プロローグ. こんな感じの幼馴染
どうぞよろしくお願いします!(*´ー`*人)
「あ゛あ゛あ゛あっづぅーっ!」
あぁ、暑いなぁもう! しかも今日なんて特に最悪。 昨日の夜から朝方までずっと降り続けていた雨のせいでしっとり湿った道路。 そこに思い出したように顔を出したお日さんは顔を出せなかった前日の分を取り返そうとでもいうのか猛烈な自己主張を始めたせいで汗がいっぱい出てベッタベタする。
「こんなんじゃ誰もお野菜なんて買いに来ないよねぇ」
はぁ、とため息をつく。
ここは八百屋、そしてこの店に生まれた一人娘のわたしは今当然のように店番をさせられている。
しかしそこは花も恥じらう18才。今日だってともだち誘って夏らしい小物でも探しに行きたかったのに店長である父親からのこの仕打ち。 まぁ、手伝った売上から仕入れ値を引いた分は丸々給料としてくれるって言うから食いついたわたしもわたしだけどお客さんが来ないんじゃ意味がない。 八百屋のくせになんと色味も実りもない仕事なんだろうか。
「はぁー、もう店番抜けちゃおっかな・・・・・って」
ソイツが視界の端に映ったのはちょうどサボタージュの計画を立案していた時だ。
この店のある大通り、生活に必要なものはここの店々である程度なんでも揃ってしまうというなかなか大きな商店街だ。
そんな道幅は広いけど今日は暑さのせいで人足もいつもよりまばらな道をこの国では、とゆーか大陸の中で自体珍しい黒髪の見知った顔が歩いてくる。
「よっ!こんな天気のいい日に店番か?」
「いい天気って・・・ただ暑いだけでしょ。せっかく来たんならなんか買っていってよね」
まったく・・・・・こんだけ暑いのによく言うわ。 こっちがだれのためにこぉーんな大変な思いしてるとも知らないで。
「はいはい、もとからそのつもりで来たんだからな。 んじゃこのトマt・・・・・じゃなくてトーメルの実を2つくれ」
「えとー、トーメルの実2つで360ギルね。 あとこれはサービス、仕入れすぎちゃったから持ってってよ」
どうせ今日はお客さんも大してこないんだろうし、腐らせるのももったいないから・・・・・っていうのは建前かな。
「おお?悪いな、ってオレンジじゃん!サンキューッ!」
「 だーかーらぁ、これはオリミアの実だって言ってるじゃんっ」
またこれだ。
コイツ、アルム=バークリーとわたしは親同士が知り合いということで、物心がつく前からの幼馴染だ。
小さかった頃はいっしょに川へ泳ぎに行ったりお互いの家に遊びに行ったりもしたけどお互い大きくなって同性といることが多くなっってからはそんな機会も減っている。 今はもうお互いに働いているしなおさらだ。
それでもよっぽど忙しい時でもない限り、こうやって時間を見つけて顔を出してくれる。
そしていつも買っていくのは一人分くらいの生で食べられる野菜で、そうなるとわたしも少し思うところがある。
言葉にしてみれば、だから、まぁ、その・・・・・・・好きになるにはそれで十分なんだってこと、なんです・・・・・・・。 うん、ハイ。
「あー、そうだったなオリミアか・・・ってなんか顔赤くないか? どれ――」
「えっな、なに言って・・・」
そんな余計なことを考えていたからだ。 不意に伸び始めたアルムの指先への反応が圧倒的に遅かった。
「きゃっ!? な、なにっ!?」
「まーそんな驚くなよ熱診てるだけだって。 てかやっぱり顔赤くね? なんか熱持ってる気もするし・・・本格的に調子悪くなってないか?」
「い、いや、そんなことないってば! ほら、昨日まで雨だったのに今日になっていきなりのこの天気でしょ!? ・・・だからちょっと日に当てられただけだってっ。 そんなことよりっ」
そうか?と、覗き込んでいた顔を放す。
いきなりオデコに手を当ててきたアルムにびっくりして思わずのけぞってしまった。 ついでに声も上げてしまう。い、いやでもこれはわたしがどうこうって言うか突然変なことしでかしたアルムがよくなかったはず! それにいきなり触れてこられたら誰だってこんな反応しょうがないってっ!
即席の言い訳のわりに形になっていたその高説にわたしはまだ足りないと別の話題を無理やりねじ込む。
何が足りないって? そりゃ落ち着きだ。 とにかくわたしがスムーズに受け答えができるようになるまでは言葉で押して押して押して・・・って、それは明らかにパニック状態な人なのでは? た、例えるなら新聞のミステリー小説に登場する犯人が聴いてもいないのに勝手にボロボロと自分が犯人である証拠を落っことしていくような間抜けさじゃないだろうか? ・・・・・あれ? なんかすごい勢いで墓穴を掘っているような気がしてきたよ!?
