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5. 母の杞憂

コメント&ご指摘いただけたら幸いです(^^;

「ただいまー・・・って、お袋もう起きてたのか?」


  「言ったろ、ウォルターが今日は早いって。まぁアタシも起きるさ」


 あぁ、そんなこと言っていたかも知れない。

 ウォルターはもういないようでアルムが家を出てから何分もしないうちにそちらも出ていったんだろう。


  「てかよぉ、お袋。アイリにおかしなこと吹き込むなよな、まったく」


 ぎくっ

 内心そんな擬音を漏らすシンシア。


  「あ、あはははー、冗談のつもりだったんだけどなー?」


  「たくっ・・・・・。もうそれはいいや、アイリにも彼女なんかいないって言ってきたしな」


 そう、今はそれよりも。


  「はっ、くぁっ・・・・・。今日は休みだし俺、寝るわ」


  早すぎる起床時間のせい、そして朝ダッシュからの帰宅が眠気に拍車をかけ、とにかくもう倒れこんででも眠りたいほどの睡魔。

 それを耐えやっとの思いで2階まであがりベッドに倒れ込んだアルムはもはや昼前には起きてこいよーっ!というシンシアの言葉も微かに耳に残るくらいの意識しか残されていなかった。



  「アイツ、アイリの家まで行って来たのか」


  後に残り、ライラや自分の朝食を作り始めるシンシア。

  昨日は久しぶりに訪れた客の余韻を肴に自分でもあまり得意ではないとわかっている酒を煽った。

 ああ、失敗した。酔ってはいても何となくその発言は覚えている。


  「はぁぁ、ミスったなぁ。マジで」


  昨日、アイリの帰り際に耳打ちした内容。


  『あのな、アルムのやつ最近イイ女の子がいるみたいなんだわ』



 これを酔った勢いでアルムにまで話してしまったのは失敗だったと酔いがさめた今朝になって気がついた。


  「せっかくうちにまた顔出してくれるようになったんだからもっと距離が縮んでくれればと思ったんだけどなぁ」


 シンシアはこう考えていた。


 まず大前提としてアイリが自分の息子に好意を持っているのはモロバレだった。

 それは頻繁に遊びに来ていた数年前から昨日まで変わらなかったというのは料理中にカマをかけてみたことから確認済み。


 ただ、ひとつ問題も見つけた。

 それは緩い停滞。


  義務教育を卒業してから徐々に会う回数が減り始めたものの、ほぼ毎日自分の店に顔を出してくれるアルム。自分が好意を抱いてさえいるならきっといつかは・・・・・・・・と、根拠のない、アイリ本人ですら気が付いていなかった体たらくぶりを2人の状況から見抜いた。


 そんな2人が距離を縮めるきっかけとしてアイリが今の状況に危機感を持ち、アルムに対してもっと積極的になってくれればと思っての耳打ちだった。


  正直自分の息子、自覚はないようだがかなり顔は整っている。

 それは線が細いが男前な夫によるものが大きい、なんせ自分も惚れたくらいだ。

 そんな息子が年頃の少女に言い寄られないわけがない。

  放っておいたら引く手余多のところをいままではアイリが近くにいたことで抑えていたが、実際に仲がいいとは言わないまでも近くに寄ってくる者はいるだろう。


 シンシアとしても子供の頃から知っており、料理もでき、商売がらしっかりした財布の紐、何より気立てがよく自分の息子を想ってくれている娘に嫁いでくれたらこれ以上はないと思っている。


 だがその耳打ちを『仲のいい女友達』ではなく『彼女』と曲解したアイリ。

  偶然にもそれは泥酔した昨夜のシンシアが口走った表現と同じだった。


 ちょっと焚きつけるつもりが重めの表現になってアイリに伝わってしまったのは今しがた帰宅したアルムの言葉から察した。


  「誤解は解いたって言うけど・・・・・それでも危機感くらいは学んでほしいよなぁアイリに。あわよくばこのままくっついてくれりゃあな」


 なーんつって。

 と、今日も学校があるライラへの作りおきにする朝食と出勤する自分用の朝食を作る手は止めない母。


 その思いが通じたかはわからないが、いつもの広場で仕入をしていたアイリはというと―――




 ✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳




「・・・わたしに彼女がいると思われたくない・・・・・・・ってことはつまり!?で、でもまだ気づいてないみたいだけどあのアルムだし、シンシアさんが言ってたようなこともありえないことじゃない、よね?」


  贔屓目に見ても自分の想い人はカッコイイ。

  高い鼻に少し大きめの目。いや、そもそも輪郭からしていいのだろうはっきりとしている。

  背は同学年の男子とあまり変わらなかったがそれが返って親しみやすく、言葉回しもうまい。

 話しているとついつい喋りすぎてしまう聞き上手。異世界人だと名乗るのも笑いの種になっていた。

  更に同い年とは思えないほど気が回り、妙なところで大人びている。

 スポーツはそこそこなのだがたまに活躍したときはどこからともなく黄色い声援が飛んできた。

  成績はかなりいいほう。

 と、語り出せばいくらでも出てくる褒め言葉。

 それはもう学生時代なんて女子のネットワークを使えばいくらでも彼に惚れているという少女が学年問わず見つかったほどだ。

  当時は自分が傍にいて回ることが多かったため、それを勘違いされたようで告白の抑止力になっていたがそれすらも気にしないといったように想いを告げる女子は後を絶たなかった。

 しかし、それをすべて断ってしまった幼馴染みに妙な安心感すら覚えていた。


 きっとわたしだけがずっとコイツの隣にいられるのだろうと。


 が、それも優しいアルムのこと。

 いつの日か魔獣のような女に押し切られてしまうかもしれないと、ありえなくない想像もしてしまう。

 それはついさっき冗談だと説明されたことだが考えてみればみるほど彼の母親の言は現実味を帯びてきた。

 これは・・・・・・・・。


  「なにやってんだろ・・・・・ちょっと油断しすぎていたかも」


  『勘違いされていたくない』というアルムの説明を自分への、アルムですら気がついていない好意の裏返しと受け取ったアイリ。

 若干ずれている解釈だったが、


(だれにもアイツは渡さない。そして・・・・・・・・・・絶対いつか気づかせてみせる!)


 その決意した努力の方向は偶然にもシンシアの思惑と重なったのだった。




 その後、仕事を忘れ1人思考に没頭していたアイリの頭にはハロルドより重めの拳骨が落ちてくることになる。



感想等お持ちでしたらおねがいしますm(._.)m

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