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変装探偵 柳沢凛   作者: 神楽屋
プロローグ
1/16

僕は、とある小さな探偵事務所の前にいた。『柳沢私立探偵事務所』とある、寂れてもいなければ、新しくもない、小さなところだ。


このようなところに、一応ギリギリ現役大学生の僕が来ることとなったのか。一言で言えば、働きにきたのである。昨日、たまたま、駅にあった助手募集という貼り紙が目に入ったのだ。


一流大学に入った訳でもなく、コネもない僕に、この就職難のご時世で職口がある訳がなかった。五十社受けて全部アウトというテレビのようなことを現実に体感していた。


もっと勉強して一流大学に行くか、むしろ大学に行かないべきだったと思っても、もう遅い。一応、経済学部には入ったが、どうも、この大学レベルだと、正直技術者のが優遇される。もう、選択肢がフリーターか、ガテン系の職につくかしかない。


そんなときに、助手募集の貼り紙は、最早救いの手であった。何故か、月収30万と、給料が格段によかったのだ。少々、条件があったが、そんなこと、気にしている暇はなかった。他にも、狙う人はザラにいるだろうし。


速攻で電話を掛け、面接をお願いしたのである。


そして、今に至るわけだ。


僕は一つ、深呼吸すると、事務所に入ろうとした。が、入る直前に妙な大声が聞こえた。


「失礼……しました。」

「うおっと!!」


すると、事務所から一人の男性が泣きながら帰っていった。高級そうなスーツを着て、僕とは格が違いそうな男性だったが、あれはまさか、志望者か?


ということは、彼は面接に落ちたということか……。あくまで外見ではあるが、どう考えても僕よりも知的そうな彼が落ちたとなれば、僕はどうなのだろうか。


いや、そんなことを考えている暇はない。もう僕は、背水の陣と言っても過言でもないのだから。これで、落ちてフリーターになったら、もう今、住んでる部屋の家賃が払えない。今の築三十年のボロアパートを手放さなくてはならない。


「失礼します!!」

「どうぞ。」


僕は、一つ間を空けて、事務所に入った。


そこは、周囲の壁際は本棚で埋められ、中心には二対のソファーが、左手の奥にはデスクとパソコンがあった。


「名前は?」

立花宗良たちばなむねよしです。二十二歳、一応、大学生です。」

「ふむ、昨日の立花君であっているな。条件もクリアか。さ、早く座りなさい。」


探偵と思われる男は、中心のソファーに座っていた。おそらく、さっきの人の面接後のすぐだからだろう。まぁ、間髪いれずに僕が入ったのだから、当たり前だけど。


僕は、彼と向かい合うように座った。正面から見ると、彼は妙に細かった。神経質なのだろうか。


「私が、当探偵事務所の探偵、柳沢隆一やなざわりゅういちと言う。一応、これから面接ということではあるが、私は何も聞かない。君が、思ったことを言いなさい。」

「え? それが面接!?」

「はい、スタート。」

「な!?」


こ、これが探偵の面接か? こんなの、初めてだ。一応、会社の面接は受けたことがあるけど、あれはむしろ、質問攻めだった。むしろ、これは逆?


「……ないのか?」

「あ、いえ!!」


早く、何か言わないと、このままでは問答無用に落ちてしまう!!


「あの、ここってかなり本がありますけど、どんな本があるのですか?」

「ふむ、大体が専門書だが、小説もあるな。詳しくは覚えていないが、大体、千冊以上はある。」

「へぇ、色んな種類のものがあって、どれがどうなのか、僕には全く分かりませんよ。」

「そうか。」

「……。」


ヤバイ、質問がない。とにかく、この部屋で何かを探さなくては。僕は、周囲を見回したが、質問できるようなことは何もなかった。ものが、本しかないのである。


なら、多少礼儀知らずになっても、何かを聞くまでだ。


「どうして、探偵になろうとしたのですか?」

「ふむ、この世には困っている人があまりに多いからな。私はそんな人を救いたいと思ってな。」

「なるほど……。」

「……。」

「ご、ご結婚とか、なされているのですか?」

「……先程までの面接者と違って、随分と図々しい奴だな。」

「いやぁ、あはははは。」


生活かかってますから、とは言えない。とにかく、何とかして、この局面を切り抜けなくてはならないのだ。このゴールの分からない面接をクリアしなくてはならないのだ。


「まぁ、いい。妻が一人に娘が一人だ。二人には、迷惑かけてるよ。」

「へぇ、やはり、こういう職業だと、迷惑を掛けるのですね。」

「……あぁ。それで、質問は他にあるのか?」

「え!? えっと……。」


正直に言えば、この時点でほとんど無くなりかけている。好きなものは何ですかとかいう馬鹿なことを聞くわけにもいかないし……、あ、あれがあるか。


「あの、柳沢さん。あの、条件は何だったのですか? 男性でがっしりとした体格で、どんなでもいいから大学を出るか在学中であることって。」

「あぁ、実は、助手もあるが、本当は用心棒が欲しかったのだ。だから、男性のがっしりとした人である必要があった。それと、流石に大学出ていないのは、色々と問題があるのでな。一応、確認しておくが、君は出ているよな?」

「就活中だったんで、一応、在学中です。」

「ならばよし。」

「……。」

「……。」 


完全に聞くことがなくなってしまった……。これ以上何を聞けというのだろうか。というか、結局、何をすれば合格なのだろうか。こんな、理不尽な面接は初めてだ。


「もうないのか?」

「あ、いやぁ……。」

「ないというならば、失格ということになるが。」

「え!? ちょっと待ってください!! あと一つ、あと一つあります!!」

「そうか、なら、それで終わりだ。」


と言っても、何を言えばいいのか、分からない。いや、正確に言えば、本当に一つだけ、聞いていいのかどうか分からないが、疑問はある。これは、とんでもないくらい無礼な質問だ。さっきの、多少の礼儀知らずというものではない。


だが、これしかないだろう。どうせ、ここで切れたら、もう消えてしまう縁だ。なら、相当無茶をしても、何とかなるだろう。


「あ、あの……。」

「何だ?」

「あなたは、本当にここの探偵なのですか?」

「……は?」


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