2. こっちはこっちで転生者
やーはじめまして。
俺の名前はアルム=バークリー。出版社を経営している親父とお袋から産まれて今年で17才になる。
うん、・・・・・・・の、ハズなんだけど実年齢はたぶん30代くらい。あと異世界出身で住んでた国は日本。元の職業はたしか広告代理店で毎日デスクワークに勤しんでいた、と思う。
・・・・・いやわかってる、俺の頭の心配をしてくれてるんだろ?
ありがとう、多分だいじょぶだ。認知症じゃないと思う。
で、この記憶だけどここで生まれた瞬間からすでにあったもの。はっきりと日本での暮らしは覚えていたし俺からしたらこっちの世界のほうがよっぽど嘘っぽく見えたね。なんていうの?VR・・・だっけ?そんなものを見せられていた感じだった。
まぁ今となっちゃ元の世界、日本での満員通勤電車な生活に戻りたいかときかれれば・・・・・、もうそれは選ぶ気になれないと思う。
この世界にテレビがあるか?
ない。
ゲームもないの?
あるわけない。
そんな雰囲気中世ヨーロッパでおまけにちょっと街の郊外に出ればRPGなんかで登場する
モンスターが跳梁跋扈な日常だとしてもだ。おっとそれはそれで楽しそうなんて思うなよ?この世界のスライムは触れば謎成分満載の体液でもれなく手が溶けるしゴブリンなんてその身長、アベレージサイズで2メートル越え。火を吐くドラゴンはいるけど人間は魔法を使えない。言ってしまえばここは、いろんな意味で前の世界よりずっと不便で生きるのがより難しい所だと思う。あの世界でだってもちろん生きていくのは難しいがこっちでの『生きる』はできなければすぐにでも死んでしまうような意味。とても重さが違う、
あと付け加えるなら、てかなんとなくさっきの話から脈はつかんでくれてると思うけど俺は多分1回死んでいる。どうやって俺が死んだのかその際の具体的な記憶はない。でもさっきまで普通に会社員やってた俺がいきなり赤ん坊から人生リスタートなんてそれこそ生まれ変わり、転生なんて風にでも捉えなきゃそれ以外の落としどころが見つからないんだもんなぁ、実際に起こってるわけだし。まぁ死因については死に際の記憶がないってことなら事故に巻き込まれたかなんかして一瞬のうちにプチッ、とかそんなもんかな。わーお、我ながらなかなかスプラッタな死にざまだ。
でもな?だからこそ、なんだ。
失うはずだった命をこの世界が繋いでくれた。
そしていまは俺の周りにいてくれる人たちもいる。
何人か紹介するとお隣のジャクリーンさんとは13年のお付き合い。元料理人の彼女はなぜか夕食を大量に作る。それこそ業務用ってくらいに。それがわりと毎日うちの食卓におすそ分けという名目でなだれ込む。
が、とんでもなく美味しいのでもちろん文句のつけようなどない。強いて言えばその至高の料理のせいでついつい食べ過ぎてしまうことくらいだ。
よく利用させてもらっている仕立屋のニコラは次男なのに兄のロナウが店を継ぎたがらず、
黙って騎士団に志願。
そのせいで強制猛勉強させられているとか。不憫の一言だ。
てか、騎士団って要は軍隊みたいなものでもちろんさっき挙げたモンスターとだって戦わなくちゃいけない危険もある職なのになぁ・・・・・、そんなに家継ぐのが嫌なんだろうか。
2個年下の肩に近い高さで髪を二つに絞って垂れ目が涼しげなマキナちゃんはほぼ毎日学校が終わると公園で愛犬を散歩させている。
この世界にも学校みたいなシステムがあって15歳までの義務教育。日本と同じだ。
その中でも俺は生徒会っぽいとこに所属しており、その時の後輩だが未だに仲良くしてくれている。会えば挨拶立ち話ってくらいだけど。ちなみに俺の見立てだとDはかたいね!ゲフンゲフン・・・・・。
