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リズムゲームプラスパルクール  作者: 桜崎あかり
エピソード5『炎上マーケティングの始まり』
53/137

エピソード5-7

2017年1月19日付:加筆調整



 午前11時30分、ARゲームの観戦を目的としたレストランで食事をしていたのはビスマルクである。

早い昼食と言う訳ではないが、コンビニ弁当ばかりでも――と言う事らしい。なお、料理は出来ない訳ではないのだが――。

テーブルに並んでいるのは、ハンバーグライス、コーヒー、中華サラダのランチメニューである。ハンバーグにはパスタが添えられているのだが。

「特に大きな動きもなければ、このままお昼を――」

 ビスマルクが手慣れたフォーク捌きでパスタを食べようとした、その矢先である。

パワードミュージックのフィールドに突如として現れたのは西雲響にしぐも・ひびきだった。

これにはビスマルクもパスタを一口食べてから、フォークを置いてモニターに集中する。

「まさか、西雲響が参加しているとは。一体、何があったのか」

 西雲はパワードミュージックの参戦候補コピペスレ等には名前が出ていない、いわばブラックホース扱い。

他にもブラックホースと呼ばれる人物もいるのだが、その中でも西雲は『あり得ない』と否定される程だった。

それが、どういう理由で参加表明をしたのか――ビスマルクはそうした事情も気になりつつ、レースを観戦する事に。

「既に1曲目は食事をしている時に終わって――!?」

 ビスマルクはリザルトのスコアを見て、ワンサイドマッチとまではいかないが――高い割合で初心者狩りとも指摘されそうなスコア差に言葉が出なかった。

そのスコア差は100万点ルールで設定されていたのだが、1位が97万、2位が89万に対し、西雲のスコアは68万点である。

クリアギリギリのラインと思われたが、勲章ボーナスを加算しても70万点には届かずに演奏失敗表示だった。

しかし、1位のプレイヤーがクリアノルマを突破している為、セーフとして西雲は救済処置を受けたのである。

「あの動きは、リズムゲームに慣れていないのか?」

 ビスマルクが思ったのは、西雲がリズムゲームに慣れていない事による動作――。

動きも素早い動作とも言い難く、他のARゲームでも実力がある人物の物とは到底思えなかったのである。



 同刻、アンテナショップの指定フィールドでプレイしている西雲は、既に2曲目のプレイに移ろうとしている。

1曲目はチュートリアルをプレイしたにもかかわらず、結果としては玉砕と言う展開になった。

1曲目は失敗しても2曲目へ移行できるのは、西雲にとっても救済処置と言ってもいい。リズムゲームによっては、3曲保障という作品もあるのだが。

それでも、スコアの差を踏まえると――このラウンドで1曲目のスコア以上が求められる。

しかし、プレイ回数的にもパワードミュージックのシステムを理解していない為か、どうやってスコアを上げられるかも分からずにいた。

「油断――?」

 西雲はボイスチェンジャーが不具合を起こしたような挙動に対し、途中で言葉を詰まらせる。

下手にしゃべれば自分の正体を晒す事になったのだが――あの爆音では周囲に小声は聞こえていないだろう。

『システムが、想定外のシャットダウンを起こしたと言うのか――』

 アプリのたち上げ過ぎでフリーズした訳ではないのだが、ボイスチェンジャーは物理的なシステムではなく、ARバイザーのオプションアプリである。

物理型のボイスチェンジャーもあるにはあるのだが――ARゲームでは一部ジャンル以外の持ち込みを認められていない。

ARガジェットの誤動作を招くと言うのが持ち込み禁止の理由だが、実際には違う可能性も西雲は考えていた。

『2曲目も相手の指定曲――自分の指定した曲は最後の3曲目か』

 楽曲の順番は仕方がないのだが、1曲目がいきなりの難易度7、2曲目も難易度9と貧乏くじを引かされた格好だ。

それに加えて西雲はリズムゲーム初心者とも言える状態の為、場数と言う意味では明らかに不利なのは間違いない。

【あのソード使い、初めてのプレイヤーか?】

【初心者プレイヤーに対し、高難易度曲をぶつけるとは――彼を計算に入れていないのか】

