エピソード7-5
2017年1月25日付:加筆調整
午後1時10分、日向イオナは思わぬ場面に遭遇したのである。
「リアルバトル――だと――言うのか?」
日向のバックパックに掠ったビーム光――回避しようとすれば回避可能だったが、それよりもビームの方が早かった。
命中エフェクトが発生したという事は、ARFPSとしてフィールドが成立している証拠であり、日向は相手のフィールドに入ってしまった事になる。
これに関しては日向の方も想定外だった可能性が高い。それに――。
「ARゲームは複数フィールドがブッキングしないように、仕切りやタイムスケジュールは厳重管理されているはず――」
落ち着いているビスマルクの言う事も一理ある。複数のARゲームフィールドが重なりあえば、大参事もあり得るのだ。
過去には、それが引き金となった悲劇も存在し、中には多くの怪我人が出た事によって史上最悪の惨劇となってネット上で炎上した事も――実在したのである。
「明らかに意図的な陰謀を――感じる」
その後、日向はバックパックを変形させたアームユニットを展開し――狙撃犯を違反プレイヤーとして突き出した。
戦闘にかかった時間は1分にも満たない。狙撃犯を含め、日向にとってはかませ犬にもならなかったようである。
【あのフィールド干渉は一体?】
【しかし、他のプレイヤーが完勝に気付かないケースだったら――事故どころの話ではない】
【確かに――下手すればテロリストなどに悪用されかねないだろう】
【それでも通報した人物がいたからこそ――だな】
【誰も気づかなかったら、大変な事になる】
【しかし、他のARゲームのアカウントも未所持と言う人間が別フィールドに侵入したら?】
【ジャンルによって対応は違うが、基本はアカウント停止か。今回の様なアクシデント的なものであれば、特に問われないはずだが】
【今回のフィールド干渉は、何が狙いだったのか?】
【新型チートの実験、他ジャンルのARゲーム潰し――他にも考えられるが、他のARゲームの中には、細かい禁止事項もある】
【つまり、今回の事件を起こしたのはスタッフ等の内部から?】
【内部とは限らない。まとめサイトの管理人が仕掛けたという説も――】
つぶやきサイトでは、様々な憶測も流れるが――それを信用するケースはごく少数だった。
下手につぶやきサイトの発言をソースなしで拡散すれば、それこそパニックを起こすのは確実だろう。
それは、SNSを扱うユーザーの誰もが心掛けないといけない物である。
「ネット炎上のきっかけは、様々だろうが――」
つぶやきのタイムラインをARバイザーで確認していた天津風いのり、彼女は何かを考えていた。
炎上マーケティングを政府が規制しようと全く考えていない事は、一説として芸能事務所の指示と言う説が浮上し、それが原因でネットが炎上した事もある。
ネット炎上で大規模テロが起こった場合、責任は誰が取るのか等の課題も存在して取り下げになった経緯もある事にはあるのだが、どう考えても後付けなのは誰の目から見ても明らかだ。
「ネット炎上をテロ事件等に悪用されれば、それこそアカシックレコードに書かれていた悲劇の連鎖が繰り返される――」
彼女が何処に向かっているのかは分からないが、アイドル投資家などから情報を聞き出すのが優先と判断し、出没すると思われるエリアへと急いだ。
5分後、事情説明等で時間がかかったのだが、無事に再起動も終了し、今度はフィールド干渉する事がなかったと言う。
何故にフィールド干渉の様な事が起こったのかは不明だが、セキュリティが作動しなかった事を指摘する人物の存在もある。
ARゲームには不正チートをチェックするシステムが存在し、未知数のチート出なければ、そこで引っ掛かるのだが――。
「未知のチートよりも、既存のチートにステルス機能を加えたような物だった。一体、何者が――」
ビスマルクは、今回の一件が内部犯と言う可能性も考えた。
その理由として、逮捕されたプレイヤーの使っているチートは既に取り締まり強化された物であり、脅威度としては低い物だ。
脅威度が低いチートでも細工がされていれば危険なチートへと進化する為、脅威度の数値も参考程度にしかならない場合が多い。
本来はチートが進化するとはあってはいけないのだが――下手に大量破壊兵器になってしまっては、ARゲームの運営どころではなくなる。
【どう思う?】
【チートを改造し、更なる能力を付け加えるような方法は今後も増えるだろう】
【警戒する必要があると?】
【そうだな。危険なチートがブラックマーケットで売られでもしたら、それこそ大災害を呼ぶ】
【それは自然現象も操るのか?】
【さすがに自然現象は操れないし、歴史の改変なども出来ないだろう。そこまで干渉出来たら、それは神の所業だ】
チートガジェットを作るには、相当な技術が必要である。それもアカシックレコードクラスのレベルで。
だからこそ、彼らは神とも呼ばれる事もあった。しかし、全てを自分の都合よくコントロールできたとしたら――。
「神は架空の存在だからこそ、その力は奇跡と言っても良い物になる。しかし、人間が神の力を使えたら、それこそチートと言われるだろう」
大和朱音は、別の場所から一連の中継を視聴していたのである。
人間が神の力を行使する事、それを大和はチートの使用と考えていた。
超有名アイドルの芸能事務所が起こす数多くの不思議な出来事――それを大和はチートの使用と断定している。
芸能事務所の行動をチートと考えているのは大和だけではなく、他の人物も同様だろう。
ある意味でもARゲームプレイヤーはリアルで遭遇しなくても、ARバイザーの会話ツールやARガジェット、アカシックレコードなどで繋がっているのだろうか。
「そうしたネット上のつながりを悪用し、ネット炎上等に悪用する勢力――まとめサイト勢等は根絶すべきなのか」
大和は改めて考えている。特定の勢力を根絶すれば、ARゲームの環境を守る事が出来るのか?
現状のガイドラインは保護主義的ではないのか――謎は多く残されている。