あーやだやだ。この年になるとそんな下世話なことしか考えられなくなるんだもんなぁ、さすがオジサン。いや、っていっても見た目は十代そこそこだけどさ?その学校じゃ、それなりにうまくできていたと思うし。
暴行により5年前まで牢獄で暮らしていたカルタスさんとはマキナちゃんのよくいる公園で知り合った。
あきらかに190はある身長にガタイの良さがシャツ上からでもまるわかりの極太低音ボイスでいきなり話しかけられたときは細胞が1000個は死滅したはず・・・・・。
しかしてその内容は『あの、・・・・・靴ひもほどけてます、よ』ってなんでやねん。
インパクトが強すぎてもう逆に気になり話してみるとなんとまぁ、いい人。
暴行事件の件も一方的に絡まれ、『やめてくださぃぃ』と軽く腕で抵抗しただけで3、4人が吹っ飛んだとのこと。なにそれこわい。
そこに偏った見間違いをした証言者のせいで2年の懲役。なぜ司法はこの終始丁寧語の優しい巨人を信じてあげられなかったのだろう。
出所した今は孤児院の先生、ごくたまにある休日すらもボランティアの化身となって公園のゴミゼロへ
心血を注ぐ日々である。
たまに話も聞いてもらっている。
酒場のアルバイトステファン、俺の1つ上の彼はこの街の西にある農村出身で、働きながら公務員の資格を目指し勉強している苦学生。さすがにこの世界全体、なんてことはないはずだけど少なくとも俺たちの住んでるヘルヴィオール公国はなんと日本並みの治安の良さだったりする。だからこそなのか国家資格(この国の公務員は国家資格のみ)の取得もめちゃめちゃ難しいんだけど逆に取れてしまえば食いっぱぐれは一生ない高給職。田舎の家族に楽させてたいんだって。
まさに絵に描いたような孝行息子!俺もよくバイト代落としに酒場に通っている。
あ、この国ではアルコールは16才からいいってことらしい。でもあんまり得意じゃないから俺は酒場に行っても食事だけね。
まあ結局のところ何が言いたいかと言うと、俺はもうこの世界で生きてしまっている。
涙なしにさよならを言えそうなやつはいないってことかな。なら俺だって1秒だって長くこの世界で生きて見せるさ。
そんなこんなで今は学校も卒業し、親の出版社の手伝いなんかも少しづつ手伝いながらいつかは自分でも
前世の記憶を活かして企業でも・・・・・・って、ああ。
1人忘れてたよ、幼馴染。
親同士が知り合いで歩き始める前からの幼馴染み。
俺が事情を唯一話したことのある八百屋の娘、アイリーン。
最初に話したときは『何言ってんだコイツ?だいじょぶか?』みたいな顔してたけどな。
って、そーいえばなんでアイツのことは思いつかなかったんだろ・・・・・ん?あ、いやわかったそういうことか。
多分、アイリってやつはさ、俺にとってこういうやつだ。
『そこにるのが当たり前すぎる家族みたいなやつ』
いやーそりゃそうか。言葉を話し始めるよりも前から幼馴染やってんだもんな、そんなの今更な話か、ははっ。
「うーん、それにしても・・・」
それにしても暑いよなぁ。気温にすれば30℃あるんじゃないか?今日。さっきから歩いてるだけで汗がリミット知らずになってるぞ。この世界じゃあクーラーなんてもちろん存在しない。だというのにこの国の人たちは今日も変わらず働き続ける。そりゃ日本に限らず昔は地球にだってそんな便利なものもなかったろうけどさ、やっぱエアコンありきで夏冬過ごしてきた温室育ちの現代日本出身の俺からしたら汗を流しながら働いている街道の皆さんには頭が下がっちゃうよね。
「じゃあそんな労働者、八百屋の娘の売り上げの貢献に行きますかね」
そんなことを一人ごちながら俺は今日も笑顔で熱波を吐き出し続ける太陽っぽいお天道様の下を姉弟同然である幼馴染の店へと向かうのだった。
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