3. ご挨拶にはまだ早い?~後編~
昨日のうちに連投できませんでした!スミマセンッッッ!!orz
ライラ⇒(バークリー)母の呼称変更しました。
本話少し長めになっています。
デデーン。
とうとう着いてしまったバークリー宅は、まぁ当たり前だけど最後に訪れたときのまんまだった。
見た目はそう、一言で言ってしまえば『オシャレ』。
それはただ豪奢といった感じよりもむしろ上品。
2階建庭付きと一般的な住宅の造りだけど侮るなかれ。
家から門(あるのは割と珍しい)から外観は全て白。
普通は泥棒なんかの目につきやすいので青や赤といったベタな色合いが多い中、ぽつんと1つ白亜の邸宅。
遠目にもまるわかりである。
ドアまでの石畳もマーブルのようで足元からその金額を感じる。
さらに門をくぐって右手にある庭。
なんというか自然を凝縮したみたいな庭園って感じだ。
塀に隣接した一角には大きめの池、およいでいる極才色の魚たちと差し込んでくる光が相まってもはや宝石箱の様相を呈している。ただ眺めているだけでも時間の進みが早そうだ。
これもまた塀にそって何本も植えられている木は青い葉っぱが茂ってその根本には木陰ができ、夏の日差しには涼しそう・・・・・って、やっぱりベンチがある。これは前まではなかったかな。
ここで昼下がりの読書なんて物凄い優雅。
小さいながら畑なんかもあったりしてうちの店で売ってるような野菜も実ってる。
全面芝のこの庭にバーベキューセットを用意、取れたての野菜を串に刺してお肉といっしょに・・・・、すごいなバークリー邸。
アウトドアの見本市ですか。
自分の家がこんな風ならわたしも毎日庭で駆け回る超健康児に育っていたかのかも。
とゆーか昔はよく遊ばせてもらってた。
数年ぶりの幼馴染みの家はあまり変わらないようでわたしはよくわからない安心感なんてものを感じたりした。
「さ、入って入っておねぇちゃん」
おぅ、そんなことを考えていたらライラちゃんに押し出されてしまった。まぁ、そりゃここまで来たら行くしかないよね。
「ほら、先に入って」
「う、うん。ありがと」
アルムにも催促され支えてくれているドアをくぐる。ドアすらもなんか高級そうな雰囲気、そしてその先。
ギョロっと左右に別の方向を向いた目がわたしをお出迎え。
うっ!やっぱりこいつか・・・・・。
エントランスからいきなりブッファロの剥製。生首だけの。
これだけはセンスの塊であるこの家にあって1つだけ未だに理解ができないものだ。だってこれ、気持ち悪いよ・・・なんかもう断末魔を挙げたときの表情そのままって感じだし。初めてこれを見たときは泣いたっけ。
ちなみにブッファロは街の外へ少し出れば割とよく見かけるし駆け出しのハンターにも狩りやすく、毛皮とそのお肉も余さず使えるためとってもポピュラーなモンスターだ。
この剝製はアルムたちのおじいさんが贈ってくれたものらしく、ある日突然玄関先にあり、当時の私は失禁を禁じえなかったのだ・・・・・。
「はは、おまえまだこれが苦手なんだな」
「むぅ、余計なお世話よ!これのせいであの後お肉たべられなくなったんだからね!」
そしてそれを今でもバカにされる。こんなの女の子なら誰だってムリでしょ!
「えー?そうかなぁ、わたしはかわいいって思うんだけど」
おや早速例外ちゃんがお隣に。
わたしに続いて入ってきたライラちゃんはこれをかわいいものだと思っているらしい。
「ほーらぁ!それよりリビングいこ?ママたちも帰ってると思うし」
「う、うん。おじゃまします」
そうだった。まずはご両親に挨拶しないと。
多分アルムといっしょのタイミングで帰ってきただろうし・・・って、あれ?