心の中でめちゃめちゃ慌てふためくわたし。 まぁ、そんなことを考えていようと口の動きはこんなときばかりよく働くもんで。
「そんなことよりアルム!いつまでもおれんじ?なんて言い間違いなんかしないでよねっ」
「あー、どうにも抜けないんだよなぁ、こればっかりは」
「まったく・・・幼馴染のわたしが恥ずかしいんだよ」
「はは、ごめんな~?でもしょうがないってば、だって俺ーー」
焦って替えた話題はいつものアルムの言い間違いについて。 ちょっと無理やりになった気がしないでもないけど実際ひとつ前の話題だ。それに、物申したいこともある。
今日はオリミアの実を謎の単語と間違えた。 思い出してみたらトーメルの実もちょっと噛んでいたかも。
そこにわたしは、これもいつも通りのツッコミを入れる。 でもこの文字通りの決まり文句はやっぱり決まった返しがある。
そしてそれがアルムの口癖―――――
この、何百回繰り返したかもわからないやりとりにため息をつく。
「だって俺、異世界人だもん」
これである。
ハハッ、と屈託なく笑う目の前の幼馴染にわたしは内心今日も頭を抱える。
彼曰く、自分は異世界からやってきたとのことだがその話は2才のころから聞いていた覚えがあり、それをいまだに言い続けてるわけだから筋金入りだ。 何年間も聞かされているわたしとしてはもう何か病気を抱えているとしか思えない。 いやわたしはホントにその線を疑っている、冗談抜きで心配。
「はぁ・・・・・店番がんばろ」
アルムを見送って本日何度目かわからないため息を漏らした。
アルムと話していていつの間にか結構な時間がたっていたらしく、空はどこかもの悲しさを感じる夕暮れの色だ。 昼間ほどの暑さはなくなっていた。
通りには人が流れ始め、終業の鐘が時計塔から響き、1日が終わりを迎えようと一瞬ごとに世界は朱を、藍を、黒を空へと鏤める。
そんな通行人のなかにはもちろんこれからその日最後お仕事を務めあげようと夕食の買い出しに主婦の皆々さまもいるわけだ。 やっぱりみんな暑いからって外に出たくなかったんだろうなぁ。この時間帯、ということもあるだろうけどいつもの2倍くらいの盛況っぷりで・・・・・って、あれ? これってわたしの捌ききれるキャパ超えてない?
「早く会計しとくれ!」
「こっちもだよ!夕食が遅くなっちまう」
「子供が待ってんだから!」
「これ少し傷んでるんじゃない?負からないかしら?」
「オリミアはここにあるものだけかい?」
「お釣りが20ギル少ないよっ!」
「しょっ少々お待ちををををををっっ!!???」
まさしくそれは戦争というやつではなかろうか
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「・・・さすがにあれは疲れたなぁ」
お風呂からあがってベッドにへたりこむ。 髪すらまともに拭かずに、なのでお布団が少し湿ってしまった。
そうしてさっきの惨状を思い返すとお風呂でとれたはずの疲れが顔を出しそうになったのでそれは考えないように振り払った。 どうせ考えるならいいことのほうを思い出したいし。
そう思って手近な丸テーブルの上に置きっぱなしだった布袋を手に取り振ってみればカシャカシャと数枚の硬貨が鳴らしあう。 そんな今日の労働の対価に頬がゆるむゆるむとまらない。
「ん、今日はだいぶたまったなぁ」
目が回る忙しさの対価はなかなかのもので、いままで貯めてきたものと合わせてもなかなかの大金だ。
「うーんそろそろかな」
ジャンジャンともう一度、何の気なしに振ってみる。・・・んー。
「いや、一応もうすこし貯めとこ」
そう、誰がいるわけでもないのにひとりごちて袋を衣装ダンスの隅にしまい込む。 まだ目的の用途に使うにしてはまだ足りないような気もしている、ならこれもまた余すところなく貯蓄だ。
そうして立ち上がったついでに部屋の鏡台へ向かって座り、放棄していた髪を拭いて櫛を通すという日々の何気ないそれらを終え、またベッドにもぐりこみ、心の中でその用途を再確認する。
(ずぇーったいお金貯めてっお医者様にアルムの病気、直してもらうんだっ!)
いやマジで。
これがわたしのお金を貯めている理由。
え!? だってそうでしょう!? 異世界って何!? 二ホンってなにー!? それをずっと言い続けてるアルムの頭はどうなっちゃてんのぉっ!?
物心つく前からいつか絶対にそうしようと決めていた目標だ。 そしてそのためにわたしは明日も労苦を積み重ねるのだった。 まるっ。
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