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1. わたしの朝、これがいつもどおり

どうぞよろしくお願いします!

「むくり」


わたしたちみたいな職種、生産者が別にいてそれを買い付けてから販売する小売店の朝はそこらへんの烏骨鶏よりよっぽど早い。 恐ろしいくらい健康的な時間帯に体がかってに起きちゃうのはもう習慣になってるからなんだろうなぁ。


『ぅおーいっ!起きてるかアイリぃーっ!!』


そして下の階からの大砲みたいな声でまだ呆けていた残りの意識も起き上がる・・・ってまぁお父さんなんだけどね。

朝からこんな声を出せるお父さんは野菜ばっかり食べてるのに体もオークみたいな大きさで、初見の子どもに話しかけようものなら号泣待ったなしの立派な体格。でも八百屋って商品の搬入とかで力仕事も多いし当然だったりするのかな? わたしはいつも付いて行くだけだけど。

今日だってほら、近所迷惑スレスレの雄叫びでわたしを呼んでいる。はぁーそろそろ行こうかな、うん。

脱いだパジャマは・・・まぁ帰ってきてからでいっか、ベッドにぽいだ。 衣装タンスから白のブラウスと、このロングスカートかな。パパッと着替えて下に降りる。 遊びに行くわけでもないしそんなに(めか)しこむ必要もないよね。一応仕事だし。


「はーい起きましたよーっと」


「おう!んじゃいくかっ!」


いや早いって!せめて顔くらい洗わせてほしい。

しかしそれだけのちょっとした時間すらもお父さんは待ちきれないようで、顔を洗ったあと家用の靴から外行のものに履き替えているうちにお父さんはドッガーンと、木製の扉を壊さんばかりに押しのけて一足先に外へと出ていく。

あぁ、なんでこの人は常時テンションぶっちぎりなんだろ・・・・・。

そしてわたしは安心する、父に似てなくてよかったなーと。 だって似てたら女子プロレスラーだ。

似てると言われるのはいつもお母さんの方。

今はまだ両親の寝室ですいよすいよと寝息を立てている母は娘の目から見ても贔屓目なしでマジで若い。

亜麻色の髪や顔立ち、割と小柄なとこも母親似だとよく言われる。 あと将来的には、いっしょに歩いていると姉妹に間違えられるほどの若々しさもバッチリ遺伝しててほしい。

なんてお父さんに対して失礼なことを考えながら店舗兼住宅を出て朝の市場に向かう。 わたしは手ぶらだけどお父さんは一度に商品の野菜を運びきれるくらい大きな荷車を引きながらだ。 ゴロゴロと重厚な音を立てるそれは何も積んでいない今でもわたしが運ぶには精一杯といった感じだろう、商品を積めばもはや微塵も動かない。 そしてそれを事も無げに引いて行くお父さん。


「ん?どうした?」


・・・まぁ、でもやっぱりそんなことができるのもお父さんだからなわけで、ちょっとはかっこよかったりするんだケド。


遠目の散歩コースくらいの距離にある町でもそこそこ大きめの広場、ウェルミニス大広場。 ここがわたしたちの目的地。 わたしたちが起きる頃にはすでに朝市が開かれ、今はあちこちで競りの喧騒が聴こえてくる。

まず朝イチで取り引きが終わるのはだいたい魚。生物だしあんまり長い間は置いておけないからね。 海はそんなに遠くないけど日の昇りきらないうちに輸送してすべて売り切らないと夏場なんかは特に痛みが早くなるから早く捌きたいのだ。

それをわかってて買い手も当然わたしたちより少し早く起きなきゃいけない。 がんばれ。


「俺はあっちで仕入れてくるからアイリはフルーツをいくつか頼んだぞ。終わったらまたここで集合だ、ほれ」


チャリーン、軍資金ゲット。 革製の財布に仕入れ用のお金を受けとる。


「はぁーい。フルーツってわたしが選んでいいの?」


「あー、まぁ適当でいいがある程度の品定めはしといてくれよ?」


「いやいやそれくらいは流石にやるでしょ。とりあえずこの金額分は買ってくるね」


さて、仰せつかったミッションはフルーツ。

わたしが選んでいいって言ってもわたしが食べる訳じゃないんだし難しい選択かも・・・。何でもいいが一番困るのだ。

一応近くの棚をみてみるけど、なにか目新しいもの・・・もない。

うぅーん?これは何を買うのが正解?仕入れるだけ仕入れて売れ なかったらうちの丸損になっちゃうわけだし・・・・・。 まぁ無難な物にしとこうかな。

よし、この店で。


「すみません、このアポルトとジャスタの実をこれだけ

ください」


「あいよ。じゃあ占めて24000ギルだね」


適当に目についた店で適当な商品を手にとって恰幅のいいおばさんに指定された額はなかなかの適正価格。 市場のなかだと結構値切りなんかも効くんだけど、わたしは得意じゃないし十分納得できる料金だったので早めに会計を済ませる。


