6. 異世界式カードゲーム
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アルセームの街一番の書店、大きさで言えば人が何千人かは楽に入れるだろう規模のもので王都の国立図書館なんかには及ばないまでも今現在出版されている本の類いなら揃わないものはないと言われるほどの書店だ。
そんなここ、ヘルヴィオール王立書店でいつもならありえないほど大きな歓声が響いていた。
「「「ワァァァァァアアアアアアアアッッ!!!!!」」」
いやいやここ本屋だから。もっと落ち着いたシックな場所だから。
今この国、と言うか王都含め周辺の街で物凄く流行っている遊び
がある。
名前は"ナイツ・カード"、トランプなんかと同じカードゲームだ。
プレイヤー数は2人でお互い初期ポイント1000の持ち点からスタート。交互に攻撃のターンと防御のターンを繰り返し、カードの攻撃や効果で敵のポイントを先に削りきった方の勝ち
というのが基本的なゲームの進行。
このゲーム、そりゃあもう今までそんな遊び方を誰も思い付かなかったわけで発売した瞬間に貴族が買い占めるほどの人気がついたわけだ。
そして自身もファンの一人だった現国王がナイツ・カードのためだけに独占禁止法を作ったほど。一人何パックまでってね。・・・・・権力ってすごいなぁ。
で、なぜ規制が掛かるほどおもしろいのか?
それはこのゲームのコンセプト『たった1つの勝ち方』、人々がどハマリしている理由だ。
例えばカードの1つの"ゴブリン"。
これはアタックが70とかなり低い値で1000のポイントを削りきるためには15回も攻撃をしなくちゃいけないんだけどどう考えてもその前に倒される。ディフェンスなんて50だし。
しかしこのカード、ここに"ゴブリンの親玉"の効果『フィールドのゴブリン全てのアタックを200にする』を使えばどうだろう?
なんということでしょうアタックが4倍に上がってしまいました。
アタック200で1000ポイントを削るなら5回。
もちろん"ゴブリンの親玉"は召喚するためにそれなりのコストが必要ではあるけどもその代わりに"ゴブリン"はノーコストでポンポン出せるカード。
こんな風にどれだけ弱いと思っていても絶対なにかしらの活きる道があり、それを組み合わせて自分だけの勝ち方を考える、そこに楽しさと奥深さが詰まってるんだよね。
しかもカードは専門のイラストレーターさんが描いていてものすごくキレイ。
たまーにでるレアなカードは光に反射して光沢が輝る仕様。
ただ集めてるだけって人もいるほどに拘っている造りだ。ただしそんな特殊なカードは製作コストも馬鹿にできないらしい。ちなみになぜにそんな製作陣側の事情まで知っているのかというとこのカードゲーム―――
「ではこれよりっ!第6回ナイツ・カード―ヘルヴィオールトーナメント―決勝戦を開始いたしますっ!!!」
「「「ワァァァァァアアアアアアアアッッ!!!!!」」」
「そして今回の優勝賞品はぁっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・バークリー出版よりっ!パック全シリーズ各10カートンですっっ!!!」
アルムが考えたんだもんなぁ。
たしか今のライラちゃんと同じ頃だから13歳の時だっけ。
「「「おお、おおおおおぉぉっっ・・・・・・?」」」
業務用かってくらいの優勝賞品の多さに観客も若干ハテナを浮かべてしまった様。ちなみに1パック5枚入りで一箱が20パック。1カートンは箱が12箱だから10カートンは2400パックだ。やばない?
今回も大盤振る舞いだねー、バークリー出版。年々増えてる気がするし・・・・・・・・・。
たしかに販売する店舗はバークリー出版直列店で実際に制作しているのも本社(見た目城)のみということを引いても国王に認められ版権の特許による専売、デッキの定石を掲載した専門誌、カードのキャラクター化、いったいどれだけ稼いでるのか。
そしてそこまで人気が出てしまえば経済効果は彼らのうちにとどまらない。
紙の原材料の木はアルセームの街の外からの仕入れているので急に需要が高まったことで木材の価値が高騰しあちこちで景気が良くなっているとか。
地方からアルセームに来るまでの道中も使用頻度が多くなり綺麗に整備され、公共事業で求人。
家の手伝いと称して考えだしたらしいアルムだけどわたしからしたら国家予算でも稼ぎだそうとしているようにしか見えない。
今日はその全国大会の決勝戦が行われるということで、まぁこの歓声もしょうがないかな。
ああそうそう、なんでわたしがここにいるかだけど―――
「では登場頂きましょう!優勝を決する両雄ですっ!!」
ステージの真ん中にある一脚の机と一対のイス。そこを挟むように左右の影からここまで勝ち残った2人が出てくる。
「前年度準優勝者ァ、エルリック=ワインズマンーーッ!!」
「クフフ、ワタシの考えた最効率ドラゴンデッキで消し飛ばしてやるでゲスよォ」
紹介されたワインズマンさんは・・・・・なんかこう、うん。オタク?って感じで逆に強そう。前年度ってことは去年も戦ったのかな?覚えてないケド。
ゲスて。
まぁいっか。
ふぅ、と1つ息を吐いて来るであろう出来事に身構える。
「続きましてェ前年度優勝者、アイリーン=ウェイバーァァァッッ!!」
呼ばれた。
わたしアイリーン=ウェイバー。
ナイツ・カード『ヘルヴィオール』現チャンピオンである。
「でっでたぁーっ!2年間どの大会でも無敗の絶対王者っ!!」
「そのデッキ構成は毎大会異なる内容で未だレシピもまったく不明!」
「圧倒的な強さから付いた2つ名はこのゲーム最高アタックの"騎士王アルトリウス"から転じて『クイーン・オブ・アーサー』!」
「「「ワァァァァァアアアアアアアアッッ!!!!!」」」
うわなにそれ初耳なんだけど!?
