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リズムゲームプラスパルクール  作者: 桜崎あかり
エピソード4『大和、出撃!』
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エピソード4

2017年1月14日付:加筆調整


 4月15日、パワードミュージックのフィールドで発生したノイズ、楽曲の割り込み現象――それらが話題になったのは、起きてすぐではなく翌日の事。

まとめサイトでもこの情報は掴んでいなかった為か、一部でフライング記事がまとめられた際には『明らかなねつ造記事』とバッシングされた。

フライング掲載されたまとめ記事は、数時間後に削除され、まとめサイト1つが閉鎖される事態になったが、これは別事件の始まりに過ぎなかったのかもしれない。

今回のサイト閉鎖に関しては芸能事務所側の圧力という事がネット上でも言われていたのだが、芸能事務所側はこの件に関して否定している。

だからこそ、別事件に発展した可能性もあるのだが、この段階では大きな事件が起きるなんて想像できなかった可能性も高い。

 楽曲のノイズに関しては意図的な演出と言う公式発表があったのだが――それ以外の事例に関しては調査中と発表される。

楽曲の割り込みに関しては流れた曲の関係もあり、ARゲームで禁止されている超有名アイドルの宣伝行為と判定される可能性もあった。

この判定を含め、下手に発表する事は向こう側の思惑に乗る危険性も指摘されたのだが、これを過度の警戒と見る人物も存在している。

 この件がテレビのニュースで報道される事はなかった。ローカルニュースでは取り上げている事もあったが、民放は一切報じていない。

テレビ局やマスコミも自分達にとって金の卵にも似たような超有名アイドルをネット炎上させる事は、大損害につながると考えていたからだ。

唯一、アニメがメインのテレビ局は、我が道を行くと言う事でスルーしている可能性が高い。そのテレビ局は別の意味でも伝説を持っていたのだが。



 午前11時10分、ファストフード店で動画を見ていたビスマルクのテーブルには島風朱音しまかぜ・あかね木曾きそアスナも座っていた。

いつの間にか大所帯になってしまったが、ビスマルクとしては大きな問題になっていない。

「リザルトの方は――なるほど。そう言う事か」

 レースの結果を見た木曾は、何かに納得したような感じではある。その心境に関して、ビスマルクと島風は感じ取れなかったが。

その後、木曾はドリンクバーでカロリーゼロのコーラをコップに入れてくる為に席を離れる。

それを見届けるビスマルクだったが、彼女のコップにはサイダーが入っている。それに手を付けると思ったが、そうではないようだ。

「結局、チートガジェットが使われたような形跡もない。杞憂だったのか――?」

 レースが終了し、肩の力を抜いていたビスマルクだったのだが――リザルトに審議のランプが点灯した事で、流れは大きく変わった。

審議のランプは、基本的にフライング失格の判定やレース中の妨害行為、ゴール後の不正行為に関しての審議を行う際にランプが点灯する。

審判がコースの至る所に配置されている訳ではなく、ARゲーム用の監視カメラ、小型ドローン等が審議に利用されているらしい。

『現在、審議のランプが点灯したため、運営側で審議を行っております。対象は第2ラウンドでのゴールドによるプレイ、その後に発生した不正なラグ――』

「第2ラウンド――まさか?」

 審議を知らせるアナウンスと同時に、ビスマルクは既に動画サイトにアップされている該当ラウンドの動画を確認し始めていた。

「第2ラウンドの楽曲ジャンルはハンズアップ、曲の内容に関しては――」

 動画以外にもレースの解説を行うサイトもブラウザで同時にたち上げており、それを見比べながらの視聴となった。

島風の方も一緒に視聴している状態だが、特に動画を変えて欲しいという発言はない為、レースの方に集中しているのかもしれない。

レースの方は中盤戦、『三倍アイスクリーム』と言う有名な空耳を超えた辺り――それは起こった。

「何だ、これは――」

 ビスマルクの方は、目の前に展開されていた光景に閉口する。島風の方は演出だと判断し、わくわくしながら動画を見ているが――この辺りが2人の反応の違いだろう。

この光景に対し、両者ともにリアクションが別れた格好なのだが――このレースで、一体何が起きたのか?