「そう言えばなんでアルムはあそこの角を曲がろうとしてたの?」
急にポンと疑問が浮かんだ。
わたしたちはこの家に向かって歩いていた。だからアルムが普通に家路についていれば絶対会うことなんてないわけで。
それにあの角を曲がってあるものなんて・・・・・。
「あー、そりゃおまえんちの野菜でも買っていこうかなってさ、でもライラもいたしちょうどよかったな」
あっ、・・・・・・うん、やっぱりか。
まぁほぼ毎日のことだしそりゃそうだよね、うん。
別にいつものことなんだけど言葉回しのせいなのかちょっとドキッとする。
秒に直せば5秒くらいの会話に不思議と時間を感じた。
まぁでも間取りは普通の家なのでこんな小さな会話1つでも終わる頃にはリビングへのドアのまえに着いてしまう。
「ほらいくぞ」
アルムがノブに手を掛け、まずはわたしがいって挨拶からだろうと思い、中に入ろうとした瞬間、
「ママー!ただいまっ」
ライラちゃんが我慢しきれず飛び出したようだ。
「おうおかえりっ!でもちょっとおそくねーかぁ?行くときにいつの鐘が鳴る前に帰ってこいって言ったよ?」
ライラちゃん今日2度目のダイビングハグをやはり受け止め、2年前と変わらない女性にしてはやや乱暴な喋り口調。
ライラちゃんの元気の良さを考えればこういうところでしっかり親子なんだと感じさせるその人。
「うっ、ご、ごめんなさぁい・・・。で、でもおねぇちゃんが送ってくれたの!」
「ん?おねぇちゃん?おねぇちゃんて・・・・・」
一番で飛び出したライラちゃんがわたしを指差してその無実の証拠を説明しだした。
そして証人にされたわたしはというと――
「え、えと、ご無沙汰して・・・・・・」
「あぁ!?もしかしてアイリかっ!?久しぶりだなぁおい!!」
「むぐぅあっ!?むーっ!むぅっー!!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぉふ」
「ん?アイリ?・・・アイリィィイイイッ!!?」
挨拶なんてするまもなく抱きつかれ、その大きな、妬ましいくらいに大きな双丘に危うく窒息しかけたのだった。
死刑である。
****************
「げっほごほ、あっげふ」
「あ、あはははっ、悪い悪い。久しぶりで嬉しかったもんでつい・・・・・。あはは」
うぅ、急におじゃました私も悪いんだけどなかなかキツめの歓迎だったなぁ。
まだ咳が止まらnげっほえふ!
「おいおいさすがに咳き込みすぎだろ~ふふっ」
なんて隣のイスに座っているアルムが笑う。
いやけっこう危なかったんだからね?リアルに。
「いやーにしても来てくれて嬉しいぞアイリ。それにライラのことも送ってきてくれたんだろ?ちゃんとお礼言ったかライラ?」
「うん!ありがとうおねぇちゃん!」
ホントはもうお礼の言葉はもらっているんだけどまた言ってくれたライラちゃん。
いや、わたしの方こそこうして今、おじゃましてしまっているわけで・・・・・。
「さて、と。そろそろいい時間かな、アイリも夕飯食べていくんだろ?」
ちょうど夕食の準備に取り掛かるところだったらしく、世間話もそこそこにそんな話を切り出された。
「ああ、帰りは俺が送っていくからな」
ちょっと心苦しいような気もするけどそういう話で今日は来ているのではいと頷く。
「おし!じゃあさっさと作っちまおうか、アイリも手伝ってくれ」
「あ、はい、ご馳走になります」
「いやおまえも作る側なんだから・・・・・って、まぁいっか。ほらこっちだ」
リビングにアルムとライラちゃんの兄妹を残して覚えのあるキッチンに向かう。
ライラちゃん、それにアルムともまるで違う毛色の綺麗な赤毛を後頭部でまとめて腰の近くまで流しており、活発そうな印象に気の強そうなつり上がった目元が拍車をかけている兄妹の母親、シンシアさんはわたしのお母さんが学生だった頃からの友人らしい。
のほほぉ~んとしたお母さんが心配で放っておけなかったというシンシアさんの言だがそれは長年いっしょに暮らしてきたわたしにもわかることなのでこんなしっかりした人と知り合いになれて母は本当によかったんじゃないかと思う。この2人のつながりでお父さんたち同士も仲良くなり、今でもたまに暇が合うときは酒場へいっしょに行ってるみたい。お父さんは朝の仕入れもあるからそんなに遅くまでは飲めないんだけどね。
ちなみに今は姿の見えない兄妹の父、ウォルターさんは少しだけ仕事を片付けてから帰ってくるとのこと。
「さ!何を作ろうかね~、ライラは何が食べたい?」
キッチンに移動し、2人分のエプロンを取り出したシンシアさんがリクエストを尋ねる。
「いえ、そんな、ご馳走になるのにそんなことは・・・・・」
再三言うけどわたしは急におじゃましてるわけだしそんな図々しいこと・・・・・・・。
「はぁ、」
と、そう答えるとシンシアさんがはぁ、とため息をついて表情を少し曇らせた。
「なぁアイリ、そんなこと言わないでくれよ。こんな小さい時から知っててもうひとりの娘みたいに思っているおまえが久しぶりに来てくれたんだ、あいつらだってそう思ってるのはわかるだろ?だからアタシたちに遠慮なんかすんなよ。な?」
あ―――
「・・・・・・・・・うん、はぃ」
「うし!んで何がたべたい?」
わたしはつまらない、ともすれば下らない気持ちでこんなに大切な人たちに何年も触れようとしなかったのかったんだ・・・・・。バカだな、きっといつだってこんな風に出迎えてくれてたんだろうにろうに。
あ、だめ、目が滲んで・・・・・・・・・・ううん。
「じゃあ、キッシュ・・・、キッシュが食べたいです」
「おう!アタシも久しぶりに作るな?アルムも昔はうまそうに食べてたけどあれは生地作るのが面倒で最近はサッパリだな、はは」
わたしもここを訪れたときには何回かご馳走になった料理。
たしかアルムの好物だったかな、なんて少し打算も混じったリクエストだけどやっぱり時間がかかりますよね。パイ生地からつくろうとすると寝かせる時間も合わせて2時間くらい必要になるし・・・・・。
あ、なんか調子に乗ってアホなこと言ってしまったのかもしれない。
「あ、あはは・・・やっぱりいきなりは無理ですよね?。やっぱりなにか違うものに・・・・・」
「いーやっ!せっかく言ってくれたわがままだ、それくらい答えてやらなくて何が『母親』だよ?まぁ任せてみろって。それに、」
と、訂正するまもなく口を入れられてしまった。
え、いやでも現実問題として待ってるふたりやこれから帰ってくるだろうウォルターさんがお腹を空かせる前に作ることなんて・・・・・ん?
