映画『型破りな教室(Radical)』(2023)は尾の白かったのか?
皆さま、よき映画ライフをお過ごしでしょうか?N市の野良猫、ペイザンヌです。
まず、コレを観る前にボクはX(旧Twitter)でこう呟きました。
【「型破り」「枠にとらわれない」──そういった言葉は好きですが、そういうのは決してルール無用とかあまのじゃくということでなくもっと内面的なところにあるのでしょうね。
ハタシテ2時間後にボクは何を教わることになるのか?──楽しみです】
結果としては、かなり学ばせていただきました。わずか二時間で小学校の六年分くらいの教えを受けた気分でした。どちらかといえば「ルール」自体をもう一度皆で一緒に見直してみないか?──そんな意味での「型破り」だったように思えましたね。
ぼっくの先生は〜(フィ〜バ〜)
あらしをまっきおこす〜
( ´θ`)フィーバ~♪
──のオープニングが懐かしい方もいると思われますが、日本でいえば北海道の大自然の中で育った水谷豊さん演ずる北野広大先生が東京の小学校へやってきて奮闘する大人気TVドラマ『熱中時代(1978〜1981)』を思わせるような──まさにそんなキャラの主人公、フアレス先生。なのでとてもとっつきやすく好感が持て、彼を見てるだけでもあっという間の二時間だったといえます。
演ずるは4年前アカデミー作品賞を獲った『コーダ/あいのうた(2021)』で、こちらでも音楽教師を演じてましたエウヘニオ・デルベスという俳優さんですね。前任の女性教師が出産休暇のため、治安の悪いマタモロスへ代理教師として赴任してきます。
学校の帰り道に子供たちが死体を見かけたりする──そういった日常は日本とはあまりにも環境が違いすぎる学校ですが、子供であることは同じです。そして“教育のあり方”という根本的なものに境界線などはない──最終的にそう感じさせてくれる作りです。ホントに“少しハード”な中にもほんわかしたものがある『熱中時代』を観てる感覚でしたね。
洋画で学園ものといえば『いまを生きる(1989)』や『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち(1997)』などを思い出させますが、実はボクとしてはどこか『ニュー・シネマ・パラダイス(1988)』を劇場で観たときの感覚に一番近かったかもしれないんですよね。
まあこれは余談ですがあの「ひろゆき」さんがことあるごとに絶賛する『いまを生きる』ですが、もちろん良い作品だと思うのです……が、ぶっちゃけ「グサッ」とまではボクの場合刺さらなかった記憶があるんですよね。いま観てみるとまた違うのかもしれませんが。(というか、なんかあの「ひろゆき」さんがこの映画を絶賛してることがなんとなくアンバランスに見えて面白いんですよねw)
義務教育である小学校は誰でも通いますからね。誰にでも一人は多少なり影響を受けた先生、中には人生を変えるほどの先生に出会った人もいるかもしれません。『型破りな教室』はそういった幼少期の原体験、不変なものを描いてるので、ひょっとしたらこの映画、十年後くらいには『ニュー・シネマ・パラダイス』のような立ち位置にいる映画かもしれないな……そんなことも考えてました。さすがにラストの感動・衝撃こそ『ニュー・シネマ』にかなわぬものの、なかなかどうして負けず劣らずだったと言い切れます。とてもセンスに溢れた作品だったなと。
まず子供たちや一般の方より、日本全国の教師をどこか一同に集めて観させるべきではないのか?──と大袈裟でなくちょっと思いました。まあ、ときどき取り沙汰されるトイレで盗撮する先生や女子生徒に手を出すような教師などはまったくもって論外、そういう方はとっとと辞職、いや自首シロと言いたくなりますが。
主要な登場人物としては教師側では主人公であるフアレス先生、でっぷりとした人の良い校長先生、そしてフアレスのやり方に口を出してくる現実的な同僚の教師など。
生徒側ではくず拾いをやって生活してる父を持ち数学に類まれなる才能をみせる少女パロマ。
兄の犯罪を手伝いギャング集団に入りたがってるも次第に学ぶことの楽しさを覚え始める少年ニコ。
夜勤の母のため妹の面倒をみなければならないが次第に哲学に興味を持ち始める少女ルペ 、彼らが中心となって物語が絡み合います。
ちなみに、図書館のシーン、館員役の女性で実際のパロマさん本人が出演していたというのは見終わってから知りました。
ん〜、やっぱこうして「あらすじ」だけ書いても「よくあるパターンの学園ものなんでしょ?」みたいに見えちゃうんですよね。実際観てみないとわかりにくいかもしれないところが悔しいのですが、ホントに、構成、エピソード、授業シーンで取り扱う題材、台詞回しのひとつひとつなど、実際目にしてみると、かなりセンスのある監督さんだとわかるはずです。