赤いアポルトの実ははナイフで切ると中には黄色の甘ぁい蜜。 ジャスタは1つの枝に沢山の実がついていて赤紫の鮮やかな薄い皮の下に白い果肉、絞ってジュースにしてもおいしいんだよね。


どっちもよくあるフルーツなので売る側としては売れ残りも考えなくていい商品かなーとおもう。 今日も暑くなりそうなので多目に買っておく。


それともう1つ――


「あ、あとこのオリミアの実も、2つお願いします」


ついでにいくらか余った仕入用のお金でその果物も買っていこうと思う。 誰かさんが好物だと言うそれを。


「おや、それだけでいいのかい?少しなら負けるから大口で買っていったらどうだい?」


あー店頭販売用だと思ったのかな、いやこれは違うんだ。


「これはわたしが食べるようですから、2つで十分です」


「そうかい、残念だねぇ。はい230ギルね」


これだけで十分。 1つはわたし、もう1つは・・・。


「今日も来るといいな」


まぁ、どうせ来てくれるって知ってるけど。


一日20回、家から目を凝らしても霞むくらい遠くに見える王城から鳴る鐘の1回目、仕事始めの鐘が鳴る頃にはお父さんの取引も終わって今日の分の仕入れはおしまい。 もちろん全部お父さんが引いていく。 力持ち。


「ところでアイリ、おまえ今日の午後は予定あったか?」


「うーん、いや?特に決まってないしその辺ブラブラしてみようかなってくらいだけど」


帰り道すがらそんなことを聞いてくる。

あー、この切り出しは多分頼みごとがあるって感じかな。 今日は午後から休みではあるけど本当に予定はないのでウィンドウショッピングかなーと思っていたところなので暇と言えば暇だ。

まぁ、言ってごらんよお父さん、お小遣い込なら話を聞こうじゃないか。


「んじゃあ悪いんだけど配達いってくれ。あの時計塔のカタリーナさんな」


「ええっー!時計塔なんて遠すぎじゃない!?」


お父さんが指差す方向に立っている、この辺を見渡した限りで一番高い、細長く塔の形をとっている時計台の足元に住みつつ、管理をしているのがカタリーナさん。

時計なんて誰にでも扱える(直せる)物じゃないから結構大事な役職。 だから仕事にかかりきりになると家でフルーツなんかを届けたりすることだってたまーにある。

で、わたしが行きたくない理由。 遠いから。

高い時計塔だけあってここからでも十分見えるけど目算で家から7、8キロはありうる。 今日も炎天下になること間違いナシの中、その距離を歩けとはか弱いただの街娘であるわたしを殺しにかかってるとしか思えない、なんと非情な父親か。

とゆーかそもそも休日返上で働きたくない。


「まぁそう言うな。 ほら、給料とは別にバイト代だすから」


「うっ・・・・・! い、いくら?」


「そうだなぁー、230ギルで」


「はいっ!? ちょっと安すぎじゃないかな!?」


「確かに安いな~。 まぁオリミアが2つってとこか?」


ん? あれ? オリミア?


「要はお前がちょろまかした分くらいだってことよ」


ななななぜそれを!?

しかし驚愕の表情のわたしにお父さんは呆れたように続ける。


「そんなん品物と数見比べりゃあわかるっての。 こっちは何年やってきたと思ってんだ」


「うぅっ・・・ごめんなさぁい」



その後わたしは罪滅ぼしの名目で休日を丸々潰し、遠路はるばる歩かされたわけで悪いことはできないもんだと身に染みましたよホント。

いやお父さん、お見逸れしました。


って、感じで今日1日が過ぎて行く。 まぁ、わたしの日々なんてこんなもんだ。





















改稿をすすめております。

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