「それにこれくらいできなきゃアルムの嫁なんてまだまだ遠いぜ?ふふっ」
な、なぁあああああああぁぁっっ!?
*********************
「おぃっし!なにこれ!?」
「ああこれすっごいうまいな!てか久しぶりに食べたし」
「アイリちゃんもすっかり女の子だね。料理もこんなにできるようになって、ライラも頑張りなよ?」
「もうっパパ!わかってるくせにそーゆーこといわないでっ」
シンシアさんと作った夕食は大好評でお客様方は文字通り三者三様の言葉でお褒めくださった。
特にキッシュはベーコンや何種類化の葉物野菜をサクサクのパイ生地に包み込まれ表面は一面のチーズ、
横に置いてあるソースは赤みのかかった色合いで少し辛そう、でも味を変えたい時のアクセントにはちょうどよさそうだ。
でもこの料理は結局のところシンシアさんの活躍が大きくてわたしまで褒められなくてもいいのになー、
なんて賞賛を素直に受け取らないわたしは天邪鬼だろうか?
ちなみにさっき帰ってきたウォルターさんに軽口を叩かれているライラちゃんだが前科持ちである。
以前おじゃましたときいっしょにごはんを作ろうとした。
メニューは普通のビーフシチューをわたしと担当した・・・・・はずだったのに出来上がり、食べてみたところ・・・・・・・・。
居合わせたわたしの両親も含めた両家全員卒倒した。
もちろんわたしはそれより前から炊事場のお手伝いも何回かさせてもらっていたので疑いは一発で晴れ、
その矛先は当然ライラちゃんに。
言われた通りのことをしただけとライラちゃんは言うが確かにわたしも、そのときはお母さんもいたので
シンシアさんも合わせて3人が付きっきりとは言わないまでもその場にいた。
もちろん今より幼く、包丁を扱うしそれなりの頻度で顔を向けて見守っていたのに誰もおかしなところはなかったと。
その後も何回か試してみたけどその度に不自然な箇所は見つからないし増えてく味のゲシュタルト崩壊。
いやもう魔法じゃないそれ?
ウォルターさんはそんな愛娘にも挫けず頑張って欲しいようだけど当の本人はさすがにもうその気も起こらないようだ。自分でもその威力がわかっているだけに優しいライラちゃん、今は手ずから兵器を作りたくない模様。
と、パイ生地作りの際に冷水を混ぜて通常の4倍の速さで寝かせの工程を終わすという歴戦の主婦を感じさせるテクニックの間にも次々と出来上がった料理がすべて平らげられ、コップについでもらったジュースで一息入れた。
「ふぅ、おいし」
このアルムが考えたというジュース、名前もつけていてたしかアクエr・・・・・なんだっけ?
原材料は水、塩、砂糖のたった3つだけらしく、それらを微妙なバランスで混ぜるとこんなふうにスッキリとした今みたいな季節にはピッタリの飲料ができる。
これ、原価もめちゃめちゃ低いし長時間でも保存できるから店で出したら本当に売れちゃいそうな出来なんだってば。なんで誰も思いつかなかったんだろ?
まさかこれも異世界の・・・・・・とかわけのわからないこと言わないよね?