現役の、特に日本の学校の先生にはどう映るんでしょうね。ひょっとしたら、いくら事実を元にしてるとはいえ「映画は映画でしょ」「実際の指導現場はこんなもんじゃない」「少し理想主義過ぎる」などという声も出るんじゃないかと少し頭をよぎります。だからこそ『型破りな教室』なのでしょうけどね。
主人公がやってる「授業」ってまさにボクや皆様の師でもある、まさに「映画」そのものとも似てるんですよね。
まず「面白そうな疑問」を与える(エンタメ)。食いつかせて興味を抱かせる(疑問)。一つ二つヒントを与えたら、後は自分らでその時代背景やテーマは何だったのかを調べて考えてみなさいと教師は退場する(余韻を残し映画は終わる)──
映画も本当に面白ければ「あれはどういうことだろう、どういう意味だろう」と勝手に自発的に探究心が湧いて調べますよね。
ボク自身も毎回冒頭に書いてる「時代考証や舞台設定」「タイトルの意味」など探ってるうちに、興味がどんどん枝分かれしていき、感想を書いてたつもりがいつの間にか「歴史」や「国語」「英語」はたまた「物理」や「哲学」などのページを読んでることもしばしばw
間違っててもいいからまず自分の正直な感想、考えを言ってみなさいという。むしろ間違えなさい、そうすれば一歩正解に近づく。新たに、次の映画の感想を書く時に繋がる創造・発見もある──とかね
「さあ、誰が一番最初に間違える?」なんて台詞も、一番最初に海に飛び込む「ファースト・ペンギン」を思わせ、ニヤリとしましたね。
教師に机などいらないと教卓を取り払う。挙手して発言させない。歴史の授業のつもりが哲学へ、気がつけば物理へ、臨機応変に移していく。始業・終業ベルにはテープを貼り鳴らないようにする。子供たちが興味を持つうちは、ソレ全て授業──
先ほども少し触れましたが全体を通して観るとちょっと「理想主義」的じゃね?──なんてことも少しだけ頭をかすめるんですよ。けれど劇中で授業に取り上げる「船はなぜ浮かぶのか」という「浮力問題」がそれをうまく補っているな──とボクは思いましたね。
「理想」を浮力だとすれば、「現実」は重力。そのバランスをとることで初めて舟は海に浮かび、前へと進める……
映画では生徒の一人ニコがその問題に興味を示し、自発的に穴のあいた小舟を修理し、ラストは海へ流します(ここは詳しく書くとネタバレになるので細かくは書けませんが)──そのシーンを見つめながらボクはそんな風に考えていました。
もちろん仕事などのうえで“現実主義”は必要だけど「じゃあ何のためしてるの?」という屋台骨ってやっぱ“理想主義”に内包されてると思うんすよ。
世の中にはマイナスの力も多いけど、それを上回る微かなプラスの力が活力となりエンジンとなるわけで、それってなんじゃらほい?──と間接的に示してくれる人こそ本当の“先生”なのかもね。
まあ、ペイザンヌとしても何のためこんな文章書いてんだろ?──なんてマイナスの力に吞み込まれることも時にありますが、それを上回る「読んでくれる方」というプラスの力でモチベーションを保ってる部分もありますからね(とか言ってみたw)。
「井戸に落ちたロバ」問題も「浮かび上がること」を示唆した問題でしたね。そちらの答えは実際に映画を観てくださいませ。
エンタメとしてもかなり満足で、自分にしては珍しく、ホンっト久々に「“思わず”腹から笑ってしまった」瞬間もあったのよね。
( ゜∀゜)・∵. ブハッ!!
ア…(-_-;)ス…スミマセン
──みたいなw
また、こんなシーンも印象的でした。
問題児であるニコがカバンに何か怪しいものを入れてると気付いたフアレル先生は「俺がその中身を見てしまえば報告しなければならない義務がある。だから俺は見ない。おまえが決めてくれ」──そんなやりとりをする場面は、実際に教師をされてる方であれば人によって賛否があるでしょう。それが良い方に転ぶとは限りませんからね。それでも「信頼」という上ではこれほど力強い言葉もなく「あなたならこんな場合どうする?」──と語りかけてくるようでした。
このような秀逸な場面がはっきり言ってまだまだあります。お世辞抜きに素晴らしい作品です。
昨年、年ベス一位に選びました『哀れなるものたち(2023)』(感想はコチラから→映画『哀れなるものたち』は面白かったのか?)のように「これ以上か? 以下か?」みたいな、ようやく年間ベストの「柱」となる作品ができた感じですね〜
そういえば何か思い出すな?──と思ってたら昨年公開された『スーパー30/アーナンド先生の教室(2017)』、これも少し似た感じの映画なのかな?
こちらの映画はインドが舞台で、
「数学の天才でありながら、貧しい家庭に生まれたためにケンブリッジ大学への留学を諦めざるを得なかった男性。やがて彼は、極貧家庭の子ども30人を選抜して無償で教育を与える私塾を開く」──てな内容だそうです。こっちでも公開されてたんですが見逃してしまいました。配信来たら観ますが、もし観たよという方がいたらぜひ感想、教えてくださいませ。
では、また次回に!