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焼きそば

 いきなり調査と関係ない話で申し訳ないが、調査地である下北までの道中で何かあったかなと思い返してみて、真っ先に出てきたのが焼きそばである。


 今年は3年ぶりくらいに調査に参加することになった友人のトヨを助手席に乗せて下北に向かう事となった。

 その途中、調査と年末年始の帰省で半年以上寮を留守にすることになるため、飼っているギリシャリクガメとアカハライモリを実家に預けることとなり、馬肉と坂道が名産の田舎町に立ち寄ることとなったのだが。


「良い時間だし何か食ってくべ」

「んだなー」


 無事カメどもを実家に送り届けたのが11時半。丁度いい感じに昼時であった。

 そして調査や帰省などで実家による際、必ずと言ってもいいほど立ち寄る店がある。

 その名もズバリ「焼きそば屋」だ。


「あら、いらっしゃい!」

「こんちゃーっす。大2つねー」

「お時間かかりますけどいいですか?」

「いいですよー」


 この店は私の母が子供の時には既にあったという、なかなかに年季の入った店だ。当時はいわゆる駄菓子屋で、商品の一つとして焼きそばを扱っていたらしい。

 私が子供の頃には既に駄菓子は扱っておらず、今亡き駄菓子屋店主の奥さんらしいお婆さんが一人で焼きそば専門店として切り盛りしていた。

 今は代替わりし、数年前に改装工事を行い、娘さんだかお嫁さんだかは詳しくは知らないが、一人の女性が店主となっている。


「おでんもらうよー」

「はーい」


 さて、注文した焼きそばが出てくるまで、我々はおでんを食べて待っていることにした。

 この店、焼きそば専門店ではあるがおでんも取り扱っている。

 具は卵・ちくわ・油揚げ・豆腐・大根の5種類。お値段は卵が50円、他は全て30円である。出汁は煮干しと塩だけというシンプルで透明度の高いものとなっているが、これが結構病みつきになる。

 おでんには世間一般では練り辛子、青森県では生姜味噌が人気だが、ここの店に限っては一味唐辛子が非常に美味い。


「はーい、お待たせしましたー」

「お、来た来た」

「腹減ったー」


 大皿に山盛りにされた焼きそばが運ばれてくる。

 そのボリュームと言ったら、軽く2玉以上はあるのではないだろうか。

 モチモチした麺の一部にカリッカリに焼き目が付き、2つの食感のコントラストが堪らない。具はキャベツが申し訳程度に入っているだけで、後はせいぜい紅生姜が乗っているくらい。麺を食す料理にゴチャゴチャとした具材はいらないのである。

 しかしこの焼きそば、肝心の味付けはほとんどされていない。強いて言うなら麺の香ばしい香りが食欲をそそるが、それでも味としては物足りない。

 そこで登場するのがテーブルに置かれているソースである。

 こいつをドボドボと、これでもかと言うくらいにかけ、咽るほど味を濃くして食べるのがここの常連のやり方である。

 そしてバリバリと音を立てながら焼き目のついた麺を頬張り、顎を痛くしながら食す。

 これぞ我がソウルフードである。


「はーい、コーラサービスねー」

「あ、ありがとー」


 店主がご厚意でくださった、今はあまり見かけなくなった瓶入りのコーラで口の中の塩分を洗い流す。

 そして再び焼きそばとソースで口を満たす。


「かーっ」

「たまんねぇな!」


 流石は元駄菓子屋の焼きそば。このジャンキーな感じが最高である。

 その人気っぷりと言ったら、近くの工事現場のにーちゃんたちが毎日のようにテイクアウトで20食を買っていく程である。

 しかも大学生が焼きそばだけで腹一杯になるほどのボリュームで、330円というお手軽価格。ちなみに普通盛で280円である。流石元駄菓子屋。こんなの常連にあるしかないじゃないですか。


「うっし、ご馳走さま!」

「美味しかったよー」

「はーい、いつもありがとうございます!」

「いえいえこちらこそー」


 そう言って500円玉を渡すと、200円が返ってくる。

 ……おでんを食って、焼きそば大盛り食って、ジュースまで飲んで300円である。

 この人はいつもこうなのだ。

 何度も正規料金を払うって言ってるのに「学割学割!」と言って大負けに負けてくれるのだ。こういう気風の良さも昔ながらの店って感じがする。

 それにしても、こんなにサービスされたら社会人になってもちょくちょく顔を見せたくなるじゃないか。そしてその時こそ、きっちりお金を払ってやろうと思っている。


「よーし! 気合充填、腹も一杯!」

「下北までかっ飛ばすぜぃ!」


 古き良き佇まいの焼きそば屋を後にし、我々は一路下北に向かうのだった。


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