「それふつーにスーパーで売ってるやつなんだけどなー?」
ほらまた言い出したよ。すーぱーってなんのことなんだか・・・・・・・。
「はぁ・・・・・ってもうこんな時間だ」
ため息混じりで動かした視線は壁掛時計へ。
2本ある針の短い方が八百屋の娘基準ではそろそろ帰らなければいけない時間を指していた。
帰り道のことも考えたらベッドに入るのはいつもよりちょっと遅くなってしまうくらい、かな。
それもいますぐ帰ったらの話、ところが今から洗い物があるのでそうもいかないかなぁ。明日は眠い朝になりそう。
先に下げて、水につけている食器を洗いに行こうとしたときライラちゃんに声をかけられた。
「あ!洗い物もう終わってるからね、おねぇちゃん」
「えっ!うそ、いつのまに・・・」
へっへーんと胸を張るライラちゃん。
ど、どゆこと?
「ライラはさぁ、知っての通りだけど料理のほどはアレだからさ。けっこう自分からそれ以外の手伝いなんかやってくれるんだよね。料理以外ならもうどこに出しても恥ずかしくない嫁だな。はっは」
「もー!それは言わない約束ー!!」
いくら家事ができるからって言ってもこの人数の食器を1人で?
というかそれ以前にライラちゃんが席を立ったのってトイレに行ったほんの数分くらいで・・・・・・ってあれもしかして食器洗ってた?
たしかに2,3分いなくなったからトイレには長いけど洗い物には短すぎる時間だと思っていた。
いったいどれだけスキルを上げたんだろう・・・・・・・。
あ、いや長い場合は乙女の秘密ってことで。
「まぁとにかく仕事は残ってないみたいだし帰るなら送ってくぞ?」
「おう!しっかり送っていけよ」
あ、なんか立ち上がったままのわたしをおいて話が進んでしまっている。
たしかに帰ろうとしてたんだけどね。
ライラちゃんにありがとうを告げてリビングを出ると去り際、ウォルターさんといっしょに手を振ってくれた。
「じゃあなアイリ。またいつでも来いよ!」
「あはは、おじゃまじゃなければ・・・あ!じゃなくて、」
うっ、やっぱりなかなか慣れないなぁ。
話し方のスタンスが昔みたいにはなかなか・・・・・・・。
「ったく、まだ言ってんのかよ。まぁいいけどさ・・・・・それよりちょっとこい」
「えっ?って、いたたっ」
けっこうな力で耳を引っ張られると口元を近づけられ・・・・・・・・・・・・・・え?
「・・・ま、そういうこった」
その瞬間、何も考えられなくなったわたしは外に出ていたアルムの呼びかけに応えるのに精一杯だった。
大通りまでこれば街灯もあり、かなり明るい。
その端についたところでここまででいいと言ったのに逆に『最後まで送らないのもおかしいだろー』と結局真前までついてきてもらってしまった。
あーあ、まったく。
「今日はありがと、急におじゃましちゃってだいじょぶだった?」
数歩歩き、我が家のドアの取っ手に手を掛けながら言う。
少し手前に手繰る。
「いやいや俺たちが誘ったんだから」
「あはは、まぁそうだけどさぁ、・・・・・ね、またおじゃましてもいいかな?」
「当たり前。いつでも来いよ、お袋も言ってただろ?」
「うん、わかった。シンシアさんたちにもよろしくって」
更に引き寄せる。
「はいよ。んじゃそろそろ俺も帰るわ」
「あっ、まっt・・・・・」
少し閉じる。
「ん?何か言ったか?」
「・・・・・・・・・・・・い、いや。別に」
半分くらい開く。
「そか?んじゃあまたな」
「あ、・・・うん、また」
開いた。
暗がりの中、さっきまで隣にあった背中がだんだんと小さくなっていく。
はぁ・・・・・・・・・。
中のリビングまで行くとお母さんがお茶を飲んでいて、お父さんはもう眠ったようだった。
「ただいま、お母さん」
「おかぁえりアイリちゃん。だいぶおそかったわね~」
時計を見やると思っていた以上に遅くなっていたようで心配をかけてしまったと謝る。
「うーうん、無事ならいいのよ~」
それをお母さんはだいぶ予想通り反応でやんわりと許してくれたようだった。
もうシャワー浴びて寝なきゃと思う。
普通なら今頃は眠りにつき始めている時間帯。
明日もいつもと同じように仕入れの手伝いがある、お父さんにも迷惑はかけられない。
―――でも、
「ねぇ、お母さん」
誰かに言わなきゃ今にも潰されそうで、
「ん~?なにかしら?」
1人になったら泣いてしまいそう、
「あのね、」
家を出る前にシンシアさんが耳打ちしてきた言葉。
「アルム、彼女いるんだって」
おかしな点などありましたらご一報お願いします。
コメント&ご指摘待っていますっ!!