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第四話


「はあ、またあいつと会わなきゃいけないのか」


 着々と与えられた仕事を椿さんと一緒にこなし続け、ようやく少し慣れてきた時のことだった。

 閻魔様に呼び出された俺は面倒事を押し付けられ、またあの勇者タケルのクレーム処理をするハメになってしまった。

 この前のことを思い出すだけで気が重くなる。

 あれだけ、怒らせたタケルとまた関わるなんて嫌な予感しかしない。


「はあ、今度は無事にたどり着けるのかな」

 雪山はもうこりごりだ。


 俺は朝食をとった後、重い腰を上げ部屋を出た。

 椿さんの部屋は俺のすぐ隣だ。俺の部屋が303号室で椿さんが304号室。

 ちなみに閻魔様も何故か寮に住んでいて椿さんの隣の305号室に住んでいる。

 304号室のインターホンを鳴らすと、またもや扉の前でずっと待機してたんじゃないかと思うくらいの速さで扉が開いた。


「おはようございます。泰惰くん」


「おはようございます。椿さん、今日はどこ行くんですか? 前みたいに雪山とかは勘弁してくださいよ」


「心配ないです。私に任せてください。今度は絶対に失敗しません」


 本当かなあ? 不安しかないんだけど……


 前と同じ広め草原の草原にたどり着くと、

「グリードワールド、座標Ⅹ1200、Y653、水の都アクアリウス、ゲート開門!」

 椿さんが唱え例の光の扉が出現した。


「それでは行きましょう。泰惰くん」


「……」


「どうしたんですか?」


「いや、前みたいにわけわからないところ着いたりしないですよね?」


「私を信じてください。この前はちょっと調子が悪かっただけです」


 いやちょっとどころじゃなかったけどね……

「はあ、わかりました……」


 俺は覚悟を決めて椿さんと一緒に光の扉を通った。


「おお! すげえ」


 扉を通るとそこには海上に浮かぶ街があった。

 レンガ造りの家、色とりどりの箱みたいな形をした家が並んでいる。海で仕切られたいくつもの街をカヌーが行き来している。青い海と鮮やかな街並みはどこか幻想的な感じがした。


「きれいなところですね」


「本当ですね。これが仕事じゃなかったらもっとテンションあがるんですけどね」 


 それにしても無事について本当に良かった。


「それではフールの酒場に行きましょう。勇者タケルはそこで待っているはずです」


「また酒場ですか、何で勇者って酒場に集まりたがるんですかね」


「きっと名物のワインを飲みに来たんじゃないですか。実は水の都アクアリウスはワインがすごく有名でワインを飲むためだけにわざわざ遠くから来るお客さんも多いみたいですよ」


「へーワインね」


 フールの酒場に着くこと30分、タケルの姿はどこにも見当たらなかった。


「来ませんねタケル」


「何か理由があって少し遅れているんじゃないですか、私たちも前回は待たせてしまったので気長に待つとしましょう」


「はあ、待つの嫌いなんですよね」


「そうだ、泰惰くん! せっかくここに来たんですから食事にしませんか? ここの海鮮料理は絶品なんですよ!」


「いいですね」


 ただ待ってるってのも退屈だし、ここはこの街の雰囲気と料理を楽しむことにしよう。


「椿さん、一応言っておきますけどワインは絶対に飲まないでくださいよ」


「何を言っているんですか泰惰くん、仕事中に飲酒するわけないじゃないですか」


「そうですか、なら良かったです」


 安堵している俺を椿さんは不思議そうな顔で見つめていた。


 1時間後


「いくらなんでも遅すぎません! あれじゃないですか、自分たちが遅刻したの根に持っててわざと遅れてこようとかいう腐った魂胆してるんじゃないですか? 卑屈で執念深そうな顔してましたもんタケル」


「確かに少し遅いですね。もしかしてここに来る途中に何か危険な目にあったのでは……」


 椿さんが顎に手を添え思案していると、突然「ぴりりりっ」と音がなった。

 すると椿さんはポケットから何故か板チョコを取り出した。音の発信源は板チョコからだ。

 椿さんは板チョコを耳に当てた。まさかとは思ったけどどうやら携帯電話の役割を果たすらしい。見た目は完全に板チョコだけど……


「何故に板チョコ……」


「はい。44区、転生コンサルタントの椿です」


 椿さんは電話に出ると「そうですか、はいわかりました」と何度か頷き板チョコをポケットにしまった。10秒ほどの短いやりとりだった。


「誰からですか?」


「閻魔様からです」


「何て言ってました?」


「ごめん、待ち合わせ場所違ってたとのことです」


「えー、マジですか」


「マジです」


「で待ち合わせ場所はどこなんですか?」


「前回と同様グシャの酒場です」


 何で前回と場所違うんだろうと思ったらそういうことね。


「ここからどれくらいかかるんですか? グシャの酒場」


「ここからですと、交通機関を利用しても最短で6時間ほどかかります」


「そんなに待たせたらタケル怒りで発狂しちゃうんじゃないですか?」


「大丈夫です。後2時間ほどすればゲート開門出来ますので、それで行きましょう」


 椿さんが自信満々に答える。

 いや大丈夫ではないと思うよ。待たせちゃってるわけだし、3時間。


「まあ悩んでもしかたないんで、ゆっくり観光でもしますか」


「そうですね」


 椿さんは意外に乗り気だった。やっぱりここに来るの楽しみにしてたのかな?

 2時間たっぷり観光を楽しんだ後、俺たちは広い広場に来ていた。


「グリードワールド、座標Ⅹ2562、Y352、グシャの酒場ゲート開門!」


 俺は少し心配しつつも椿さんの後につき扉を通った。

 すると、中世ヨーロッパ風の街並みが姿を現した。目の前にはグシャの酒場がある。


「おお、完璧じゃないですか椿さん! 最初のあれは一体何だったんですか?」


 返事はなかった。というか椿さんの姿はどこにも見当たらなかった。


「ええ……、どこいっちゃったの椿さん」


 どうしよう、椿さん戻ってくるまで待った方がいいかな?

 でも、これ以上タケル待たせると余計面倒なことになりそうだし……

 いずれ、戻ってくるだろうし先に行った方がいいか。

 それに、椿さんが一緒にいることで、前回みたいに状況が悪化することもありうる。


「しかたない、たまには真面目に働きますか」


 タケルみたいなやつはとりあえず話聞いて頷いて、適当に謝っとけば何とかなるだろう。

 俺は一人で酒場に向かうことにした。


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