 該当するシーン、それは俗にBパートと呼ばれる部分で起こった、唐突にブリザードが発生したのである。

本来、ARゲームでも気象を扱うジャンルはFPS系列だけ、他の機種では特に気象がゲームを左右するようなファクターではなかった。

『!?』

 リードしていたのは白銀のプレイヤーだったのだが、その彼でさえも目の前の吹雪は予測できていなかった。

白銀のプレイヤーは転倒はしなかった一方で、吹雪と同化して認識出来なかったノートを見逃す事になる。

 リズムゲームでも対戦中に妨害アイテムを使用して妨害する事が出来る作品は存在するが、パワードミュージックは妨害可能な作品ではない。

吹雪の方も一種の楽曲と連動した演出という見方が出来るような物――とギャラリーは考えていた。

何故、そう考えていたのかと言うと理由がある。それは――あの空耳が登場するパートだったからである。

「この吹雪は――?」

 比叡ひえいアスカの方は、レースと言う点で見ると二位だったのだが――それも吹雪で足止めと言う部分が影響しての順位だった。

その為、単純には喜べない状況でもある。アクシデントで順位を上げる事は――実力で勝ち取った順位ではないから。

リズムゲームでもコントローラのボタンが効かない等の影響でスコアを平均よりも落としたり、中には演奏失敗するケースもある。

それも運が左右していると言われれば、それまでなのかもしれないが――。

 一方で楽曲割り込みに該当するシーンは、残念ながら動画サイトにアップされている物では確認できない。

その理由として、動画としてアップされるのはギャラリーが聞く事の出来る音源を使用している為とも言える。



 レースの映像を見た島風の表情が変化している事に、ビスマルクも気づいていた。

この表情は、どう考えてもパワードミュージックに興味を持った様な顔である。木曾の方は若干複雑そうな表情をしているが。

「どうしてもプレイしたいと言うのであれば、止めはしない。ただし、それなりの覚悟が必要な事は――」

 木曾が少し複雑そうな表情で島風を何とか引き留めようとするのだが、それを聞き入れるような気配はない。

ビスマルクの方は何を言っても無駄だろうと開き直っている。しばらくしたらアンテナショップへ行く事も視野に入れるべきか。

『審議の結果を報告いたします――』

 木曾が引き留めようとした途中で、先ほどの審議に関する放送が流れた。審議と言っても、失格者なしの報告で形式だけ――と誰もが思っていた。

実際、木曾も実際に失格者が出るようであれば――レース前にチートの存在を見つけているはずだ、と。

『審議の結果、比叡アスカ以外の2名は不正ツールの使用及び超有名アイドルグループの便乗宣伝行為が確認出来たとして――』

 まさかの判定に驚きを隠せなかったのは、木曾の方だった。

不正ツールの使用という部分は、明らかにゲーム前のチートチェックがザルだったことの証明になるからである。

ツールの精度は日々進化しているとも言われるが、これはこれでひどい――木曾は考えていた。

「そんな馬鹿な事が――」

 木曾は眼帯を握りしめ、歯ぎしりをしながら悔しがる。それ程に今回の判定は非常に不可解としか言えない部分があったからだ。

木曾が不可解と言うのは、チートの部分だけではない。超有名アイドルグループの便乗宣伝と言う部分も該当する。

ここでいう宣伝とは、CDの購買運動、楽曲やイベントの宣伝、CDランキングで特定グループのCDを組織票で購入――と言う様な物が該当する。

作品によっては、他のコンテンツが超有名アイドルよりも劣る、全てのコンテンツは超有名アイドルのかませ犬にすぎないという発言等――そうした物も失格扱いとされる事も。

とにかく、ARゲームでは超有名アイドルのタダ乗り宣伝をされないようにする為、さまざまなガイドラインが組み込まれているのだが、誰が何のために厳しくしているのかは分からないままだ。