【違うな。計算に入れていると思うが、向こうは自分のスコアを詰める事だけで精いっぱいなのだろう】

【それだったら、他のリズムゲームみたいにそれぞれのプレイヤーが難易度別に設定できないのか?】

【それがパワードミュージックで可能だったら、逆に――】

 ネット上でも、西雲に対しては不利と言うつぶやきが多い。マッチングした相手が強すぎるという意見もあるのだが、プレイ回数は10回以下――。

つまり、西雲がマッチングしたプレイヤーは高難易度譜面しかプレイしないプレイヤーであるという事である。

リズムゲームの場合は、こうしたマッチングに遭遇する事も存在し、この辺りがプレイヤーの腕でマッチングの変わるジャンルとは異なる部分だろう。



 午前11時45分、ニュース番組の方ではあるニュースが報道されたのだが――その内容は非常に分かりづらい物だった。

『速報です。地下アイドルグループのファンが突如として刃物を持って暴れ出し、それを警察が銃撃するという騒ぎがありました――』

『事件があった場所は東京都足立区にある芸能事務所で――』

 地下アイドルグループのファンが暴走、その一人が刃物を持って暴れる――ここまでは不可解と言う訳ではない。

過去には類似した事件もあった為、芸能事務所側も神経を使う様な状態になっているという話も聞く。

それ以前に運営の不手際でアイドルグループが消滅する事例もあり、それに対しての暴動も報告されている。

【有名地下アイドルグループの運営が刃物男に占拠! 犯人は別アイドルグループのファンであり、ライバルを物理で消そうとした説も?】

 しかし、問題はその後だ。ネット上に出回っている同じ事件を扱っているであろう記事の見出しは、ニュースの報道とかけ離れたものばかりになっている。

しかも、警察が警告なしに銃撃と言うあり得ない話まで付け加えられており、ニュースの真実さえも捻じ曲げている格好だ。

「馬鹿な――聖地巡礼のエリアに風評被害を与えるような事を、誰がやったというのか?」

 アンテナショップへ立ち寄る途中、スーパーで2割引きシールの貼られたのり弁当を買い物かごに入れていた大和朱音やまと・あかね――。

彼女の声が周囲の客に聞こえている訳ではないが、大声で騒ぐのは買い物客に迷惑がかかるだろう。

それを踏まえて、ARバイザーのSNSはオフにしていた。しかし、ニュースが流れていたのはスーパーの食事スペースに置かれているセンターモニターである。

まさか、ここにもARゲーム用のモニターがあるとは――草加市があなどれないのか、それとも設置義務と言う物があるのか。

「とにかく、昼食後に向かわなければ――」

 駆け足にならなければ――という気持ちを抑えつつ、大和はレジを通る。

レジの方は無人と言う訳ではないが、男性のバイトは手持ちの機械でバーコードを読み取って行く。

「1000円になります」

 弁当以外にもお菓子やペットボトル飲料も買った為、予算は若干オーバー気味。

その後、大和はARガジェットからスマホ位の大きさの小型端末を分離させる。

「代金は、こちらで」

 どうやら、大和がバイトの男性に見せたのは電子マネーのようだ。

この端末は他にも様々な機能を持っており、ARガジェットの財布の役割を持っていると言ってもいい。

「弁当は直接アンテナショップへ到着してからか――」

 店を出てからは、若干の早歩きでアンテナショップへと向かった。

丁度、このスーパーからは数分ほどで到着するような距離である。

懸念が現実にならなければ――と大和は考えているが、ニュースでも報道されている以上は最悪のケースに備えないといけないとも考えていた。

大和としては今回のニュースが大規模に報道される事で、ARゲーム離れが起きる事の方を懸念している。

一度、このような事件で風評被害が拡散すると、それを修復するのに莫大な時間がかかる場合もあるからだ。

風評被害やネット炎上を受け、信頼の回復等よりもサービス終了の方が早いと判断したソーシャルゲームも数多くある。

そうした悲劇を繰り返す事はコンテンツ流通が、一部の芸能事務所のアイドルだけしか売れないという認識を海外にも拡散する事につながるだろう。

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