全員共通 始まり
昨日、進んでいた婚約を破談にした。
特に説明できる理由はない容姿や話し方、雰囲気が嫌だったわけでもない。
しかしどうしても結婚したくなかったから。それが理由ではないだろうか。
「なんて馬鹿なの失望したわ」
それは事実、私はとてつもない馬鹿なのだから。
本音を言えば、大嫌いな身内に恥をかかせてやりたいだけだ。
なにも言わないでいるとまた叔母の小言が始まった。
叔母の話はながったらしくてとりとめがない。何度も同じような事を言われる
ならば聞く必要がないし無駄だ。
適当に流して、あいづちと返事をしてやり過ごすとようやく叔母は不機嫌そうに去っていく。
「また叔母さんを怒らせたんですって?」
従姉のシラディーナがあきれたように言った。
そういえば彼女は私の婚約相手が好きだったはず。
妙に機嫌がよさそうなのはこのせいか。
母親によく似て、怒りを露にしないようだ。
――――姉と妹の立場の違いか母方の伯母はあからさまに怒りを見せない。
しかし腹の中では何を考えているのやら。
「両親がいなくなった貴女をここまで大切に育ててくれたのだし、美味しい食事やドレスが着られるのも叔母様がお優しいからじゃない。感謝しなくちゃ」
―――大切に?
「でも私が偶然破談にしたことで喜ぶ人もいるんじゃないかしら?」
いいえ、シラディーナは私が知らない。私の衣服が良いのはきまって他所にいくときだ。
普段は部屋に軟禁され、食事は質素な、貴族が見下す庶民と同じ固いパンや豆のスープだ。
叔母いわく本当はなにも食べさせたくないそうだが、栄養失調が死因になると体裁が悪いからあたえているのだという。
「……そっそうね」
シラディーナは顔を真っ赤にしてそそくさと去っていく。
道中で壁にぶつかったりしていたが、恋をすると皆頭がまわらなくなるものなんだろうか?
―――深夜、私は叔母にボロの服ひとつで外へ出された。
まるでいじわるな継母にこきつかわれるシンデイレラか白雪姫のようだ。
「お前を引き取ったのは無駄だったわ。私を恨まないで、姉さんが異国の島の男なんかに出会わなければこんなことにはならなかったんだから」
私は身内から捨てられたことによる悲しみなどなく。
扉が閉まりようやく開放されたと思う。
ここにいても事故を装って殺されるだけ、移動しなくてはならない。
やはり夜の外はとても冷えて、あまりの肌寒さに身を振るわせた。
そんなとき、ヒタりとしたものが首に張り付いた。
「ひっ……」
気がつけば首にひんやりとしたものがおしあてられていた。
「くくく……」
月明かりに輝くナイフ、シルエットから髪の長い男だとわかる。
ようやく自由になれたのに、こんなところで死ぬのは嫌だ。
―――動いたら殺されてしまう。どうしよう。
〔誰か助けて……と呟く〕
〔とにかく大声を出す〕
〔抵抗しない〕