メチャメチャ痛いネーミングセンスに頼んでもいない紹介をされてステージに登ったわたしを歓声の銃弾が貫いた。痛いって言うかイタイ。
ただ普通に遊んでたら優勝しちゃったんだよねぇ、一昨年。
幼馴染みってことで商品開発とかは手伝ってたけどさ。
もうなんかイベントとかあるとこうやって盛り上げるためだけに呼ばれるんだもん、さすがに面倒になってきた。
・・・・・まぁ、アルムに頼まれてしまえば断れなくなってしまうのが辛い。
協力してくれているからと一応バイト代みたいなものも出るし、妥協ラインかな。労働の。
それでもイベントに出るときは変装として仮面くらいは着けていく。名前だけならまだなんとかなるけど顔を見られるとさすがにね、街中でアーサーとか言われたくない。
内心そんな愚痴をこぼしながら席につきデッキを取り出す。
「では・・・決勝戦はじめぇっ!!!」
司会者さんが声高に開始を告げた。
この人もこれが仕事なんだよなぁ、大変だ。
「ではワタシが先攻をいただくでゲスよ!」
「どぞ」
「ドロー!まずはフィールドに"火龍の使徒"を召喚!さらに手札から"火龍降臨の贄"を発動するでゲス。この効果で次のターンの始めに"火龍の使徒"をトラッシュし、"霊峰の火龍フレイラス"をノーコスト召喚できるでゲス!」
聞いてもないのに効果を話してくれる辺り観衆に優しい。
わたしもそれは知らなかったよ、教えてくれてありがとう。
「場にカードを伏せてターンを終わるでゲス」
「わたしのターンドロー・・・・・あー、」
あー、一発目でこれ引いちゃったかぁ。
じゃあ申し訳ないけど今回の大会はそろそろ後片付けを始めた方がいいかもしれない。
ワインズマンさんもせっかく盛り上げてくれたのにごめんなさい。
「"魔剣士ルゥリィ"を召喚、さらに手札から"滅亡星の波動"を発動、山札を2枚トラッシュしてください」
ちなみに追加効果でわたしは100のポイントを払うがルゥリィの効果でこのターンだけわたしがカードの効果で払うポイントは0になる。
「ハン!そんなもの痛くも痒くも・・・・・」
「そして手札から"魔力回廊の暴走発動"します。効果でデッキをめくり、魔法カードの場合すでにトラッシュした別の魔法カードを手札に戻します。ちなみに効果はこのターンの間続きます。」
さあ整った。
「ドロー、魔法カード。"滅亡星の波動"回収、そして発動」
「いや、しかしそんなことを続ければ1000ポイントなんてすぐに・・・・・・あぁっ!?」
ルゥリィの効果でこのターン『だけ』わたしはポイントのコストを気にしなくていい。
そして最高率?それを言うならわたしだよ。
このコンボのためだけにデッキに入れている攻撃可能なカードはルゥリィだけなんだから。
つまりわたしの今回考えたコンセプトは『デッキアウト』。
デッキがなくなったら勝負は続けられないでしょ?
さ、あとはこの繰り返し。サクっといこー。
「ドロー魔法、ドロー魔法、ドロー魔法、ドロー魔法、ドロー・・って、ああ"魔石再発掘"か。このカードを自分のカードの効果でトラッシュするときに相手の山札を4枚トラッシュします」
「」
こんな調子を数回繰り返して40枚あった彼のデッキを地平線に均し、ターン交代。でも、
「ドロー・・・・・・できません」
「おぉっと!?ワインズマン選手デッキアウトでゲーム終了だああぁっっ!!!」
「す、すげぇ・・・・・・」
「デッキアウトなんてドロー加速したデッキの自滅くらいでしか見たことないぞ!?」
「これは新たな2つ名を考えなければ・・・・・」
「「「ワアアアアアアアァァァァァアアッッッッ!!!!!」」」
司会者のゲーム終了宣言に今日何度目かわからない歓声が一際大きく響いたのだった。
あとそこ余計なこと考えるんじゃない。
さすがに表彰式も終われば会場のざわめきも少しずつ落ち着きを取り戻し始めていた。
「おめでとうアイリ。また勝ったか、ははっ」
表彰式はゲームの製作代表のアルムから優勝楯を賜りまして終了。
今日は観客に混じって観ていたとのことで今はステージの舞台袖。
「あーあ、ここに立ったのも3回目ね。もうだれか代わってくれないかなぁ?」
「まぁそう言うなって。ほ、らぁっ!優勝の景品だ」
どーんと目の前にわたしじゃ持ち上がらないくらい重そうな箱がいくつか置かれる。これ全部カードかぁ・・・・・・。
「いやいやこんなの渡されても持ってけないよ。ね、うちまで運んでくれるでしょ?」
「はぁ、マジかよ。今年は新シリーズのパック幾つか出してるから今までのも含めると・・・・・・・・・・たく、わかったよ」
「うんっありがと」
わたしはこんなに必要ないんだけど一応優勝しちゃったし形だけでも貰っとけとのこと。
さすがにこれを女の子1人で持っていけなんて言わないよね?
ちなみに去年の景品は限定仕様のレアカード。
てことで今日はお供をつれて帰ろっか。
山積みのカードより荷物持ちの騎士のほうがわたしにはよっぽどうれしい副賞だ。
ありがとうございましたっ!