一説には運営サイドではなく、ある物を参考にしたという噂まで存在するが、ネット上では否定されている事が多い。

『このレースに関しては、無効と判定いたします。なお、比叡アスカのリザルトに関しては不正がない事を確認している為、データとしては有効とします』

 判定放送には続きがあった。不正行為を行った2名のプレイヤーが失格、更にはレースが無効判定とされたのである。

ただし、レースとしては無効だが――比叡のプレイに関しては有効と言う結果にはなっていた。

「これは――他の勢力がとんでもない事を考えなければよいのだが――」

 ビスマルクはレースの結果が想定外とも言える判定になった事に対し、何かの懸念を感じていた。

そして、その懸念は別の意味でも現実の物となった。



 午前11時15分、アンテナショップへ戻った比叡は落ち込んでいた。ベンチに座り込み、レースの動画を見る事無く。

その落ち込みは相当な物であり、スタッフが声を賭けるのも躊躇するレベルだ。

インナースーツには特に装着時のリスクがある訳でもないのだが、ARアーマーには活動限界が設定されている。

アーマーの方は既に一部を解除をしているようだが、ARメットはそのままだった。

 5分位は何もしなかっただろうか? しばらくして、立ち上がったと思ったらコンテナルームの方へと向かった。

どうやら、残るアーマーを解除する為に向かったと思われるが――。

「自分が――甘く見過ぎていた」

 比叡も見通しが甘かった事は痛感している。レースの結果は、失格者の影響で無効となっている。

しかし、自分の記録は有効である為、記録の取り消しは出来ない。それに関して悔しがっている訳ではないのだが――。

「これが、ARゲームの現実――。こちらの想定以上にチートが蔓延していたなんて」

 比叡は悔しがった。単純に敗北しただけであれば、次回に向けて練習をすればいいだろう。

しかし、今回のレースは不正ツールを使用した事による失格者が出現した。

比叡に責任がある訳ではないし、運営側がツールを発見できなかった事を攻める事も出来ない。

「あれだけのチートを振りかざして、瞬間の勝利の美酒に酔いしれようと言うのか――馬鹿馬鹿しい!」

 チートプレイヤーの存在はARゲームだけでなく、リズムゲームにもあった。

それは1人プレイが前提の機種で複数人プレイ、自分より上手なプレイヤーに身代わりを頼むと言ったようなアナログな物が多い。

ARゲームではアナログなチートも存在するのだが、それ以上にARガジェットにツールを組み込む、不正ガジェットを持ちこむ等の不正が多かったのである。

そこまでしてハイスコアを取ったとしても、後に判明してしまえばライセンスはく奪だけでなく――自分の経歴に傷が付くはずだ。

スポーツアスリートでもドーピング問題が切っても切り離せないように、ARゲームでもチートが蔓延していたという事か。

その怒りは爆発寸前であり、ARガジェットに八つ当たりする直前でもあった。

「物に当たったとしても、それで怒りが収まる訳でもない――」

 しばらく自問自答をしていたが、その後はARアーマーを解除し、インナースーツを脱ぐ。

身体の方は汗でびっしょり――まるで、本当にスポーツで汗を流したかのような感覚があった。

リズムゲームでも身体を使う物はあるが、ここまで大量の汗はかかない。スーツの下は水着であり、全裸と言う訳ではない。

中には全裸の状態からインナースーツを装着する人物もいるのだが、それらはレアケースと言うべきか。

「チートが悪いのは、今に始まった事ではない。しかし、後味の悪いのは――」

 プレイ回数が多ければ、タオルが必要な程の汗はかくかもしれない。シャワーを軽く浴びる程度でも、身体の不快感はある程度取れるだろうか。

その後、比叡はシャワールームを利用して身体を洗い、アンテナショップを出たのは午前12時近くだった。

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