死んじゃったのよ。

だっておかしいでしょう。こんなまだ若いのに、武はまだ25なのに、死ぬなんて・・・」

芽衣子の夫の明が、料理の手を止めて言った。

「ええ。とってもおかしいです。まだ若いのに死んでしまうなんて。

もしこれが僕だったら、きっと耐えきれません。

だけど、どうにかお通夜だけはやらなくちゃ。悲しさに沈んで、武さんを蔑ろにするようなことがあってはいけません。妙子さん、とても辛いでしょうが頑張りましょう。僕もいっしょにがんばります。」

明の言葉に、妙子ははっとした。そして、弱弱しくではあるが微笑んだ。

「そうよね、しっかりしなくちゃ・・・武も悲しんでしまうわよね。よし。ありがとう芽衣子、明さん。私がんばるよ。」

妙子は立ち上がって、気合を入れるようにこぶしを上に掲げた。

一方そのころ武は、はちゃめちゃなパーティーの仲間に振り回されながら、チート能力を使いまくって魔王軍を次々と仲間にしていた。どうやら武の能力は「仲間にする」となったらしい


それから数週間。

葬儀や法事、連絡などのゴタゴタが大体終わり、嵐のような日々が終わりを迎えた。

「ふう・・・」

庭の花に水をやり終え、リビングに戻る。ソファに身を放り出すように座って、息をついた。

リビングのはじには、また一つ写真が増えた仏壇。花もかざってあり、おまんじゅうがそなえてある。

「ひとりになっちゃったわねえ・・・」

不意に胸にぽっかりと穴が開いたような気分に襲われ、ぽろっと涙をこぼす。

「武、今頃お父さんと遊んでるかしら。小さいころに死んじゃったから、あんまりお父さんと遊んでないのよね。楽しく遊んでくれているといいわねえ。将棋指してるかしら、なにしてるのかしら。

・・・これで私ももう何も気がかりなところはないし、ちょっと遊んじゃいましょうかね。」

妙子は空元気を振り絞って、よーしと声を上げる。

「なんか始めるか!」

妙子はさっそく電話をかけ、資格の資料を請求することにした。

一方そのころ武は、魔王は二十年前に王によって勇者として召喚された実の父親の成れの果てであることを知った。勇者としての力が足りずやけになって暴走し、魔王となった父親を前に、武は一体どうするのかッ・・・!

続かない!!

異世界転生した~て銘打ってしまいましたが異世界転生してないです。

主人公はしてないです。

もうちょい長くしたかったけど思いつきませんでした。

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